【第11回】ダンボールの新たな可能性に挑む 板野紙工(株) 代表取締役 板野 護氏(広島)

板野社長

(株)板野紙工 代表取締役 板野 護 氏(広島)

小ロット超短納期のダンボールメーカー

社屋写真

 (株)板野紙工(板野護社長、広島同友会)の前身は大正時代に創業した「板野製材所」。緩衝包装資材としての木箱用木材の製材が当時の主力でした。やがてダンボールの発展と共に木箱は廃れ、1955年に同社もダンボール製造に着手します。

 大手との競合を避けて、小ロット用の機械を導入。当時国内シェアのほとんどを占めていた「針」を入れる箱や、企画サイズが統一されていなかったコンピューターの連続用紙の箱などを手がけます。朝注文を受けてその日の昼と夕方、一日2回の配送に乗せるという、小ロット・超短納期の仕事でお客様のニーズに応えてきました。

付加価値を求めて一貫生産体制に

 そんな同社に1980年、22才で入社した4代目の板野氏は、「小ロット・超短納期だけではいずれ行き詰る。プラスアルファの何かがほしい」と悶々とする日を送ります。この憂いは当たっていました。現在、大手は小ロット・短納期に対応するために、大量に作って倉庫に保管。注文があれば必要数だけ持っていく、という戦略をとっています。

 板野氏が目をつけたのは、箱そのものの設計と、板紙を加工する木型づくりです。早速先進県の大阪で修行、3年間で技術を身につけて会社に帰ります。1985年、箱の設計・木型づくり・箱づくりという一貫生産工程を作り上げることができました。特に箱の設計力には自信をもっています。

 また木型づくりでは、技術を職人固有のものにしないように徹底してマニュアル化。現在の組み立ての主力はパートさんが担っています。

設計力が認められて

 構造設計力には自信のある板野氏。持ち味は、強化ダンボールを使わずに、それ以上の強度のあるものを作ること。発泡スチロールが衛生関係で敬遠された1996年には、人工心肺の包装用ケースを緩衝材とともに受注。また、運送業者からの依頼で、円筒形ダンボールを組み合わせて紙管緩衝材を製作。これは500kgの重量に耐えるもので、特許に近いクラス6の認定を受けています。いずれも、小ロットで設計力の高い同社は次第に注目を集めるようになってきました。

 一方、さらなる可能性を求めて、ダンボール家具などさまざまな汎用商品をつくります。ビジネスフェアなどで展示すると好評ですが、商品としては広がりませんでした。

デザイナーとのコラボが新たな展開を生む

ダンボール家具

 ある日、同友会の仲間から菓子箱を注文されて悩みます。それがデザインでした。知り合いのデザイナーの協力を得て何とか完成にこぎつけました。これが「ひろしまグッドデザイン賞」の大賞を2005年に受賞します。この経験からデザインの大切さを痛感。デザイナーを自社に迎え入れ、これまでの開発してきた商品のデザインを見直すことが、新展開の原動力になりました。

 以後、テレビで取り上げられたこともあって、温めていたアイディアがつぎつぎに花開きます。同社の製品が「循環型社会を先取するエコ型商品」として認められたのです。紙製の「鳴子メガフォン」もひろしまグッドデザイン賞を受けたヒット商品に。幼児用の机などのダンボール家具やノベルティ商品、広島東洋カープの公式グッズなど多様な商品を展開し、百貨店などでの展示イベントでも大好評を受けています。最近では、同業者からの設計依頼も増えています。

 「設計力とデザイン力が認められてきたのを実感します。ダンボールはやわらかくて安全、しかも再資源化が容易です。このダンボールのすばらしさを生かした商品開発を今後も進めたい」と板野氏は力強く語ります。

経営指針づくりのリーダーとして

社長

 板野氏の同友会入会は2001年。翌年に配属された支部広報委員会で、新連載「技と心」の取材先に指名されました。板野氏は、「『ウチに来てもらって、何を見、聞いてもらったらいいのだろう』と考えたたことが、経営を深く考えるきっかけになりました。早速、経営指針セミナーに参加し、もやもや考えていたこと、経営者として足りないところが整理できました」と語ります。自社の強みと弱みを徹底的に分析することで、戦略の練りなおしが可能になりまた。

 財務も徹底して見直し、経営の安定に努めました。以後3期6年間、支部の経営労働委員長として、自らが指針作りで困ったことをクリアする「経営指針入門講座」を構築するなど、支部の経営指針作りのリーダーとして活躍しています。

今後の展望~業界のコラボでさらに前進を

 長く同業者団体でも役員をしてきた板野氏。「自社の強みを活かし、自社にはない他社の強みと連携することで、より商品力の高いものができるのではないか、と考えています。自社の理想の姿はトータルパッケージコーディネーター。設計力とコーディネート力で他社と協働して、市場に打って出たい。やがては組織そのものが設計力、コーディネート力を持つ頭脳集団ができるといいですね」と板野氏は語ります。

会社概要

創 業:大正年間
設 立:1985年
資本金:1,000万円
年 商:1億円
事業内容:紙器・パッケージの企画・デザイン・設計・製造、木型の製造、ダンボール製品の製造
従業員数:13名(パート含む)
URL:http://www.itanocw.co.jp/