【第4回】将来のビジョンを明確化して差別化 (株)シティーライン 代表取締役社長 田浦 通氏(福岡)

田浦社長

(株)シティーライン 代表取締役社長 田浦 通氏(福岡)

 1983年に創業した納品代行専門会社の(株)シティーライン(田浦通社長、福岡同友会会員)。創業当初はとにかく会社を大きくすることに躍起になっていましたが、約5年後に転機が訪れます。当時11人いた社員の内、5人が同時に退職したのです。途方に暮れていたところ知人に紹介されたのが、福岡同友会でした。入会して、他の会員さんに「理念は?」「経営指針は?」と尋ねられ、その意味すらわかりません。そのとき初めて将来のビジョンがないまま経営していたことに気付きました。

 入会と同時に早速経営指針作成セミナーに参加し、作成後に社内で経営指針発表会を開きました。「『社員の将来の待遇に関する方針』の部分になり、現状とこの先目指す条件を話したところ、社員は食い入るように見入っていました。それから、社員が変わりました。目をギラギラと輝かせて働くようになったのです」と田浦氏。現在では社員「共育」としてさまざまな研修を行い、目標の共有を図っています。

物流と在庫管理をトータルで

社内の様子

 同社は一言で言えば運送業者ですが、単なる配送は行っていません。物流に関する問題の、改善提案も併せて行っています。例えば、在庫管理。メーカーとしては、極力在庫は少ない状態にしておきたいところですが、欠品を出していては機会損失を発生させてしまいます。そのため適正在庫の管理は重要な役割となります。そこで同社は、配送だけではなく商品の在庫管理まで一貫して引き受け、トータルで物流コストを削減する提案を強みとしており、そこに同社の大きなメリットがあります。

 田浦氏の名刺の裏には、「我が社は値引きは致しません」という、通常考え難い文句が掲げられています。続いて記載されているのが「しかし売上高対物流費の削減と物流品質の向上をお約束いたします!」という一文。「値引きに勝る価値をお客様に与えることができる」という自信の表れた文言です。田浦氏は「近江商人の経営哲学、『売り手よし、買い手よし、世間よし』の精神を重んじています。単なる値引きで買い手に利益をもたらしても、自社が存続していける利益を生み出せなければ元も子もない。それで多少値段が高くても、トータルで買い手にも利益が生まれるサービスを考え、提供しているのです」といいます。また省資源配送などに取り組み、地域にも貢献しています。

医療部門への参入

 リーマンショック以降、物流業界も大きな打撃を受けました。同社もしかりですが、唯一売り上げが落ちていない部門がありました。それは歯科材料の配送です。景気が悪くなったから贅沢を控えようという人は多いですが、歯の治療をやめようという人はいません。実際、現在の街中の歯科医院の数は、コンビニエンスストアよりも多いといわれています。
 
 デンタル業界同様、景気のあおりをほとんど受けることがないのがメディカル業界です。そこに目を付けた田浦氏は、医療品・医薬品の配送業務を開始しました。それまで、物流業界は病院には踏み込めないといわれていました。医師は免許さえ持てば左団扇(うちわ)、わざわざ新しいことを取り入れずとも苦労せずもうけることができていたため、閉鎖的な業界になっていたのです。しかし診療報酬改定や薬価改定で引き下げが進んでいます。また医薬分業が主流となり薬価差益も抑制され、医師も厳しい状況に立たされるようになりました。そうして医療業界もコストの見直しを迫られるようになったのです。

 以前はメーカーから医療品・薬剤が集まる時間がバラバラで、非効率であったのに対し、同社に配送を依頼すると一括で受託されるので、毎回決まった時間に届けられるようになります。営業マンも効率的に動けるようになるため、配送費が少々高くても選ばれる企業になりました。また大きな病院になると、院内での医療品・医薬品の運搬にも人手を割かなければならないので、同社は医院内の配送も受託し、いっそうの差別化を図っています。

商品だけでない品質向上

運送車

 「この先『オンリーワン企業』を目指すために必要なのは、やはり他社と違う独自性。創業当初の28年前と比較すると、サービス単価は半額程度にまで下がっています。今後も下がっていくであろうことを考えると、ますます新しいことに挑戦していかなければなりません」と田浦氏。

 同社は現在、品質向上に力を入れています。商品の取り扱いは元より、パートナードライバーの態度等も品質の一つです(パートナードライバーとは、業界用語で請負、外注、あるいは傭車と呼ばれる、配送トラックの運転手のことで、同社では「共に働くパートナーである」という思いを込めて、パートナードライバー(PDさん)と呼んでいます)。メーカーに商品を取りに行った際、待たされてほんの少し苛立った態度や表情を見せただけでもクレームになりますし、時には「運転手が汗臭い」というクレームまでくるのです。そのため冒頭でふれた社員共育がますます重要になってきます。経営指針や理念を、一部の社員だけでなくPDさんにも浸透させ、更なる品質向上を目指しているのです。

会社概要

設 立:1983年10月
事業内容:九州における病院納品、デンタル納品などメディカル業界に特化した納品代行
従業員数:25名
     PD(パートナードライバー)社員110名
本社所在地:福岡県粕屋郡志免町別府北2-1-1
TEL:092-612-0089
FAX:092-612-0161
URL:http://www.city-line.co.jp