【第17回】業界の常識に挑戦する日帰り温泉施設 (株)八光(源泉湯 燈屋) 常務取締役 氏原 敦氏(山梨)

氏原常務

(株)八光(源泉湯 燈屋) 常務取締役 氏原 敦氏(山梨)

不動産業から温泉施設への挑戦

燈屋

 東京でのサラリーマン生活を終え、29歳で不動産業を営む実家に戻った氏原敦氏((株)八光 常務、山梨同友会会員)。両親とともに不動産営業や居酒屋チェーン店を経営してきましたが、「もっとお客さんの喜ぶ顔がみたい」と、2004年に日帰り温泉施設「燈屋(あかりや)」をオープンさせました。

 山梨県では1960年代初頭に石和町(現笛吹市)で温泉が湧出し、一大ブームとなりました。当時、氏原氏の祖父は「石和町で温泉が出るなら、隣の甲府市でも」と保有する土地で掘削を行った結果、予想は的中。祖父には「温泉施設としていつの日か地域の人々に利用してもらいたい」という夢がありましたが、そのときは叶いませんでした。

きれい、あたたかい、を通じて和みの雰囲気を提供する

清掃の様子

 その祖父の思いを引き継ぎ、また氏原氏も大の銭湯好きであったこともあり、多額の設備投資を決断しました。オープンまでに1年半かけて約300の全国の温浴施設に足を運び、研究。「燈屋」のコンセプトを3つにまとめました。第1に「きれいであること」、第2に「スタッフがあたたかく、やさしく、気が利くこと」、第3には「雰囲気に徹底的にこだわること」です。

 かけ流しの湯を毎日全て抜き、湯船などを徹底的に清掃します。これは非常にコストのかかることで業界では考えられないことです。さらに、ちりひとつ落ちていない館内の床は木製で、艶やかに磨きあげられています。温浴施設ではどうしても水滴が目立つためカーペットの床が常識ですが、これもこだわりの一つです。

 清掃スタッフは20名で、その職種名称は「おもてなし清掃」です。一番お客様と身近に接する立場にあり、顧客の声をダイレクトに拾うことができます。すべての清掃スタッフは常に2,000円分の小銭を携帯し、お客様からの両替の要望に即座に応える体制も整えています。

 フロントや食事処のスタッフの笑顔も印象的で、食事処ではスタッフと常連客の会話が弾みます。燈屋の建屋はジブリアニメの「千と千尋の神隠し」のお湯屋をイメージした造りで、エントランスから和みの雰囲気に包まれます。

うそのない、矛盾のない経営をめざして

 燈屋は、「温泉や料理を提供する施設ではない、温泉や料理で演出した『癒し』と『和み』の空間と心のこもったおもてなしを提供する」ことをめざしています。

 年間20万人が来館し、その内15%が県外からの顧客です。食事のメニューにも手を抜かず、地元の食材(地鶏、豚肉、野菜、ワイン)を提供。刺身の「つま」も手作りです。

 経営理念・方針・計画を実践する過程では、顧客ニーズを調査・分析しています。常設しているアンケート用紙で要望やクレームを日常的に拾い、年に一度、3月から4月の1カ月間に点数式のアンケートを実施し、数値で定点観測しています。その中で経営理念と矛盾している点はスタッフと共有し即座に改善していきます。

障害者も能力を発揮して活躍

 企業づくりで一番大切にしているのは人です。2006年から障害者雇用(知的、精神障害)に取り組み、現在3名が健常者と同一の時給で働き、4名が実習生として仕事を学んでいます。清掃業務を主に任せ、せまいところや細部の清掃など、それぞれの持ち味を生かして活躍しています。

 社員教育に重点をおく同社では、毎月一度の社内勉強会を開催。経営計画の進捗管理に加え、東洋思想や人間学、心理学など人間性を豊かにする幅広い内容で学びあいます。さらに毎年3月には経営方針発表会を実施し、社長と幹部がすり合わせた経営方針を全社員が共有する貴重な機会としています。

同友会の経営理念合宿で気づいた原点

 すでに経営理念を作成していた氏原氏ですが、もう一度考えたいと山梨同友会の「経営理念合宿」に参加しました。そこで「健康」というキーワードと向き合います。「療養施設ではないため、この間、健康という文言は避けてきた。しかし、癒し・和みの空間を提供するには顧客の健康についても考えなければならないと気づいた」と氏原は言います。現在、施設内にある喫煙所の撤去を準備し、和みの空間に磨きをかけていきます。

 また、原点を振り返ることの重要性も再認識しました。燈屋の源泉名は「和し(にこし)の湯」と命名されています。「和し」とは古語で祝い言葉として使用され「あたたかい、やすらぐ、くつろぐ」といった意味があります。その源泉名の原点に立ち返り、人、清掃、食事メニュー、空間を全社員で考えながら再構築を進めています。

付加価値づくりと長期利益 経営者の責任を自覚して

 同社は2014年に10周年を迎えます。それまでに社内体制を固め、経営理念に基づいた強い集団づくりをめざしています。現在はスタッフが知恵を出しあい、付加価値を生み出していくことに注力しています。

 氏原氏は「同友会で労使見解(中小企業における労使関係の見解)に出合えて本当によかった。これまでは従業員と経営者の関係をあいまいに捉えていた。『人を生かす経営』を学んですっきりした。経営者の責任を自覚して、長期的に利益の出せる強い会社づくりを進めていきたい」と語ります。

 スタッフと

経営理念

私たち燈屋のスタッフは 持てる資源を最適に活用して 人の心にあかりを燈します

会社概要

創 業:1954年
資本金:1,000万円
事業内容:日帰り温泉施設
従業員数:正規16名 パート・アルバイト65名
所在地:甲府市上阿原町590‐3
TEL:055-236-3515
URL:http://www.akariya.info/