【第28回】こだわりの少量多品種で勝負 トナミ醤油(株) 社長 宅間孔一氏(富山)

宅間社長

トナミ醤油(株) 社長 宅間孔一氏(富山)

地元・国産食材にこだわった少量多品種に道を拓く

商品

トナミ醤油(宅間孔一社長、富山同友会会員)がある庄川町(しょうがわ)は、岐阜県北部および富山県西部を流れる、一級河川庄川水系にあり、庄川が山間部から平野部に展開しはじめる最初の町です。山々を背景に、豊富な水量を生かした水車による農産物や、木材を加工し木製食器の木地の産地として能登の輪島方面へも納品していた一方、庄川温泉郷としても知る人ぞ知る地です。上流域には、合掌造りで知られる白川郷や五箇山などがあります。

同社は1935年から代々醤油・味噌づくりを行い、宅間氏は4代目。40才で社長を任され、現在47才。この間、宅間氏が開発した商品は200種類をはるかに超え、経営を進める柱になった商品も数多くあります。中でも2年前に開発した「ゆず塩ぽん酢」は、優秀味覚賞(Superior taste Award)の一つ星を獲得した、世界が認めた商品です。国内においても、トップクラスの価値ある賞を次々と受賞しています。

素材を生かすプロ

優秀味覚賞(Superior taste Award)

同じ素材を使っても宅間氏がつくる商品は、価格を超えた「うまい」という付加価値を素直に納得できる品々です。宅間氏はいわば「素材を活かすプロ」。今日では、各地から製造を委託されることやOEM製品も増えています。また、多忙な時間を割いて、同業者の悩みを解決するための「助っ人」としても活躍しています。

とはいえ、最初からそうだったわけではありません。入社当初は、「醤油や味噌はトナミ醤油でないとだめだ」というファンは多かったものの、ご多分に漏れず数値的には先細りを示していました。
宅間氏が工場に入る前の営業時代、回っていた先には旅館や料理屋さんも少なくありませんでした。そこで、仕事が終わってから進んで調理場のお手伝いをさせてもらい、その際に本格的な出汁の出し方を教えてもらいました。このことは、今日の味を極めることができる宅間氏のバックボーンを作り上げています。

地元特産品を付加価値に

商品開発に拍車をかけるきっかけとなったのは、地元特産品に「ゆず」があったことです。いまでこそ「ゆず味噌」の名は全国区ですが、味噌の付加価値を高めるために地元の「ゆず」を結びつける発想は、当時インターネットで調べる限りほとんどありませんでした。宅間氏は「だれもやってないから『これは行ける。すぐにやろう』と思った」と言います。
その後の商品開発も、第1にどこでも作っていない商品であること、第2に地元あるいは国産食材であることを絶対条件にしています。

富山県の東部にある黒部市では、豊かな伏流水を活かした養豚が盛んで「名水ポーク」のブランドで発信していますが、この名水ポークと味噌を組み合わせた「ポーク味噌」を共同開発。また、地元のニンニクを使った自社製品の“ニンニク味噌”を同じ地元の和菓子製造会社に納品して、「ニンニク味噌煎餅」として開発され、販売に至っています。
地元でつくった梨やリンゴなどをジュースに加工しようとした場合、これまでは、長野や新潟に運送費をかけてつくってもらうしかありませんでしたが、「トナミ醤油でもやれる、しかも少ない量でもやってもらえる」ことが人づてで広がり、地元からのそうした相談や委託製造も年々増えてきています。

いま取り組んでいるはトマトジュースです。トマト生産者から、「市場に出せない規格だが、品質は保証する。なんとか生かせないか」と相談を受け、トマトの味を確認した上でわずか500リットルのボリュームですが、トマトジュースの製造を引き受けました。

課題は、販売価格でした。大手メーカーであれば1本500円当たりで市場にでていますが、この美味しいトマトを作る生産者の工夫や努力はそれとは比較になりません。宅間氏は「お互いに長く作り続けることを最も大切にしたい。それには、商品のもつ正味の価値をしっかり消費者に届けることが大切だ」と、高すぎると渋る生産者に対して2時間かけて説得。販売価格を1,000円にすることを納得してもらいました。

製造機器も開発

工場風景

宅間氏は機械を開発するアイデアマンでもあります。それまで他社に製造を委託していましたが、いよいよ本格的に自社で製造しようと決めた5年前、求めるサイズのものがなかったため、メーカーと設計段階から手を組んで1号機をつくりました。その後、改良を重ね、今では15号機相当になっていますが、改良内容は全て宅間氏が作り手の立場から気づいたことをメーカーに指示したものでした。

地元を元気にしてきた数々の実績が認められ、現在、農林水産省の補助金事業として、殺菌消毒のライン化装置を新工場として建設中ですが、この装置も宅間氏と近隣の中小企業メーカーとが設計段階から作り上げている、完全に「オリジナル」なものです。

本業も改善

新商品開発だけでなく、本業の醤油・味噌の製造改善も惜しみません。まず、年々売り上げが少なくなっている味噌は、アウトソーシングすることにしました。発注先にも仕事が増えて相互に良い結果になりました。醤油については、自分が結婚し子供が産まれたことをきっかけに、防腐剤はいっさい使わない、安売りはしないと決めました。極力地元産を使用したり国産にこだわったりする製造方針に変え、材料のうま味を引き出すことによって調味料をとことん減らすなど品質の向上に挑戦しました。今では、醤油だけでも20種類の商品群になっています。

宅間氏は「地元の食材にこだわると少量他品種になる。大手が絶対に入れない少量だからこそ、その食材の持っている価値を販売価格に反映させることができる。小さいことがまさに『強み』だ」と強調し、「だから、社員にもっと楽しんで仕事をしてもらうにはどうしたらよいか、現在考えている」と語ります。

会社概要

設 立:1964年
創 業:1935年
資本金:1,080万円
業 種:食品製造業
社員数:12名
所在地:富山県砺波市庄川町金屋600
TEL: 0763-82-5012