【第14回】四万十川に負担をかけないものづくり (株)四万十ドラマ 社長 畦地 履正氏(高知)

 畦地社長

(株)四万十ドラマ 社長 畦地 履正氏(高知)

 「四万十川に負担をかけないものづくり」をモットーに、四万十川流域の天然素材を生かした商品開発・販売、道の駅「四万十とおわ」の運営や観光交流事業等を手掛けている(株)四万十ドラマ(畦地 履正(あぜち りしょう)社長、高知同友会会員)。
 同社は高知県西部の四万十川中流域旧3町村(大正町・十和村・西土佐村)が出資する第三セクターとして、1994年にその活動をスタートしました。その後1999年に独立採算を実現し、2005年には自治体の株を住民に売却し、(株)四万十ドラマとなりました。

地域資源を発掘し見極める力

 第三セクター設立当初に職員募集で採用された畦地氏に、与えられた猶予期間は3年間。3町村から補助金の出る3年のうちに事業を軌道に乗せ、次の年からは黒字体質にもっていくことが求められました。
 地域の資源調査から始めた畦地氏は、地元に居を構えていたデザイナーである梅原真氏からの助言もあり、「今ある地域資源に付加価値を付け、知恵を使って商品にする」という産業育成と地域のネットワークの2つの柱で四万十ドラマをつくっていくという方針を固めました。

 1996年からは会員制度「RIVER」を発足し、年2回情報誌を発行するようになります。そして、1997年に生まれたのが、湯船に浮かべるだけで桧の香りが漂う「四万十ひのき風呂」。製材所から出る端材に桧の油を染み込ませたもので、ノベルティー商品として現在までに約50万枚販売し、1億円売り上げています。

かおり米十和錦とお茶

 「かおり米十和錦」は、米に混ぜて炊くだけで新米のようなおいしいご飯になるというヒット商品です。地元では評判の米も、都会では香りがきついと敬遠されていましたが、小分けにしてデザインを変え、「いつものお米に混ぜるだけ」というコピーで2000年に発売。発想の転換で「80グラム200円」という日本一高いお米の販売に成功しました。

 地元のお茶を自分たちで売りたいと、2002年に四万十流域の茶葉だけを使った「しまんと緑茶」、「しまんとほうじ茶」を商品化。2007年にはかつて地元で盛んだった紅茶栽培も復活させ、ペットボトル飲料として県内外で年間35万本を売り上げるヒット商品になっています。

 また、地元の特産である栗の産地を守ろうと、地元産の大きな栗をシロップにつけた「四万十栗の渋皮煮」やペーストにしたものを菓子原料にする等、栗関連商品の開発にも力を注ぎ、地元での雇用の確保にも貢献しています。

新聞バッグ

 「四万十川新聞バッグ」は古新聞を使った環境保全型の手提げ袋。2002年頃から手掛けています。「もったいない」が発想の原点ですが、素材は地元の話題が載った地元紙しか使わないというこだわりがあります。ニューヨークの美術館や高級ブランド店のレイアウトにも使われたことがあり、売上の一部は森林保全にも役立てています。
 同バックは国内だけでなく海外からも注文が舞い込むヒット商品で、顧客の「自分で作りたい」という要望も受け、バッグの作り方と見本セットの販売や、作り方を教えられるインストラクター育成教室も開いています。

四万十川方式 地元発着型産業

道の駅四万十とおわ

 同社が指定管理者となり2007年7月に開業した道の駅「四万十とおわ」。面する国道381号線は1日1000台未満という交通量です。当初、明らかに経営が成り立たないということで、話をしても9割の人が反対しました。行政をはじめだれも運営に手を挙げない中、畦地氏は四万十川の思いを込めた商品が販売できると考え、3年間で黒字にするという事業計画を立て、同社の役員会を説得しました。
 畦地氏は「皆が反対するならやってみる価値がある。しかも1割は賛成者がいるわけだから」と綿密な戦略を練り、オープンの日を迎えます。蓋を開けてみれば初日は当初見込みの5倍の5000人の来場者があり、その後も安全安心な商品にこだわり、生産者の顔が見えるイベント等を続けることで、2007年度は入場者数12万人、売上1億円、2008年度は14万人、1億3000万円と順調に入場者数、売上ともに伸ばし、2010年2月には、開業2年半で入場者40万人を達成しています。そして、同道の駅の活用による地域活性化で、2008年には第22回高知県地場産業大賞を受賞しました。

 また、2008年度からは「四万十また旅プロジェクト」という新バッグ作り等18の体験観光プログラムを経済産業賞の支援も受け、他団体と連携して実施しています。2009年度はさらに10のプランを追加し、5年後には集客1万人を目標に取り組みを強化しています。
 「発信した商品を購入した方が、ここに来てもらえるような産業を構築したい。そうやって交流を広げていきたい」と語る畦地氏は、これを「四万十川方式 地元発着型産業」と名付けています。

ローカル、ローテク、ローインパクト

 このような同社の今日までの成長、発展を支えたのは「ローカル、ローテク、ローインパクト」というコンセプトです。
 「ローカル」とは、四万十川を共有財産に足元の豊かさや生き方を考えるネットワークを構築すること(会員制度・観光産業)。「ローテク」とは、地元の農林漁業にいきづく素材や技術、知恵を生かした1.5次産業にこだわること(商品づくり・産業づくり)。「ローインパクト」とは、四万十川に負荷をかけずに、風景を保全しながら活用する仕組みを作ること(環境ビジネス・風景保全)。つまり、ネットワークと産業と環境が循環しながら地元に着地するという考え方です。
 これに「ローフード」「ローライフ」の提唱を加え、山と川の暮らしと天然素材に新しい価値観をつくり、流域に住む人とともに生活文化、技術、知恵、風景を残しながら、四万十川流域の新たな産業をつくる。同社の存在意義を明確にしたこの理念こそが、ぶれない経営の基盤となっています。

 同社が現在までに地元住民と協力して開発したオリジナル商品は実に30品目を超えます。ヒット商品を次々に世に送り出すその活躍ぶりに「商品開発、地域活性化について教えていただけませんか」という全国からの依頼が殺到しています。
 畦地氏は、これまで培った地域資源の発掘や商品開発、販路開拓等の経験を他の地域の活性化に役立てるため、2008年度から経済産業省の「地域新事業移転促進事業」に参加し、全国を飛び回っています。

会社概要

創 業:1994年 
資本金:1200万円 
業 種:物品販売、商品開発、道の駅運営、観光交流、 ノウハウ移転
従業員数:20名(うちパート12名)
所在地:高知県高岡郡四万十町十和川口62-9
URL:四万十ドラマ / www.shimanto-drama.jp
     四万十「道の駅とおわ」 / www.shimanto-towa.com
     四万十川新聞バッグの作り方 / www.shimanto-shinbun-bag.jp