【第29回】「原因自分論」でコミュニケーションを考える 日鐵鋼業(株) 代表取締役 能登 伸一氏(広島)

能登社長

日鐵鋼業(株) 代表取締役 能登 伸一氏(広島)

社屋

 日鐵鋼業(株)(能登伸一社長、広島同友会会員)は、福山市で鉄鋼材料を一次加工して販売する会社です。社長の能登氏は、幼いころから同社が遊び場で、高校時代はアルバイトとして勤めました。しかし、「後継ぎ」という意識はなく、関西の大学に進学、そのまま鉄鋼関係の商社を選びました。入社4年後には、大手企業の営業担当を任せられるようになり、1件で数億の取引も当たり前になってきました。とても充実した楽しい日々を過ごしていました。

 ところがある日、「社長(父親)が倒れた。早く後継者として帰ってきて」と、連れ戻されます。幸い、その後社長は回復しましたが、それまで楽しく仕事をしていた反動や1件の取引が数億の商社と年商3億ほどの自社を比較して、能登氏は無気力になっていました。

専務時代の社員との食事会

 当時の同社は、毎朝、社員が暗い顔で出社し、鉄板に腰掛けながら始業時間まで世間話をしていました。朝礼などもちろんありません。「とてもつらい1日が始まる」という雰囲気が充満していました。

 能登氏は1995年、34歳で専務に就任しました。「何とか明るい会社にしたい」と、まずは現場と事務方のトップの社員とを食事に誘いました。能登氏が子どものころから勤めている大好きだった2人に、昔のような笑顔はなく、ただ黙々と食べるだけ。食事を終えるころに、やっと「社長には黙っておくから、何でも話してほしい」と伝えました。

 すると、2人は、まさに机を叩く勢いで話し始めました。そこからは地獄の2時間でした。「新しい機械を導入したが上手くいかなかったとき、社長になじられた」「取引先から、いまの倍の給料を出すとヘッドハンティングされたけど、会社に恩を感じて断った。いまでは断ったことを後悔している」などと言われました。

 話を聞きながら能登氏は、テーブルの下で拳を振るわせていました。両親とも社員を道具のように使ったことはありません。むしろ大切にしていたのに、それが全く社員に伝わっていなかったのです。「しかも、あんなに優しかった2人にここまで言われて、本当にショックだった」と振り返ります。

 そのとき、能登氏は「この会社を笑顔があふれる楽しい会社にしよう」と心に誓いました。

社員との開発会議

社内

 あの苦い食事会から、社員との日常的なコミュニケーションを取ろうと、月に1度の全体会議やボーリング大会を開催しました。1999年には代表取締役に就任し、広島同友会に入会。共同求人活動にも挑戦し、2年目に新卒の女性社員を採用しました。彼女は連休明けの日でも笑顔であいさつし、社内に笑顔が広がるようになりました。

 そして、経営指針の見直しと平行して、「開発会議」を行いました。「開発会議」に名を借りた食事会です。社内を5人ずつ、5つのグループに分け、月に1度、食事をします。場所は社員が決め、「高級焼肉店になったときは、冷や汗ものだった」と能登氏は笑って振り返ります。
 
 最初は社長自ら会社の未来像を語る予定だった開発会議も、いざ始まると社長や会社に対する不満が続出。「会社の未来がわからない」という意見まで飛び出しました。能登氏は「ここで言い訳や反論をしては、2度と社員は口を開いてくれない」と、悪いと思ったら素直に謝り、誤解だと思ったら、丁寧に説明しました。そうして回を重ねていくうちに、徐々に社員から改善案が出るようになりました。
 
 工場内のクレーンの待ち時間をなくすための機械の配置転換や、在庫管理、特に端材管理のシステム化などは、現場の社員でないと分かりません。これらの提案を実現していくと、社員は自分たちの意見を聞いてくれていると実感し、自主性が高まっていきました。そして結果として、単品・多品種・短納期という顧客ニーズにこたえる日鐵鋼業の強みとなったのです。

人間としては平等

 能登氏が大切にしている姿勢が「原因自分論」です。他人や世の中、社内では社員や部下のせいにしてしまうと物事は解決しない。業績悪化も社員に笑顔がないのも、まず、自分の言動を変えることで、解決できないかと行動することが「原因自分論」です。

 「社長と社員は、たまたま、社長や工場長や課長など、担っている役割が違っているだけで、人間としては平等。一人ひとりを大切に思い、年齢や経験に関係なく、間違いだと思えば、素直に謝る、それが労使見解の精神ではないでしょうか。そこをはき違えてコミュニケーションをとろうとすると、大きな失敗をしてしまう」と能登氏は続けます。

 現在では、「計画的有給休暇取得制度」など、少しずつ社員の意見を取り入れながら、幸せを実感できる会社づくりを進めています。経理は公開し、年度の売上・利益の目標が達成できれば、どのくらい自分たちに還元されるのか、社員は知っています。隠しごとのない会社が社員との信頼関係を築く第1歩です。
 
 社員だけでなく、社員の子どもが入社したいと思える幸せあふれる会社づくりに、まず、自社で取り組むこと。そんな企業が地域に広がり、全国に広がることが、地域を活性化させ、安定した豊かな暮らしにつながるという信念のもと、福山支部の仲間と切磋琢磨を続けます。

会社概要

創 業:1971年
資本金:3,000万円
売上高:11億5,000万円
事業内容:鋼材卸、厚板ガス溶断レーザー切断、特殊鋼切断販売
従業員数:26名
所在地:広島県福山市曙町4-16-14
TEL:084-953-0816
URL:http://nittetu.jp/