【第26回】社員との信頼関係は本音の付き合いから (有)カリヤテント 代表取締役社長 刈谷 範光氏(高知)

刈谷社長

(有)カリヤテント 代表取締役社長 刈谷 範光氏(高知)

 看板やテント製作、イベント設営を手がける(有)カリヤテント(刈谷範光社長、高知同友会会員)は、毎年3月に取引先を招いて全社員参加の経営指針発表会を開催しています。現在でこそ、社員が自ら考え生き生きと働くようになっている同社ですが、指針作成のきっかけとなったのは、突然の労働争議でした。

突然の労使争議

刈谷社長2

 創業者の刈谷氏は、自他ともに認める山登り好きです。1年のうち長い時では3カ月間、ヒマラヤをはじめとする世界の高峰に挑み続けています。創業当初は仕事もなかなか取れず苦労もありましたが、次第に注文も来るようになり、従業員も少しずつ増えていきました。刈谷氏自身が、山登りの時間とそれに必要な最低限のお金を稼ごうとして始めた会社なので、経営課題は当初から、「いかにして自分が山に登っている間、会社を任せられる体制をつくるか」ということでした。

 そうして事業が軌道に乗りつつあった1996年。突然社員から「これ以上、社長のために働くのは嫌だ」と言われ、早出・残業・日曜祭日出勤の拒否をつきつけられます。同社の中で大きな部分を占めるイベント設営は、日曜祭日の作業が不可欠であり、刈谷氏はどこまで譲歩して対応できるかと悩みますが、最終的に「この要望をそのまま受け入れれば会社が存続できない」という結論に至り、廃業を決意しました。

 翌日、刈谷氏は社員の前で廃業を宣言します。経営者として倒産は絶対に避けなければならないが、要望を受け入れていたら2、3年後には倒産する。いずれ倒産するのであれば、今、全員に給料を払って廃業するつもりであること。仕事を請けているお客様にすぐに連絡をとり、他社へ仕事の振り替えをお願いすること、などを伝えました。

 ところが社員は、昼になってもお客様に電話をしようとしません。そこで刈谷氏が、「一体どうするつもりなのか」と言ったところ、「社長、僕らは廃業してくれと言っているわけではありません。廃業されると困るのです」という返事が返ってきました。そこで会社の継続について両者で話し合いが持たれ、刈谷氏は以下の条件を提示しました。

①社長のために仕事をしないこと
②現場は社員でこなすこと
③刈谷氏が年3カ月の登山休暇をとれること

社員はこれらの条件を受け入れ、事業を継続することになりました。

社員一人ひとりの幸せを追求できる会社へ

社内の様子

 この出来事を通じ、刈谷氏は反省します。やはり社長ひとりの幸せ追及ではいけない。社員みんなが幸せを追及できる会社にしなければならない。そういう結論にたどり着きました。どうすれば良い会社にできるのか、と悩んでいた時、ある経営コンサルタントの方、そして高知同友会に出合います。コンサルタントと社内の体制づくりに取り組む中で、まず必要だと言われたのが経営理念でした。刈谷氏は同友会の経営指針成文化セミナーにも参加しましたが、コンサルタントと一緒に社内で検討会を開き、「3力(さんりょく)でサポートします夢空間」という経営理念と、「行動の原点」という行動指針をつくり、経営の柱として取り組みます。

 しかし刈谷氏自身がこの理念に違和感を感じていたため、2005年に再度、同友会の経営指針の会に参加し、社内で「自分たちの将来を考える会」という会議を開きます。会社の将来ではなく、まず自分たちの将来を考えよう。社員一人ひとりに自分の将来の夢を語ってもらい、次に皆の夢の共通点を探しました。最後に、共通の夢を実現するにはどうしたらいいか、ということを議論すると「今いる会社を通じてしか夢は実現できない。そのためには会社をよくしなければならない」という意見で一致しました。

夢を実現する経営理念

経営理念

 さらに議論を進める中で、会社をよくするためには全員が共有できる羅針盤が必要という話になり、その結果できたのが以下の経営理念です。

<経営理念>
「私たちは共に学び、助け、支え、注意し合い、成長し、真心のこもったサービスで、テント・看板・イベントなどを通して良質な商品、技術をお客様に提供することにより、地域社会に貢献していきます」

 そしてその経営理念を実現するために、「行動の原点」として以下の6つの誓いを確認しました。「①私たちは、誇りをもって『カリヤテントに勤めている』と言える会社を目指します。②私たちは、お客様のニーズに応えられる商品を提供していけるよう技術を磨き、努力し続けます。③私たちは、地域に支えられて成り立っていることを心に留め、社会に貢献していきます。④私たちは、一人ひとりの個性を尊重し、相手を思いやる気持ちを大切にしていきます。⑤私たちは、自分と家族の健康と幸せを第一に考え、大切にしていきます、⑥私たちは、全てのことに感謝し、『ありがとう』という気持ちを忘れずに行動します。」

本音で接する

 労使の衝突と和解、社員全員での経営指針づくりを経て、現在同社では、社員がそれぞれの現場で自主的に判断し生き生きと働いています。その秘けつは、「本音で接すること」とのこと。「前に社員に『もっと安い給料で働いてくれたら、もっと山に行けるのに』と言ったところ、『嫌ですよ。もっと休みも給料も欲しいです』と返され、お互いが折り合えるまで話し合いました。社員の生活を保障し、折り合うまで話をすれば、人は生き生きと働ける」、という刈谷氏は経験に基づく信念を持って経営しています。

会社概要

設 立:1981年
事業内容:テント、看板、イベント設営
従業員数:12名(全員正社員)
所在地:高知県土佐市波介1878-1
TEL:088-828-5220
URL:http://www.kariya-tent.com/