【第21回】業種転換・市場創造の源は経営理念の存在 (株)新藤(シンフジ) 代表取締役 藤澤 徹氏(神奈川)

藤澤社長

(株)新藤 代表取締役 藤澤 徹氏(神奈川)

債務超過の承継当時

 (株)新藤(藤澤徹社長、神奈川同友会会員)の前身は、父親が経営する和装小物の問屋でした。ところが藤澤氏が中学2年のときにその前身である(有)藤澤商店が倒産。時代は日本経済の高度成長真っただ中でした。今ほど「自己破産」という形でドライに割り切られる時代でもなかったので、地域社会の中で家族が分かれて暮らすというつらい経験もしました。その後、再建したのが現在の(株)新藤です。しかし、戦後日本のマーケットの変化に対して業種転換ができずにいたので、相変わらず苦しい経営状態が続きました。藤澤氏は1984年に同社へ入社し、まず驚いたのが、自力回復が困難なほどの慢性赤字体質が続いていたことでした。当時の年商は7,000万円でしたが、大幅な債務超過の状態で買掛金の未払いや給料の遅配が続いていました。

同友会で経営指針作成へ

 和装小物中心の商品からタオルの販売などへ業種転換しようと努力していた1988年に神奈川同友会へ入会しました。入会後すぐに、有志で経営指針を作成する勉強会があることを知って参加します。1990年に第1回目の経営指針を作成し、現在まで社内で議論しながら23年連続して更新し続けています。最初の経営指針で掲げた軸の一つは「企画・生産から販売まで一貫した機能を持つ会社をつくる」という目標でした。

オーガニックコットンとの出合い

 経営理念・経営方針・経営計画の実践を繰り返す中で、オーガニックコットン(3年以上有機肥料で養生された畑で、農薬を使わずに栽培された綿花)に出合います。それは、アメリカの大規模農業での綿花生産に大量の農薬を使い、その上収穫時に「枯葉剤」を使用している事実に大きな衝撃を受けたことからでした。枯葉剤は1960年代のベトナム戦争においてアメリカ軍が化学兵器として使用され、その後人体への被害の報告が相次ぐなど、世界的な社会問題となっていました。藤澤氏は、経営理念で掲げた「社会貢献」の観点から、当初より展望があったわけではありませんが、日本でオーガニックコットンを使用した製品を企画・製造・販売することを自分自身のライフワークにすることを決意したのです。それは1993年のことでした。

ブランド名は「天衣無縫」

店舗

 当時の年商は2億円くらいでしたが、その1割ほどをオーガニックコットン事業に投資し、靴下やタオル、Tシャツを製造したものの、3年間は全く売れませんでした。しかし徐々に口コミで広がり取材も受けるようになり、京急百貨店からの出店の話を受けました。ブランド名は「天衣無縫」。天女の衣には縫い目がないことから転じ、「詩歌などに細工やわざとらしさがなく自然に美しくつくられていること」を意味する言葉です。その名の通り、めざしたのは「自然を生かした、ここちよく美しい」製品づくりです。その後、高島屋にも出店できるようになり、年商も急成長して行きました。

東北コットンプロジェクトへの参加

コットンプロジェクト

 藤澤氏は仙台の大学で学んでいました。その意味で宮城県は第2の故郷であり、2011年3月の東日本大震災は他人事とは考えられませんでした。「何かできることはないか」と思っていたとき、「東北コットンプロジェクト」の話を聞き、即時に参加を表明しました。 
 「東北コットンプロジェクト」とは、東日本大震災の津波による塩害で稲作ができなくなってしまった宮城県臨海部の農家さんが、稲の代わりに綿花を栽培することで、(1)農業再生、(2)雇用創出、(3)新産業を創造し地域復興を達成するという3つの目的のもとに始められた活動です。現在では参加企業80社に拡大し、3回目の種まきも行われました。本プロジェクトへの参加も、経営理念にある「生産者とのパートナーシップ」の具体的な活動になります。

経営指針を継続していく大切さ

 藤澤氏が同社を承継した当時の年商8倍、社員数6倍、無借金経営、新事業展開、市場創造などの企業づくりを進めてきた源には、経営指針の存在があります。「経営指針は毎年見直し、継続していくことに意味がある。それは砂地に水が染みわたるようなこと。その内容は自分自身を照らす鏡であるとともに、全社でことあるごとに話し合っていく実践の基準でもある」と藤澤氏は語ります。
社員さんと

経営理念

1、社会貢献
私たちは、上質なオーガニック製品を企画製造販売することによって、地域社会の生活文化の向上と地球環境の保全に貢献します。
2、お客様の満足
  私たちは、より良い商品とサービスを提供することによって、お客様に満足していただくことを追求します。その結果として、お客様の中に天衣無縫に対するより良いブランドイメージが広がっていくことが、私たちの最も望むところです。
3、社員の仕事と生活
  私たちは、社員全員がより良い生活を実現し、働きがいと誇りの持てる職場をつくります。そのために、各自がプロフェッショナルとしての自覚をもって、日常活動をレベルアップしつつ、相互コミュニケーションを強めることで、より高いレベルの企業活動を創造して行きます。
4、生産者とのパートナーシップ
  私たちは、生産現場の方々との結びつきを大切にします。綿花の生産、紡績、製織、染色、縫製など、生産現場の方々との相互協力を強め、農業-工業-商業の諸関係がパートナーシップ(共生理念)で結ばれた持続可能なビジネスモデルを創出します。
5、強靭な財務体質
私たちは、社会貢献とお客様満足の結果として継続的に利益を蓄積し、景気の変動に動揺しない強靭な財務体質をつくります。

会社概要

設 立:1962年
資本金:6,000万円
年 商:5億5,000万円
社員数:30名
事業内容:オーガニックコットン製品の企画・製造・販売
所在地:神奈川県横浜市南区永田東2-11-34
TEL:045-731-4101
FAX:045-711-5824
URL:http://www.tenimuhou.jp