【第46回】社員と学び、実践し、業績改善 和新工業(株) 代表取締役社長 森 茂博氏(福岡)

森社長

和新工業(株) 代表取締役社長 森 茂博氏(福岡)

 土木・建設現場用の物流機材を製造している和新工業(株)(森茂博社長、福岡同友会会員)。物流機器や、選挙ポスターの掲示板、有害鳥獣の捕獲罠などをオーダーメイドで製造し、またレンタルも行っています。

経営に自信がなく、同友会へ

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 森氏は以前勤めていた会社の仲間数名で集まり、同社を立ち上げ、独立しました。森氏は三代目社長です。就任当初、営業ばかりやっていたので、「経営」というものに自信がありませんでした。知人に紹介され福岡同友会に入会し、すぐにワンシート(経営指針書の簡略版)を作成しました。それ以来最初の数年は、全国行事でもほとんど経営指針書をテーマにした分科会を選んで参加していました。

企業変革支援プログラムを社員と活用

社内

 2010年に初めて企業変革支援プログラムに取り組み、2011年からは幹部社員とともに勉強会を始めました。幹部社員5名にステップ1を配り、それぞれが思うレベルに評価し、その後どうしてそう考えたのか、ディスカッションを行います。2011年に実施した際は、項目によっては社長と社員との評価に大きく乖離がありました。しかし2012年に再度行うと、その差がかなり縮まっていました。森氏の思いが社員に伝わり、理念や現状の共有が強まっていることがわかります。こうして経営指針の浸透具合をチェックし、この勉強会で明確になった課題を、経営指針書に反映させています。現在指針書は、総務経理、営業、製造、技術、業務の5つのグループに分かれて、作成しています。グループの方針を立てた後、課題を洗い出し、それを解決すべく計画を立てていきます。また社員一人ひとりが自身に落とし込んで5カ年ビジョンを作るので、全社員による指針書が完成します。

 企業変革支援プログラムへの取り組みにより最も変化したのは「5.付加価値を高める」のカテゴリーです。社長も社員も共に評価が低かったのですが、これを意識して新製品の開発に取り組み始めました。現在、津波災害避難用階段「のぼーる」が福岡県の経営革新計画事業の承認を受け、橋梁工事の吊足場材「ブラケットONE」がNETIS* 登録製品になるなど、同社製品の独自性に対し評価を得るようになってきています。

*国土交通省が、新技術の活用のため、新技術に関わる情報の共有及び提供を目的として整備したデータベースシステム。新技術情報提供システム(New Technology Information System:NETIS)

社員教育、の前に、社長教育

 社員とともに課題を見つけ、指針を作り、それを実践している森氏。しかし以前は労使見解が腑に落ちていませんでした。「給料をやる側ともらう側、パートナーになれるわけがない」と。社員に対して「なんでやれんのか、それなら俺がやった方が早い」と感じ、仕事を任せきれていませんでした。しかしあるとき、「目の前の相手は自分を映す鏡」という言葉を聞き、気づきます。「こいつと俺は一緒やないか?それなら俺が変わらな、何も変わらん」。こうして、仕事をさせるだけの教育の場を与えていないということに気づき、勉強会を開き、経営指針も一緒に作るなど、社長自身が変化したのです。今では「都会のど真ん中にある会社でも、こんな田舎にある会社でも、社員さんは学ぶ権利があるし会社はその責任を負わないかん」と常々語っています。しかし一番勉強に経費がかかっているのは社長自身とのこと。「共育」のためにはまず自分が学び、経営者として成長しなければならないと考えています。

 その学ぶ姿勢も、社員に最初から理解されていたわけではありませんでした。「『言うてよか会』(文句でも何でも言うてよか!という意味のネーミング)というアンケートをとっているのですが、数年前『同友会関連の外出が多いのでは?』という意見がありました。それに対し、『同友会は経営の勉強のため参加している。今いくつかの役を持っているため参加回数が多いのは事実だが、勉強したことを会社経営に生かしている自信がある』と答えました」と森氏。この意見に限らず、挙がってきた意見全てとそれに対する回答をまとめ、社員に配っています。真摯に意見を受け止め回答し、それを実践する姿を見せることで社員からの理解を得ているのです。「同友会関連の外出が多い」という声も、それっきり聞こえてきません。

全社一丸となった経営指針の実践

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 経営指針書の冒頭は、「社長の決意」です。しかし2012年度の「社長の決意」は3行、「経営の全責任は社長にあります。全社員の雇用を守ります。黒字経営に全力を尽くします」、これだけです。詳細は指針発表会にて、涙ながらに伝えられました。森氏は前年度欠損を出してしまい、充分に賞与を出せないことを詫び、必ず改善させるという決意を語りました。例年銀行の担当者も招いていましたが、そのときはお断りし、社内で徹底的に話し合いました。

 それからの1年、全社員で粗利にこだわった仕事をすることに努めました。またこれまで以上に、社員がコストダウンのためにあらゆる努力を尽くしました。結果利益は大幅アップ。計画の115%、前年度からは120%に伸ばすことに成功しました。「この経験から、経営指針は作って終わりでは意味がない、それを実践して初めて意味を成すということを改めて実感しました。そして何より、社長の思いに答えて全力で実践してくれる社員に、感謝しています」と森氏は語ります。

会社概要

創 業:1973年
資本金:4,800万円
年 商:3億5,000万円
事業概要:各種パレットの物流機器及び鋼製仮設機材の製造・レンタル。有害鳥獣対策品の製造
従業員数:15名
所在地:福岡県朝倉郡筑前町山隈1279-1
URL:http://www.washin-kogyo.co.jp