【第14回】農業の新しい価値を創造 (有)広野牧場 代表取締役 広野 豊氏(香川)

広野社長

(有)広野牧場 代表取締役 広野 豊氏(香川)

県内トップクラスの飼養数

牛

 1979年に父親が、20頭から牛を飼い始めました。そして2001年に法人化し、(有)広野牧場(広野豊社長、香川同友会会員)を設立しました。2006年2月に高松市内の工務店を退職し、後継者として広野氏が就農しました。同年度、規模拡大を行い、現在成牛約260頭(年間生乳出荷量約2400t)・子牛(F1)約50頭(年間子牛出荷頭数約210頭)と県内トップクラスの飼養数となりました。「父親と私と2人とも代表取締役なんです。早く父親に好きなことをしてもらえるような体制にしたいです」と広野氏は言います。

消費者への情報発信「酪農教育ファーム認証牧場」

酪農教育ファーム

 まず同社が重点を置いているのが「酪農教育ファーム」です。酪農教育ファームとは、酪農関係の全国機関と指定生乳生産者団体で構成された酪農指導団体である社団法人中央酪農会議が、牧場の持つさまざまな資源を教育的に利用し、総合的な学習や、子供の生きる力を育む教育の実践の場として、当牧場を含め全国約300カ所の牧場を指定しているものです。
 
 現在、同社においても地域や都会の人々に牧場や農場を教育の場として開放し、農業・農村のよさを知ってもらうとともに、農業の多面的な機能を理解してもらうため、普及・啓発活動を展開しています。
 
 同社では、牧場や農場を子どもたちの学びの場として開放し、自然や動物とふれあうことで食といのちの学びを支援しています。地域の子どもたちや普段牛乳を飲んでもらっているお客様、教育関係者を牧場に受け入れ、牧場でしか体験することのできないさまざまな体験をしてもらい、自分たちが普段何げなく食べている「食べ物」の生産現場を理解してもらうとともに、子どもの生きる力を育む心の教育や生命尊重の教育、食の教育を支援する取り組みです。同社の酪農教育ファームには、子どもから高齢者までいろいろな方が来場します。体験した際は、「良かった」「良い経験ができた」などの感想がありますが、なかなかリピートにつながらないのが現状です。最近では口蹄疫等防疫の関係で、一般の方の受入が難しくなって来ていますが、地域の方はお孫さんが帰省した時等に牧場へ牛を見に来たりしています。

 「牛の鳴き声、におい、早朝の機械の音など、基本的に酪農は『迷惑産業』にあてはまります。その中で『広野が言うのだったらしょうがないと言ってくれ、隣接地を買わせていただき、ここまでの規模にさせてくれたのは、体験の受入をしていたからだ』と父は言います。また、私たち経営陣は外部へ出かけ、いろいろな方とお話をする機会がありますが、スタッフはあまりその機会がありません。体験で来たお客様と質問等いろいろな話ができる機会はとても重要だと考えています」と、広野氏は言います。

観光農園スタート

 2008年、農業の更なる可能性また、新しい新規就農の形を求めて(株)森のいちごの営業を開始しました。 広野氏の父親である広野正則社長をはじめ、地元農家や地主さんが出資し、観光農園事業を始めました。代表を務めるのは元・広野牧場の社員、本田さんです。この農園は当社・広野や本田さん、出資者の方々の思いが詰まったある種のコンセプト農園です。農業に携わる人間や情報の全てが集まる農場にしたい。農業の面白さややりがいが体感できるような農場に・・・。この農園は金融機関から各生産法人、消費者、町の職員などさまざまな人々が訪れています。

森のパン屋さんオープン

森のパン屋

 2010年4月には、新たな取り組みとして「森の石窯パン屋さんleche(れーちぇ)」をオープンしました。たくさんの自然に囲まれながら、のびのびと育った国産小麦・一生懸命生きている天然酵母で作ったパンを薪を使用した手作りの石窯で焼き上げています。自然の力に支えられながら手間と暇をかけたパン作りをしています。

酪農の新しい価値を創造

スタッフと共に

 世界的な異常気象、また人間の食料、家畜の餌となるトウモロコシがバイオエタノールの原料となり、飼料価格が高騰しているにも関わらず、製品販売価格に反映されていません。昨今、農業が注目され新規就農を希望する人が増加する一方で、各地域の農業に対する政策や制度はあまり代わり映えがなく、畜産業界は大変厳しい時代を迎えています。しかし、同社では今の時期をチャンスと捉え、牛たち、スタッフと共に育て育ち合い、酪農の新しい価値を創造しています。

 新しい価値の一つとして、来夏に向けてジェラートショップをオープン予定。店長には現在牧場で仔牛を担当している女の子が就任予定です。

 牧場の仕事は朝5時から夜9時までの間でシフトを組んで動いているため、スタッフとなかなか時間を合わせることができません。広野氏はできるだけ昼食をスタッフ全員と食べるようにし、報告等情報共有を行っています。また、パン屋の仕事では日々の日報にてスタッフと情報を共有し、月に一度は全員で全体ミーティングを行っています。

本当に農業をやりたい人が就農できるように

 「本当にやりたいことは、『土地も無い、お金も無い、技術も無い』そんな若い子たちでも農業経営ができるように支援すること。新規に農業を始める人たちが、農畜産物を生産して販売するだけでは、経営を安定させるまでに時間がかかりすぎます。経営を継承した人間とは違う経営方法をとらなければ、なかなか追いつけません。今までに無いアイデアで新しい農業の未来を切り開く一端を担わせてもらいたいと思います」と、広野氏。いちご農家×観光(いちご狩り)、米麦農家×パン屋さん、酪農家×ジェラートショップ等、アイデアは膨らみます。同社が展開する観光農園「森のいちご」やパン屋「leche(れーちぇ)」、ジェラートショップはそんなノウハウを蓄積する場所でもあります。「農業が、将来なりたい職業で一番になるように」。広野氏の挑戦は続きます。

会社概要

設 立:2001年7月1日
資本金:6,120万円
年 商:2億8,400万円
事業内容:1.生乳・肉用子牛の生産・出荷、2.「酪農教育ファーム認証牧場」としての体験者の受入、3.完熟堆肥の販売、4.和牛繁殖・育成、5.森の石窯パン屋さんleche(れーちぇ)の運営
従業員数:8名、パート社員9名
住所:香川県木田郡三木町鹿庭215 
TEL:087-899-0555
FAX:087-899-0555
URL:http://www.hirono-farm.com