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【第11回】「なぜ?」を考えることが経営者の仕事 (株)京蔵 専務取締役 京兼 慎太郎氏(香川)

 京兼専務 (株)京蔵 専務取締役 京兼 慎太郎氏(香川)

 社屋1  讃岐うどんの本場香川県で「味と香りにたくして未来に繋ぐ和心を伝える」の経営理念の下、醤油(しようゆ)とうどんだし製造の京兼醸造(有)と販売の㈱京蔵で、専務として経営に携わっている京兼 慎太郎氏(香川同友会会員)。
 京兼氏は代々受け継がれる醤油作りの技・だしの抽出技術、そして産地にこだわった天然材料による商品と技術を元に、三代目として新たな市場への挑戦をしています。

こだわる味作りは職人の思いと科学性が大事

 代々伝わる職人の技が光る会社に京兼氏が帰ってきたのは6年前。その後、職人と共に汗を流して一緒に「おいしい」を追求していましたが、仕事の中身に疑問を持つようになりました。「『なぜ』そういう手順でしなければならないのか?」「『なぜ』この産地の原料になっているのか?」。

社屋2  職人に「なぜ」の答えを聞いても、返ってくるのは「昔からこれだから」「これが旨いから」と、それがどうした?と言わんばかりの答えばかりでした。
 このことに京兼氏は、味作りはこんなに答えのない世界なのか…と愕然したと言います。今後、お客様から「なぜ?」と聞かれたらどうするのか。このままでは、お客様に対応できない時が必ずくる、答えにならない答えしか言えない会社なってしまうと危機感を募らせました。

 そこから 専門書・技術書を読み漁り、産地の農家の人と話をし、漁師さんと一緒に漁に出たりして、なぜそういう作り方をしなければいけないのか、どうやったらもっと美味しい物ができるのかなどのさまざまな答えを科学的に解明していきました。また、細菌の研究から人体のメカニズム、醤油やだし製造の作業効率の向上と品質の向上を科学的に説明できるように、勉強と検証を重ねていきました。
 その後、食品偽装の問題が起き、製造技術や衛生管理・原料に至るまで問われ、答え続けなければ取引ができない時代になり、京兼氏の取り組みが正しかったことが証明されました。

 社内では学んだ内容を社内で共有することを考えました。具体的にはマニュアル作りと社内教育です。
 まず、気温や湿度、細菌の繁殖種類のデータを取り、自社の風土や気候に適した商品作りのマニュアルを作りました。また今まで社内会議や朝礼といったものがありませんでしたが、朝礼・部署会議・全体会議等をし、そこで社員に知識を身につけてもらいました。
「醤油やだし作りの95%は科学的に証明できます。その95%を社員全員に覚えてもらうことができました」と京兼氏は言います。

 マニュアルを作るとワークフローの細分化が可能になりました。
 「一日の仕事の中で職人が本当にしなければいけないものは、科学で証明できない5%です。あとの95%はマニュアルやデータを活用することにより、だれでもできるといえば語弊がありますが、覚えれば明日からでもできます」と京兼氏。
 しかし、今までは職人の仕事のどれが職人技で、どれが明日からでもできる仕事なのかがわからず、職人に重い負担を掛けていました。その結果、新規の依頼や分析・クレームの対処等に大幅な時間が掛かり、改善を提示できませんでした。
 
 今では5%の部分を尊重し、誇りをもって仕事をしてもらいながら、時間的なゆとりが生まれ精神的に楽になったのか、職人たちが先に進むことや新しい改善にも積極的にも参加してくれるようになりました。

 「一番大事なのは 社員全員が積極的に新しいことに取り組んでくれる社風を築くことこそが経営者にとって大事なこと」と京兼氏。「そのために負担を軽減する、ゆとりをつくる。すると前向きに考えるようになります。『きつきつ』だったら、耳も口も頭も全部ふさいでしまうのが人間だと思いますから。」

低価格・短納期・小ロットの追及こそがお客様の要望に答えること

商品1  京兼氏は、つゆ(汁)を卸しているうどん店の店主に「なんとか自社の良い商品をお客様に提案できないか」と相談してみましたが、「色々とやりたいけれど、お金がねぇ…」「時間がねぇ…」と、すべて断られ続けていました。そこで「自分がうどん店の店主だったらどうだろう」と考えました。

 「店主は日々の営業でヘトヘトだ。そこから新しいことをしたいと思っても元気が出ない。そして低い客単価を地道にそして黙々と続けているのだから金銭面にシビアなのもよくわかる。その上、版代や大量の枚数を印刷し在庫を抱え、我社でも大量のロットの見積を受け取る。 それでは、先に話が進むわけがない。じゃあ、うどんのつゆを卸すだけでなく、ブランディングやデザイン・印刷から貼り付けまですべて自社で賄えないだろうか? しかも低価格・小ロット・短納期!」そんな安易な思いからスタートしました。
 目指すは小ロット短納期! しかし、この目標をクリアするには、ブランディングの経験もない、デザインのことも知らない。なによりも短納期が実現できるのか? 在庫をどうするのか?と、たくさんのハードルがありました。その問題を一つ一つクリアしていき、数年でなんとか形になるまでに至りました。

商品2  生産ラインは、社員をベースに機械を充てるように工夫しました。
普通、さまざまな充てん機を8台購入して合計で30人必要であれば、30人の人員とその製造スペックに見合った仕事量が必要です。同社は全部稼動すれば30人必要なところ、実際の社員は8人しかいないため、充てん機のほとんどは稼動しません。そこで逆転の発想をし、8人がフルに効率よく充てん機を使ってもらえるように製造スケジュールを組んでいます。 
 機械償却などを考えると、機械を24時間使うほうが理論上効率は良いですが、そう理論通りいきません。稼動させようとすると、営業の人員を強化して値段も無理をし、人員も無理をさせて、最終的には理論とは全く逆の、会社に負担を掛ける結果になります。そして、限界ぎりぎりの製造能力ではまず短納期は無理です。
 最終的な効率力が最終的な低コストにつながります。「今ある社員がのびのびと効率よく取り組むぐらいの仕事でないとお客様に短納期や低コスト・多品種は不可能だと思います」と京兼氏は語ります。

 こうした取り組みで、経常利益ベースで3%変わりました。

 また、事務管理費の削減を今年度の目標にしています。「事務管理というのは内部的に掛かる費用であり、実際のところお客様には全く意味をなしません。意味をなさないのにお客様からいただく代金の中に含まれています。これはおかしい。事務管理費をできる限り削減し、お客様への低価格につなげていきたいと考えます。」
 同社の低価格は、「他社と比較して低価格」という考え方ではありません。自社を常に見つめ直し、削減できる部分はきちんと削減し、適正な利益はきちんともらう、健康な低価格という考え方なのです。

ブランディングからデザインまで

 小さな醤油屋が、取引先の商品のブランディングからデザイン・印刷・充てん・在庫管理まで一貫して受注をする形態はあまりありません。
 同社ではデザインは京兼氏ともう一人の社員が主に行います。そこで決めているのは「80点でOKとする」こと。取引先のお客様から「満足度100点じゃないと」と言われたりもします。そういう時はデザイン会社を紹介します。

 80点ぐらいのデザインであればすぐにできますが、そこからの1点1点はかなりの労力が掛かります。0点から80点が1時間で可能であるとすれば80から100点は1週間以上掛かります。同社のデザインは低価格、短納期を実現するお手伝いのデザインであり印刷なので、それ以上は断ることにしています。印刷も同じで、「印刷機といってもコピー機に毛が生えたようなかんたんな代物です。これもお客様に納得してもらいます」と京兼氏。

 「新しく130の円商品を作ろうとしたとします。簡単な試算でいくと、商品が最低ロット3000個になり、印刷ラベル3000枚+製版代+デザイン代+ラベル貼り付け代金が掛かります。当社はいろいろと条件もありますが 最低ロット300個で印刷ラベル300枚、紙代+インク代+貼り付け代で終わります。トータルコストでいうと10分の1ぐらいのコストで新商品の投入が可能になります。その後、量がまとまればデザイン会社や印刷会社にお願いすればいいと考えています」と言います。

 「在庫管理はかなり手間取りました。母体は大正時代からの会社なので、当初はすべて紙媒体管理です。社員にパソコンを使ってデータ化する意欲や前向きな考えは皆無でした。まず、入り口か出口かどちらかから少しずつ年月をかけて、データ化しないといけないと感じました。そこで、納入業者や納入単価からデータ化していきました。それから少しずつ納入業者・注文管理・製造スケジュール・製造管理・棚管理・納品管理・顧客の分析までデータ化してきました。今後はこれのスピードアップに取り組みたい」とのこと。

 注文が入って何分で工場の製造責任者の目に入るのか、それが最終的に何日かの納品遅れにつながります。そこで、事務所の一つのパソコンの画面がそのまま工場で映し出し、事務員が注文をパソコンに記入するとリアルタイムで注文が工場内の製造画面に流れるようにしています。
 現在は、メロディーボタンを同時につけて、聞こえたら確認してすぐに画面を見てスケジュール調整、という流れを5分以内にすることを目指しています。

 こうした取り組みもあり、今ではうどんのだし作りだけでなく、現在の技術を生かし、タレや鍋だし・ドレッシングやジャムに至るまでさまざまな食品の製造を行い、短納期・小コストをクリアして、最近では店舗運営のアドバイスまで依頼がくるようになりました。

満足からは何も生まれない

 京兼氏は、「今で理想の30点ぐらいですね。まだまだ、お客様に対してずさんで、不満ばかりの会社に思われていると思います。そう思わないと何も見えてこないでしょう?満足からは何も生まれないですから。まだまだ至らないと思うから何かを変えなければと思えるのです。会社に帰ってきて一番初めに感じた『なぜ?』を一番大事にしたいです。」と語ります。
 今ではお客様からの信頼も得て、口コミで注文が殺到し、受注数が急増。付加価値を高めると共に経常利益の上昇につながっています。

会社概要

(製造)
会社名:京兼醸造 有限会社
創 業:大正8年
業 種:醤油・うどんつゆ・調味料等の製造・卸
従業員数:16名
所在地:香川県仲多度郡琴平町榎井162-3
TEL:0877-73-4234

(販売)
会社名:株式会社 京蔵
設 立:平成14年4月
業 種:だし醤油・調味料等の通信販売
従業員数:3名
所在地:香川県仲多度郡琴平町榎井641-1
TEL:0877-75-1255
URL:http://www.kyogura.com/

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