【第67回】越前漆器の職人を守る~小さくても高付加価値体質に (株)末広漆器製作所 社長 市橋 啓一氏(福井)

市橋社長

(株)末広漆器製作所 社長 市橋 啓一氏(福井)

 美しい越前漆器が並ぶ末広漆器製作所ショールーム1

 越前漆器を製造販売する(株)末広漆器製作所(市橋啓一社長、福井同友会会員)の年商は約2億円で、5年間横ばいです。しかし粗利は38~39%を確保。市橋氏が同友会での学びを通じて「売上よりも付加価値の高い中身の濃い体質と、問題点や課題が良く見える会社づくり」を実践してきたことが成果に結びついています。

 市橋氏が事業承継してから10年。商品や客先が大きく変化し、漆器業界の市場は半減しました。
 同社では、このことを予測し、漆器にこだわらず事業分野の多角化を目指し、5年前から始めた商品の表面をコーティング加工する分野では、桶などの木製品や陶器の表面処理、ごく最近では加賀友禅の和装織物の表面加工、建具への塗り加工など、幅広く扱うようになりました。
 
 また、漆器にこだわらず陶器やガラスを含めた総合的な展示場も社内につくってユーザーへのトータルな食器の提案にも取り組み、漆器の販売にもつながっています。

社員の生活基盤守り安心感ある会社に

美しい越前漆器が並ぶ末広漆器製作所ショールーム2

 一昨年からは想定外の厳しい経営環境に見舞われましたが、「大きく(売上至上主義)しなくて、よかったと思っています」と市橋氏。

 同社の「本質的な存在意義」は、「当社で働く人すべての生活の基盤を守る。安心して働くことができる会社をつくる」。「そのために何ができるか、どうしていくべきか、いつも社員と確認しあっています。そこが当社のイノベーションの源泉、力になっている」と言います。

 漆器は本来高価なものですが、時代の流れのなかで価格競争も激しく、今では低廉な100円均一商品なども氾濫しており、製造は中国などにシフトし、不況も重なって産地自身が職人を切り捨て、モノづくりを放棄しているのが現実です。たとえば、漆器づくりの「生地挽き」工程の仕事ができる職人は、一番若い人で75歳という状況です。

 「当社にかかわる職人も二人辞めてしまいました。つくれる環境があってお客様に商品を売ることができる。職人をきちんと残す、育てるテーマは一企業では限界があります。企業や産地全体、行政も手を携えてモノづくりの職人を守る、育成していくことが大切」と強調する市橋氏。

 「利益の取れる仕事は楽しいですし、なにより社員もヤル気が出ます。利益をきちんと確保すれば会社に余裕も生まれ、次の展開への力にもなります」と抱負を語っていました。

会社概要 

設 立:1978年
資本金:1500万円
社員数:14名
所在地:福井県鯖江市西袋町41-3
TEL:0778-65-0295