【第24回】5年、10年先をみて今、手を打つ (株)鳥越樹脂工業 代表取締役 鳥越豊氏(愛知)

鳥越社長

(株)鳥越樹脂工業 代表取締役 鳥越豊氏(愛知)

将来の柱になる事業を今見つけよう

 会社の舵取りに悩んでいる方は多いと思います。(株)鳥越樹脂工業の鳥越氏(愛知同友会会員)は従来の百パーセント自動車関連の下請けに不安を抱き、自社の機能を最大限いかし、脱自動車を行ってきました。その結果、今では自動車関連の売上高はそのままで、売上げ構成比を40%までになりました。

 同社は一宮市に本社を構え、周辺の工場も含め7ヵ所で生産・営業をしています。事業内容は大きく分けて3つに分かれ、1.自動車用樹脂部品の試作製造、2.自動車用樹脂部品のオプションパーツ(小ロット・多品種の量産品)、3.健康美容機器、この3つを設計から製造まで行っています。

 鳥越氏は、26 年前にサラリーマンからこの世界に飛び込みました。図面からどんどん各部の部品ができあがっていく楽しさを知る中で、これが自分のやりたいことだと確信し、1984 年に独立し創業しました。

一社依存で、一気に95%の仕事がなくなる

 日本の自動車産業の成長とともに同社も順調に伸びて行きましたが、過去2度の大きな危機を乗り越えてきた経過があります。

 1度目は、創業から10年目、社員も売上も順調に増えてきた頃に、95%の売上のある取引先の仕事が一気になくなるという危機を迎えました。ここで「一社依存型」という自社の弱みに気付き、一社だけに依存してきた取引構造を見直し、創業以来、初めて営業に出て顧客拡大を図りました。
 親会社の業界撤退により今までの売上の9割が無くなるという事態が予測されましたが、鳥越氏は「どうしたら社員を守り抜くことができるのか」を最優先に考えました。また、「顧客のニーズに沿ってやっていかなくてはならない。それならこれからは、設計から手掛けて主導権を持った下請けをめざそう」と思ってやってきました。幸いにも自社の新技術や新工法が新規顧客に採用され、売上の回復ができて会社は救われ、現在では取引先は70社に広がりました。

社屋

 鳥越氏は、1993 年という同社がどん底の時に、同友会に入会しました。「同友会での学びからいろいろなことに気付きをされた」と鳥越氏は言います。1996 年度には経営指針書作成講座の第1期生として学び、1997 年度には一宮地区の地区会長となり、中同協全国3大行事にすべて参加しました。この時期は会社と同友会活動が上手くかみ合い、良い関係を保っていました。
 一業種依存型から多業種に転換し、1998 年には銀行からの借り入れも決まり、5ヶ所の借り工場のうち4ヶ所をまとめて念願の自前の本社工場を手に入れることができました。

異分野での事業領域を広める

 しかし、喜びも束の間、移転の直後から2度目の危機がやってきたのです。2度目の危機は1998年頃から始まる試作レスの流れです。当時、同社は自動車業界にほぼ依存した形で試作をメインに展開していましたが、その頃はCADが浸透し、試作品が無くてもバーチャルなテストが行えるようになっている状況でした。
 そこで、一業界だけに絞り込むことも危険だと分かり、自動車オプションパーツの設計・製造、また、樹脂製品をキーワードにさまざまな業界への挑戦を試み、自動車業界内と異分野の両面で事業領域を広めました。

 2度の危機を乗り越える中、経営状態が非常に苦しい時期もありましたが、鳥越氏「人員削減と給与の引き下げだけはしなかった」と振り返ります。

設計力にかけた思い~「樹脂」にこだわる

 同社の売上比率は、自動車用オプションパーツ30%、自動車向け試作25%、健康・美容機器の企画製造20%、その他25%と4つの事業を柱に、さらなる多角化をめざしています。最大の強みは、設計力です。そこには「将来のモノづくりは設計からやらないとダメだ」と感じた鳥越氏の先見性がありました。1993年、当時では珍しい3次元CADを一早く導入し、コア技術へと成長させてきました。
 設計力の向上という戦略が奏功し、業界を越えての高精密なモノづくりを可能にし、現在も事業領域を拡大させています。さらなる多角化を目指す中で、鳥越氏は「樹脂」というキーワードにこだわりを持ってやっています。

「たての経営」とネットワークでの販売戦略

 「ヒット商品が生まれたら、それを掘り下げて、素材・、アイディアなどの応用で全く違う分野の商品開発をしていく、『たての経営』が中小企業の戦略」と鳥越社長は語ります。同じ材料、同じ表面処理を使って自動車のオプションパーツから健康・美容機器「顔のシワ取りのローラー」が生まれました。
 また鳥越氏は、「わが社は製造業ですから、販売はそれぞれ売り方の異なる通信販売会社に依頼しています。販売方法が違うので競合しません。そうしたネットワークづくりも大切」と販売の大切さも強調しています。これらすべてのデザイン、設計からかかわり、それが新しい事業を展開できるというところに繋がっています。

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経験から得たノウハウを生かして付加価値をつける

 愛知は特に、主力産業である自動車業界が全体的に落ち込んだため、リーマンショック以降、経営環境は厳しさを増しています。その中で、同社が経営に比較的安定感をもたらした要因は、現状に満足するのではなく、常に危機感を持ち、企業理念にも謳われている「意・努・夢」の精神を貫いてきた経営者の姿勢にあります。

 「今の日本経済は成熟化しており、少子高齢化もあって、黙っていても市場は小さくなっていきます。そんな中で、お客様も企業も双方が喜ぶものを作る、これがものづくりの原点だと思います。付加価値をつけるといっても一朝一夕で出来るものではありません。当社では厳しい環境に置かれたからこそ、自社の強みを見出し、付加価値商品を生み出し、危機を乗り越える度に経営体質を強化できたのです」と鳥越氏。
 今後の課題は「会社の変化についていけるような社員を育成すること」「同友会での学びを生かし、互いに育ち合える職場づくりをする」ことだと鳥越氏は語ります。

会社概要

創 業:1984年
業 種:自動車用樹脂部品の設計・製作及び試作、健康美容器具デザイン設計製作
従業員数:100人(うち臨時社員40名)
所在地:愛知県一宮市平島二丁目6-20
TEL:0586-77-9191
FAX:0586-77-9016
URL:http://www.torigoejyushi.co.jp/