【第23回】経営者が変わらなければ始まらない 特別養護老人ホーム梅本の里 施設長 杉本 太一氏(愛媛)

杉本氏

特別養護老人ホーム梅本の里 施設長 杉本 太一氏(愛媛)

経営理念を実践する特別養護老人ホーム

 「高齢者の自立を支えるための豊かな生活環境づくりと地域社会とのネットワークの創造」という経営理念を掲げる、特別養護老人ホーム梅本の里(杉本太一施設長、愛媛同友会会員)。毎年8月に開催する夏祭りには、地域住民ら約3,000人が参加し、今では風物詩の一つとなっています。近隣の幼稚園や保育園との交流も盛んで、まさしく経営理念を実践している同所ですが、ここに至るまでの道程は、決して平坦なものではありませんでした。

設立当初からの確執

 同所は、1991年頃からの「市民の手で託老所を」という市民運動が発祥で、1993年に愛媛県松山市で初のケアハウス、1994年に特別養護老人ホームが開設されました。杉本氏は開設準備室当時から同所にかかわっていましたが、理事同士の対立で法廷闘争直前にまで至るなど、開設1年目から問題が山積みでした。

 他にも、新規事業のための手付金5,000万円が回収不能になったり、介護報酬の不正請求が行われたりと次々と問題が発生し、ますます理事同士の関係が悪化して、施設のきずなは崩壊していきました。

 そんな中で杉本氏は事務長を経て2006年に施設長に就任し、改革に乗り出します。そして、まさにこの年、杉本氏と同所にとっての転機となる、愛媛同友会と出会いました。知人の勧めで入会しましたが、最初は例会を飲み会と考えるような「不良会員」でした。

「不良会員」から脱却、社員とともに歩み始める

社内の様子

 当時はいわゆる介護バブルのまっただなか。その勢いは、「経営哲学の必要性を全く感じないほどだった」と杉本氏は振り返ります。「利用者はお金を運んでくる人」「職員は取り換え可能な部品」という感覚に陥ってしまい、自分のことを棚に上げて職場環境の悪さをなげき、職員に意識改革をせまる日々。改革に乗り出したはずが、気づけば前任者と同じ道をたどっていました。

 ある日同友会の例会のグループ討論で、社員面談を実施して真剣に社員と向き合っているという会員に出会います。経営姿勢について討論する中で、ようやく「職場が変わらないのは、自分に否があるのではないか」と気づきました。ここから、杉本氏の自己大変革が始まります。

 さっそく実施したのが、社員面談です。毎日、複数の職員と30分前後の面談を行いました。聴くことに重点を置き、価値観や仲間意識について語り合うなかで気づいたのが、「社員の就業環境を豊かなものにすれば、自然と社員は顧客を大切にする」ということです。そこで従来の顧客満足から社員満足へと方針を転換し、職員の「愛されたい、ほめられたい、認められたい、役に立ちたい」という欲求を実現できる就業環境の整備に取り組みました。このことで、一度は崩壊したきずなを再構築することができたのです。

社員教育に同友会を活用

 同友会の学びの有用性を確信した杉本氏は、職員の教育にも同友会を積極的に活用しています。毎月の例会をはじめ、「同友会大学」や「経営指針成文化セミナー」を多くの職員と一緒に受講しています。この姿勢には杉本氏の、「職員とともに学ぶことできずなを強め、全社一丸体制を構築したい」という思いと、「自分以外の経営者と触れ合う機会をつくることで、経営について考えられる職員を増やしたい」という思いが込められています。職員が育ってきつつある今、「職員みんなで、設立当初からの経営理念を見直し、新たに作成したい」と考えています。

デイサービス「小梅」誕生

 前述の取り組み、変革の中から、同所の新たな挑戦も始まっています。昨年末、新しいコンセプトのデイサービス「小梅」を開設しました。杉本氏が10年来構想していた「デイサービス」+「職員の子どもを預かる託児所」という今までにない異世代交流の場を実現したものです。モダンな外見の建物は、地域の人が気軽に立ち寄れる開放的な空間を提供し、入り口には駄菓子屋を設置しています。実際に地元の小学生たちも毎日遊びに来ています。高齢者は子どもたちと触れ合うことで自分の役割を見出し、生き生きと活躍しています。そこでは「みんながここにきたら幸せになれる場所」というコンセプトが、職員だけでなく利用者とも共有されているのです。

 この実績が認められ、同所は「えひめ子育てリーダー企業」として、愛媛県知事表彰第1号を受賞しました。

これからの梅本の里

施設内

 今後の課題として、職員とのきずなをさらに強固なものとするとともに、向上心を刺激していく必要性を挙げる杉本氏。今後の目標をたずねると、「職員とともに、高齢者や乳幼児、障がい者が垣根なく、強いきずなで結ばれて集い、支え合う空間を提供していきたい」と力強く答えてくれました。

施設概要

開 設:1993年
事業内容:特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、通所介護事業、認知症対応型共同生活介護事業、居宅介護支援事業、訪問介護事業、事業所内託児所
従業員数:126名(内、パート66名)
URL:http://www.umemoto.ecweb.jp/