【第44回】目ざすは地域密着の家守り(いえまもり)(株)ゆい工房 代表取締役 川原 德昭氏(岩手)

川原社長

(株)ゆい工房 代表取締役 川原 德昭 氏(岩手)

一生かけて取り組みたい仕事か

18年前、(株)ゆい工房(川原德昭社長、岩手同友会会員)を川原氏が先代から工務店を引き継いだ当初は、同社に成文化された理念はありませんでした。川原氏は「本当にお客様に満足してもらえているのか」と自問自答しながら、比較的低価格の規格型住宅と時間がかかる本格注文住宅との間で迷いの中にありました。「これは本当に自分が一生をかけて取り組みたい仕事か?自分たちの目ざす家づくりとは?」。考えた末に出した結論は、「日本の文化や地球環境への配慮を丁寧に施した家づくりが、自分たちの目ざすもの」というものでした。「岩手の気候風土に合った家づくり、そしてあらためて『地域主義工務店、大工の仕事をしよう』と心に決めました」と川原氏は言います。

地に足のついた健全経営があってこそ

そう決めると、自分たちの理念やより所を明確にしたくなります。岩手同友会に入会し、さっそく、「経営指針を創る会」に参加しました。徹底して自分自身と自社の棚卸をし、考えました。何度も何度も考えては書き直し、経営指針ができました。

「このとき、自社の経営理念について深く考えたことで、ぶれない経営を確立できました。地域を愛し、自分たちの仕事への誇りを持ち、地に足の付いた企業経営をする。中小企業が健全な経営をして地域貢献をすることが、自分たちの目ざす方向性だと確信しました」と川原氏。そうして理念が明確になると、次第に理念に共鳴するお客様も集まってきました。

どんな時も経営理念に立ち帰る

直接津波の被害を受けた沿岸地域にも、同社のお客様がいました。宮古、釜石、大船渡と沿岸に支援物資を積んだ車で社員と訪れました。「そこで見た風景に言葉がありませんでした。数日前に引き渡ししたばかりの、新築の木の香りがする家が消えてしまった。あのご家族の安否は。そして泥の海に変わってしまった街の姿。家族を亡くし、家や会社を流され避難生活を送るお客様に対し、何もすることができませんでした」と川原氏はいいます。

数カ月全く仕事が動かない時期が続きました。予定していた受注も持ち越しになり、社内では被災した沿岸地域に行くべき、という声もありました。すぐにでも復興住宅の建築に携わり、支援したい気持ちと、ようやく確立した自社の理念との狭間で悩みました。

「今は自分たちの思いを理解してくれるお客様の仕事を優先すべきではないのだろうか?」。結論は「経営指針を道しるべにし、本来の仕事をきちんとやっていく」というものでした。

「地域のかかりつけ住宅医」になりたい

地域工務店の本来の使命は新築の住宅を建てることよりも、修繕・改修といった小さな営繕仕事やリフォームなどの地域に密着した家守り(いえまもり)です。この復興期に自社の目ざす仕事は、地域の営繕仕事をやることからと腹を決めました。「家にまつわるどんな小さなトラブルに対しても駆けつける。地域の方々の『かかりつけ住宅医』になりたい」。ぶれない経営理念があったからこそ、震災後の新築の棟数をめざす考えから「地域密着の家守り」という考えに、迷わず向くことができました。

営繕仕事はなかなか利益の上がらない仕事です。それを積極的に引き受けていく。「地域工務店として地域の家守りの仕事をこつこつ、丁寧にやっていこう」川原氏はそう決めました。 新たな市場開拓の種は、足元にある。震災という大きな危機に直面し、むしろ地域主義工務店の持つ新たな強みに気づいた同社。「地域にしっかりと根ざした新たなモデルケースとなり、その取り組みを地域の業界全体に広げていきたいと考えています。これこそが土地の木を使い、人の手を使い、知恵を合わせ、岩手の復興へ歩をすすめる、ゆい工房の『結いのこころ』です」と川原氏は語ります。

社屋

会社概要

設 立:1972年
資本金:1,600万円
事業内容:在来木造住宅の設計・施工
従業員数:13名
所在地:岩手県岩手郡滝沢村巣子1162-6
TEL: 019-688-4528
FAX:019-688-4582
URL:http://www.41-ie.com/