【第13回】会社は社員で生きる-(株)富士国際旅行社 社長 市原 芳夫氏(東京)


会社は社員で生きる~社員とのかかわりの中で、社長としての自己実現をはかる~

(株)富士国際旅行社 社長
市原 芳夫氏(東京)

 (株)富士国際旅行社(市原芳夫社長、東京同友会会員)は、新宿にある社員20名ほどの旅行社です。安い航空券やパックが氾濫する業界の中で、度重なる経営危機を乗り越え、「労使見解」(中小企業における労使関係の見解、中同協『人を生かす経営』所収)に学び、社員1人ひとりの成長を支える環境づくりを通して、専門的な旅、テーマに特化し、参加した人が感動できる旅作りを提供しています。

社長になった途端6人の社員が辞めた。同友会で「労使見解」に出合った。

 会社設立は1964年。市原氏は1969年に入社し、1990年に社長になりました。非同族の3代目です。当初はいやいや始めた社長業でした。当時、業界は利益なき低価格競争のバトルが続き、社員にとってもこのまま旅行業が続けられるのか不安な中にありました。

 同友会への入会のきっかけは、社長になった年に続けて6人の社員が辞めたこと。1982年の第2次オイルショックのころに、40人いた社員が13名になるという大危機からようやく会社が立ち直りかけた時のことでした。それまで、「人は選んで、管理して、厳しくしごく。できて当たり前」という発想でいたため、社員は夢を持てずに辞めていったのです。

 同友会での「労使見解」との出合いは新鮮でした。経営者としての自分にこそ弱点があることに気づき、その後、同友会の労働委員会や教育委員会に積極的に参加し、社長の役割とは何かを学びました。

経営理念を確立し、経営者の基本姿勢と役割を確立

 度々の危機の中で学んだことは、旗印(理念)がない軍団は崩壊するということでした。経営全般に明確な指針が必要と、全社討議で数年をかけ、経営理念を作成。理念にもとづく営業の基本戦略、業務心得、お客様対応、旅づくり基本ポリシーなどの方針、計画を作成しました。就業規則・諸規定も整備しました。そして、環境、福祉、教育などをテーマに、社員と共に、顧客に役立つ・テーマのある旅づくりを追求し、お客様の満足、感動、収穫を追求してきました。市原氏は「経営は手法よりも経営者の基本姿勢が何よりも大切」と言います。

 市原氏が「労使見解」から学んだことは、(1)公平感、(2)公正さ、(3)人間的・合理的な処遇を行うこと、(4)専門家としての教育を目標を持って取り組むこと、(5)実力や個性に見合った出番を作ること、(6)働きがいのある仕事を与えること、(7)仕事の展望を示すこと。こうしたことを「現状では無理でも一歩一歩方向性を示して、社員と共に努力して積み重ねていくことが重要」と言います。同社には労働組合もありますが、月1回の昼食会を兼ねた労使協議会でコミュニケーションをはかり、共通の目標を確認しあっています。

社員とのかかわりの中で、経営者としての自己実現をめざす

 社員の努力や成長については、年1回、社員の投票による「がんばったで賞」を選び、表彰しています。また、同社では、委員会制度をつくり、全社員が新聞編集、顧客管理、OA研修、サービス向上、環境・マナーなどのテーマで全社員が参加するなど、参加型経営を全員で追求しています。

 市原氏は「社員には仕事を通して社会的役立ちをもとに自己実現をしてもらいたい。人としていい人生を送ってもらいたいし、お客さんに喜んでもらいたい」と言い、「こうした社員たちとのかかわりの中で、私自身も経営者としての自己実現を追求していきたい」と語ります。数年前には、同氏の長い旅の経験をまとめ『スイス アルプス 山歩き・花紀行』(本の泉社)、『スタディ・ツアーのすすめ』(岩波ジュニア新書)を出版するなど活躍しています。

会社概要

創業:1964年
資本金:3780万円
年商:9億(05年度実績)
社員数:25名(うちアルバイト6名)
事業内容:海外旅行、国内旅行
所在地:東京都新宿区新宿2-11-7 第33宮庭ビル4階
TEL:03-3357-3377
FAX:03-3357-3317
URL:http://www.fits-tyo.com/