【第23回】特殊な分野で自分たちの個性を発揮していこう 呉伸工業(株) 代表取締役 岡本 祐一氏(広島)

岡本社長

呉伸工業(株) 代表取締役 岡本 祐一氏(広島)

このままでは会社がなくなる

 広島県呉市は、明治時代に海軍鎮守府が来て大きく発展した街で、戦争に入ると呉海軍工廠(くれかいぐんこうしょう。艦船、航空機、各種兵器、弾薬などを開発・製造する海軍直営の軍需工場)が作られました。「戦艦大和を作った街」と言えば分かりやすいかもしれません。その歴史を継承し、戦後呉市に進出した企業は、造船、鉄鋼、紙パルプをはじめ、加工用鋼板、ボイラープラント、高圧ガス容器、精密測定器械など数多くの製品を送り出し、高度経済成長の一翼を担ってきました。

 呉伸工業(株)(岡本祐一社長、広島同友会会員)は、岡本氏の父親が1959年に創業。二代目である岡本氏は、36歳で呉に帰るまでは、東京の商社で働いていました。「ゼロから製品を生み出すものづくりのすごさに感動し、『製造業の街』と言われる呉に誇りを持ちました」。
しかし、会社に戻ってきてまず驚いたのは、社内の超高齢化の進行でした。当時36歳の岡本氏が若い方から数えて二番目。「このままでは5~10年後に会社はなくなってしまう」という強い危機感を抱きます。

 腕に自信のある優れた職人であっても、やがてはいなくなってしまいます。若い人を採用し、その技術の継承をはからねばと焦る一方、新卒採用など中小企業ではできないと悩んでいたころに広島同友会と出合いました。

 1992年に入会し、呉支部の共同求人活動には1995年から、主に高校求人から参加しました。「最初はまったく採用できませんでした。それでも1997年に新卒ではありませんが初めて若い子を採用することができました。この社員は2年で退職してしまいましたが、このとき、若い人を迎え入れる体制ができていないことに気づきました。とりあえず汲み取り式のトイレを水洗にし、ロッカールームを設けるところからのスタートでした。とにかく辞めて欲しくないという一念でした」と岡本氏は言います。

会社の方向性を示す経営理念

社員さん

 1998年に、ついに高校生の新卒採用ができました。「今ではわが社の中心選手ですし、高齢社員の引退前の技術伝承がなんとか間に合いました。これ以降、大卒の優秀な子も入ってくれました」。このような若い世代の入社が、同社を変える大きなきっかけになりました。「以前はまったくできなかった社内ディスカッションが、若い人が入ることによってできるようになったのです。そして、「我が社はどの方向に向かうのかを社員にきちんと示す必要性を痛感しました」と岡本氏。

 経営理念を社内で初めて発表したのは2004年のことでした。同社は、音、脈動、空気中の浮遊物や圧力など、通常の尺度で計れないもの、制御が非常に困難なもの、それを防止するプラント装置を作っています。「対外的というより、社内向けのメッセージの意味合いが、わが社の場合は強いです。極端な言い方かもしれませんが、『だれでもできることはやらなくてもいい。特殊な分野で自分たちの個性を発揮していこう』と言っています」と岡本氏。

 同社の核となる技術は「溶接」です。ASME(アメリカの工業規格)やJIS(日本の工業規格)など、ありとあらゆる免許を取得しています。「これらの資格を持っていないと作れないものもありますし、より特化することで他社との違いを明確にしています。うちの存在基盤であり、変わったものに挑戦することで自信にもつながるからです」と岡本氏は言います。

社員の個性=企業の個性

超網圧施設

 経営理念にこだわってきたからこそ、新しい受注がありました。2005年3~9月に開催された愛知万博(愛・地球博)にて、超高圧施設の仕事の依頼がありました。燃料電池に水素を供給する100メガパスカルというとてつもない圧力を制御する装置でした。特殊なものにこだわってきたからこそ受けることができたのです。

 同社は製造するだけでなく、受注から設計、製造、検査まで一連の工程が可能です。火力発電所の換気フィルタやサイレンサーなど、海外での仕事も増えています。「海上自衛隊護衛艦の脈動防止装置を製造しています。不思議なことに、これを製造しているのはわが社だけなんです。オンリーワンというか、人と一緒が嫌なのは、昔から現在まで変わっていませんね」と岡本氏は笑います。

 岡本氏が経営理念発表以降、毎年期の始めに社内で発表している経営方針。外部環境の変化については、国際経済、日本経済、日本の製造業、そして取引先の状況をまで落とし込んで社内で説明しています。さらには為替の推移やDOR(同友会景況調査報告書)から、今後どうなるのかという「仮説」を立てて、経営戦略に盛り込んでいます。

 「これからの環境変化の大きな時代に、わが社が生き残っていくためには、知恵を集めるしかないと思っています。昨年から海外で製造する仕事も少しずつ増えてきました。社員の判断力をどう高めていくかも大きな課題です。判断の質・スピードが会社の明暗を間違いなく分けるでしょう。目的を一致させ、選手が自分の役割を判断し動き回るサッカーのような会社をめざしていきたいと思います」と岡本氏。だれでもできることはやらなくていい、特殊な分野で自分たちの個性を発揮する。「エンジニア」としての気概と誇りを感じる同社の経営理念。独自性を求める集団のさらなる追求は続きます。

経営理念

私たちは、一般、平均、標準、を排除します
私たちは、独自、固有、特殊、を選択します
私たちは、技術の高度化により、自生、自立、を目指します
そして、柔軟な応用力により、お客様の満足を引き出します

指針   “一所懸命”

制御の困難なもの、今まで培ったこの分野で、一層の向上を目指します
技術の蓄積を活かし、周辺のニーズを開発し、付加価値の向上を目指します
“寄って立つべきもの”
エンジニアリング機能、創意工夫

会社概要

設 立:1974年6月1日
資本金:1,000万円
年 商:5億円
社員数:27名
事業内容:化学・製鉄・発電装置等の産業プラント用の騒音防止、環境保全機器及び特殊圧力容器の設計・製造
所在地:広島県呉市吉浦新町2-2-17
TEL:0823-31-0055
FAX:0823-31-0001
URL:http://kureshin-kogyo.com/