【第37回】時代の要求にスピーディーに応える技術力 望月編織工業(株) 営業部長 望月 靖之氏(山梨)

社長と望月氏

望月編織工業(株) 営業部長 望月 靖之氏(山梨)

編む技術を蓄積して

 農業や園芸などに利用される遮光ネットや土木工事の際に使用されるネットの製造販売を手掛ける望月編織工業(株)(望月靖之営業部長、山梨同友会会員)は、他社に真似できない技術を生かして発展してきました。

 戦前、メリヤスの家内工業から出発した同社は軍手や靴下など製造の幅を広げてきました。1955年頃、現社長の代で森林苗圃(しんりんびょうほ:苗を育てる畑)に使用する「遮光ネット」の製造に転換したことが現在の基盤となっています。

 それまでは、藁を利用した「日よけ」が一般的でしたが、遮光ネットの開発により日本全国からの受注に成功します。この開発をきっかけに「編む技術」を蓄積、発展させ、顧客の要求に応える中で農業や土木工事の際に使われるネットの製造に特化してきました。

時代の要求に応えられる技術力

 同社の強みは顧客の求めに応じて、さまざまなネットをスピーディーに製品化できることにあります。ゴルフ場の開発が進む時期には芝の保護ネットを開発し、マンションなどで鳥害が問題となれば、防鳥ネットを製造販売するなど時代の要求に応えてきました。

 環境保全への意識が高まる1990年代には、緑化促進に利用するネットの開発に力を注ぎます。例えば、道路沿いにむき出しとなった土砂やコンクリートの法面を緑化するための「ソウケンフォーム」という袋状のネットを開発しました。このネットには植物の種子と土が注入され、法面全体に施工されます。施工後1年足らずで植物は根を張り、自然な形で緑化が進みます。このネットを利用することで、植物の根の張りにくい岩盤や急斜面、寒冷地でも緑化が可能なため、現在でも広く利用されています。

 さらに、この技術を応用して、「河川の緑化に利用するネットも作れないか」という要望にも対応。川の流れで植物の種子が流出しないよう特殊な加工を施した製品を提供しています。最近では、緑化の際に生態系を維持するためのネットも開発。在来種の種を保持する機能を持たせるため、麻にアクリルを編み込むという日本では同社にしかできない技術が生かされ、出荷を待ちます。

 望月氏は「自社はさまざまな要望を形にしてきたし、編む製品であれば望月編織工業に頼めば何でもできるとお客さんも分かっている」といいます。

ソウケンフォーム

顧客ニーズの収集とクレーム対応

 顧客ニーズの収集には関連する団体のセミナーに参加したり、各地で開催される展示会に積極的に出展するなかで情報を集めます。また、商品は全て日本製品(自社製品)であることや海外製品とは耐久性などの品質面で格段の差があることなど、自社の強みを発信していくことが重要と考え、インターネットのますますの活用も準備を始めています。

 一方、最終ユーザーの声を直接聞く機会は少ないものの、品質へのクレームは「ゼロ」です。ただし施工者が設置方法を誤り、製品の効果が発揮できないということはまれにあり、その際は現地へおもむいて直接改善指導を行っています。

震災後の変化にも対応

 東日本大震災は同社にも間接的な影響をもたらしました。東北地方の果樹やタバコ農家で利用されるネットの受注が激減しました。特に鳥よけ用のネットの受注は震災後3カ月間はゼロになり、その期間は昨年比で3割の売上が減少しました。

 被災地から離れた山梨でも何かできることはないかと考えていた時、「工場の節電のため日よけを作ってほしい」との依頼が入りました。事業所の節電15%を達成するには冷房対策が必要であること、その際に遮光ネットを社屋に張り巡らせば、かなりの効果が得られることが分かりました。すぐに開発に取り掛かり、5週間で完成させました。

 県内大手の製造工場など4カ所から引き合いがあり、屋上や窓に設置すると1日平均して8℃室温が下がり、真夏の炎天下ではそれ以上の効果が得られました。この製品は県外の小学校や博物館にも施工されました。さらに、家庭用にも製品を改良し、今夏だけで600セットを販売。来年には通信販売などで本格的に広げていく予定にしています。

麻をアクリルに織り込んだ製品

技能と技術を確実に継承していきたい

 同社は町内から採用した従業員が活躍しています。定年はなく、本人の希望に沿って働けます。また創業当時からの設備、ラッセル編機を社内で改良、メンテナンスできることが編む技術の基盤になり、現役で製品を生み出しています。社長は「創業してから今が一番厳しい。外に出てお客様のニーズをつかみ、さらに挑戦していく姿勢が必要」と語ります。後継者の望月氏は同友会に入会し、さっそく経営指針講座に参加しました。悩みながらも「わが社は「革新」をタテ糸に「挑戦」をヨコ糸に新たなる価値を創造し社会の進歩発展に貢献します」という経営理念をつくりあげました。

 「技能と技術の継承が課題。新規採用を進めながら、編む技術で社会に貢献していきたい」と語る望月氏は、社長の築きあげた強みをしっかりと受け継ぎ発展させていく覚悟をみなぎらせています。

会社概要

設 立:1972年
資本金:1,000万円
事業内容:農業資材及び土木資材の製造・販売
従業員数:16名
TEL:0556-22-3266
FAX:0556-22-3270
URL:http://www2.ocn.ne.jp/~ymnet200/