【第12回】地域に生きる中小企業の役割と誇りを社員と共に 西村博史会計事務所 所長 西村 博史氏(奈良)

西村所長

西村博史会計事務所 所長 西村 博史氏(奈良)

自立して生きることの大切さ

 西村博史氏(西村博史会計事務所所長、奈良同友会会員)の父親は身体に障害をもっていましたが、設計図面のトレースを行う零細企業にて一時は社員を10人以上雇用していました。取引先に頼まれて保証人になったことから、最後には借金を残して倒産。お金のないことの辛さと同時に、人に頼らず自立して生きることの大切さを体感して育ち、「人の役に立ちたい、社会を良くしていきたい、そして経営と生活、権利を守り発展させたい」と、税理士の道を選びました。

五里霧中でつくった経営理念

社内の様子

 大阪での勤務税理士業務の後、2000年1月に地元奈良で税理士事務所を開業。同時に奈良同友会に入会しました。西村氏は、「当時は、顧客もゼロ、当然社員もゼロでした。知人や友人から得意先を紹介していただき、顧問料が月額5万円を超えたときは希望がもて、大変嬉しかったです」と当時を懐かしみます。

 「同友会入会当時は、経営や社員教育については何も理解していませんでした」と話す西村氏。税理士は中小企業の経営相談役だと思われていますが、税や会計については専門でも、経営や社員教育についてはまったくの素人でした。それを痛感したのは、「経営指針成文化セミナー」に参加したときです。そのときにはじめて「経営理念」というものを知り、五里霧中で経営理念・指針をつくりました。そして、顧客の信頼を大切にすること、納税者の権利を守ること、社員を大切にすることの3つを経営理念に掲げました。
 
 「当時社員が2名でしたが、社員と理念を共有するということの本当の意味を、私はほとんど理解できていませんでした。それは今から思えば何のために経営しているのかという根本の問題があいまいであったためだと思います」と、足りないものに気づきだしたと西村氏は語ります。

黒字経営の中でも何かが足りない

 西村氏は法律事務所での勤務経験があり、その後に大阪の会計事務所に勤務し税理士資格も取得。勤務先の会計事務所では法人税だけでなく、相続や譲渡、贈与など幅広い税務処理を経験し、開業後も顧客、弁護士や司法書士などから持ち込まれる難問に対して、税と会計だけではなく会社法や民法など多面的な検討を行いながら、実績と信頼を積み上げてきました。毎日12時間以上働きながら、仕事に追われる日々を過ごし、開業後13年間、売上や所得を順調に伸ばし、黒字経営を続けています。従業員もゼロから5名に増え、社員の多くは「同友会大学」の卒業生です。経営指針を作成し、経理公開もしながら、社員と一体となって会計事務所の業務を進めてきました。しかし、会計事務所は、地域で元気に活躍する企業が存続し、また生まれなければ、いずれ衰退していく存在です。「顧客企業の多くが後継者難に悩み、また新しく創業する企業よりも廃業する企業が多いのが現実です。会計事務所であるからこそ、その実態は手に取るように判ります。そんななかで、黒字経営でも何かが足りないという思いが日に日に広がるのを強く感じるようになっていきました」と西村氏は言います。

地域に生きる中小企業の役割を社員とともに~もう一度経営理念を!

 そんなとき、支部例会で、(株)キクチの菊地逸夫氏(福島同友会会員)の被災地で直ちに社員が自らの意思で店頭に立ち、地域住民のために営業を続けたという報告を聞きました。「そこに中小企業の存在があったからこそ、地域住民の命と生活が守られた、人々の暮らしが続けられたということに深い感動を覚えました」と西村氏。同時に、「自社の社員は、被災地の社員と同じような使命感をもって働けただろうか」という疑問が生じ、今まで足りないと思っていたことに少しヒントを見つけます。それは、「中小企業憲章」の精神です。地域を支える中小企業を1社でも多く生み出すことが憲章の精神ではないか。中小企業の地域を支える役割に気づき、経営者と社員がともに誇りをもって働くことで、豊かな地域づくりに貢献すること、それをバックアップする仕事が会計事務所の役割であると確信します。そして、これまでの経営理念の中で、地域のなかで中小企業が果たす役割を、社員と考えを共有しないまま経営を続けてきたことに対し、「本当に社員にすまない」という思いでいっぱいになりました。

 「私は同友会の会員や役員として中小企業憲章を学習し、自社の地域での存在意義、何のために経営しているのかという問いの重要性を学んできていました。しかし、このことを社員と共有しない限り、本当の学びの成果は生まれないと気づきました。私は、ようやく探していた答えが見つかったように思います。しかし言葉では簡単ですが、私の思いをどうしたら社員と共有できるかは、これからの大きな課題です。後継者育成、事業承継、創業支援、目の前に立ちはだかる新しい課題に社員とともに挑戦していくため、『何のために経営するのか』という原点に戻って経営理念を社員とともにつくり変えること、そこから始めてみようと決意しています」と西村氏は語ります。

社員とともに

経営理念

1.常に顧客、納税者の立場に立ち、経営と生活、権利を守り発展させるための会計税務サービスを提供します。
2.顧客の信頼を事務所の最大財産として、地域社会への貢献と事務所の発展を図ります。
3.民主的事務所運営を通じて、人間を大切にする会計事務所をめざします。

会社概要

設 立:2000年
事業内容:法人及び個人税務代理、税務申告業務
従業員数:6名
所在地:奈良市高天町11高天飯田ビル4階
TEL:0742-20-1080