シリーズインデックス:わが社の経営理念

【第27回】死と寄り添うことで見つけたわが社の企業使命 (有)はるひ福祉サービス 統括専務 岡屋 淳氏(山口)(2013.10.30)

岡屋  (有)はるひ福祉サービス 統括専務 岡屋 淳氏(山口)

会社設立の背景と入社の動機

(有)はるひ福祉サービス(岡屋淳統括専務、山口同友会会員)の設立は、1999年に現社長(岡屋氏の母)を含む3人で、山口県山口市地福にて、訪問介護業を始めたことがきっかけでした。翌年の2000年に介護保険が始まり、指定介護事業所として新たにスタートしました。しかし、民間の参入が認められたとはいえ、既存の福祉の団体などからは「福祉で利益を得ようとする民間業者」という白い目で見られ、非常に苦労しました。民間にくる利用者は、他に受け手が無い状況の方が多かったのですが、大変な仕事もいとわずに受け、少しずつ周囲の信頼を得ていきました。2002年に山口市地福にグループホーム「はるひ苑」、2002年に島根県津和野に同ホーム「はるひ苑津和野」を開設しました。創業から15年の現在は、山口市と津和野のグループホーム事業に絞って経営しています。

 グループホームとは、「認知症対応型共同生活介護」のこと。認知症高齢者にできるだけ家庭的な環境の元で普通の生活してもらい、自立した生活を送ることで、できるだけ認知症の進行を遅らせ、症状緩和を目的にした施設です。


 岡屋氏は、2004年当時31歳で東京での仕事を辞め、後継者として(有)はるひ福祉サービスに入社しました。「入所するまで、介護には、『老人が徘徊する』『老人を閉じこめる』という負のイメージしか無く、全く興味はなかった」と岡屋氏は言います。当時していた仕事を辞め、転職を考えていると母(現社長)に言うと、「一度、はるひを見てみないか?」と言われ見にいったのが入社のきっかけでした。

 岡屋氏が、初めて施設に行ったときに驚いたのが、今までの介護施設の負のイメージとは異なり、お年寄りが自分の家でもない施設でくつろいで普通に接してくれることでした。「なによりも皆が普通にくつろいでいることに驚いた」と岡屋氏は言います。岡屋氏が訪問すると「ようこそ、ようこそ」と気さくに歓迎され、「どこから来たの?」と会話もできる。あまりにも和やかで「何が問題なんだろう?」と感じましたが、5分もすると「ようこそ、どこから来たの?」と言われる。そのまた5分後には同じ会話になったときに、認知症というものを知りました。入所者の方々がみんな和やかに普通の生活を送っていること、そしてその空間を演出するスタッフの対応にも感心しました。「はるひ苑」には、他の施設に断られ、各家庭で徘徊や小火騒ぎを起こして普通の生活ができなくなった方ばかりが入所していましたが、それでも「はるひ苑」では、豊かな人生を送ることができます。このような施設に大きな魅力を感じて「この素敵な空間で働きたい」と入社を決意しました。「この仕事は本来あまり人気のない業種で、その後にこの業種の厳しさや難しさも知っていくのだが、初めて「はるひ苑」を見たときの感動を忘れられない。毎日がとても充実しているこの仕事を通して感じるのが、お年寄りの長年生き抜いてきた経験値の素晴らしさを知ることが非常に多いことだ。核家族化して先人の積み上げてきた知恵が次代に伝わりにくい分、そういった情報が施設に集まっていると感じ、改めてこの仕事に誇りを持ってのぞんでいる」と岡屋氏は語ります。

業界ならではの共育の難しさ

社屋  「業界ごとに違いがあるのかもしれないが、一般社会に必要とされる人材と、わが社が欲する人材は違う」と岡屋氏は言います。この仕事の難しさは、世間一般の仕事とは違い、てきぱきと仕事ができ、効率的・合理的に仕事ができる人ほど、認知症の方を相手に仕事をすると苦戦します。少しでも業務的な対応をしたとき、それだけで入所者の方は心を開いてくれなくなるため、カルチャーショックを受けることが多いのです。

 「徘徊や暴言といった問題行動を受け入れること。ゆっくりとしたお年寄りの行動に耐えられるか、待てるかが、入所者の自尊心を取り戻すために何よりも大切なこと」と岡屋氏。人は押さえつけられたり、拒否されたりというのがストレスとなります。そういうことが、徘徊や暴言といった症状につながります。いかにそのような行動を否定せずに受け入れることができるかが、人間の本質として大事なこと。同社では業務にも社員共育にもこの学びを生かしています。「提出物を出さなかったり、遅刻したりする社員もいるが、本人の良いところを見て大事にしないといけない。人の根本は、良いところを見て伸ばすことが大切なんだと思った。できない現実を突きつけられて追い込まれるのはだれでも非常に辛いこと。人は、認められることで自然と伸びていく。これは、入所者さんから教わった」と岡屋氏は言います。

存続の危機

 それは、毎夜夜通し徘徊をする利用者が行方不明になったことから始まりました。すぐに警察や地域の方々の協力を得て職員と夜通し探しましたが、見つからずにその日は捜索を断念。翌日見つかったという知らせを受けたときには亡くなっていました。その日から、無言電話や中傷、「民間が偉そうに福祉をするからこうなるんだ」などと言われ、「狭い地域なので、その日から3年間くらいは非常に辛かった」と岡屋氏は言います。そんな中、利用者の家族は、「行き場の無かった親を見てくれて本当に感謝している。会社も大変だと思うが、担当の方が辞めないようにケアしてあげてください」と言われ、訴訟になることもなく、逆に親身になって心配をしてもらいました。

 高齢化はますます進み、要介護者は増える一方。「手がかかる人は受け入れない」という事業所が増える中、行き場のない方ばかりが増えています。岡屋氏は、「できるだけ受け入れているが、それに比例して仕事が非常に難しくなってくる。しかし、地域の行き場のない方々のお役に立ち、豊かな人生を送ってもらうことが、私たちの喜び」と話します。

看取りを始める

2009年にこの道40年のベテラン看護師の入社によって同社が大きく変わっていくきっかけとなりました。その看護師は、もともと元請けのような事業所で働いている方で、同社が入所困難な方も受け入れていることを知っていて、その方針に感銘を受けて入社を希望したのです。その看護師が入社したことによって「看取り」を始めていくことになりました。自然と食事が摂れなくなり、血圧が上がらなくなり、血中酸素飽和度が下がり、全身状態が低下してくると、人間は死に向かっていきます。その亡くなっていく過程を支援していくのが「看取り」です。介護職として医療行為ができるわけではないので、本人のペースによって、死を早めず、だからといって死をいたずらに長引かせずに、適切な時期に見送ることが求められます。

 初めての「看取り」は、認知症を患った末期癌の患者さんでした。だんだんと痛みが強くなって衰弱していく。痛みに対して説明しても2分後には忘れてしまうのが認知症の症状です。本人は、なぜ痛いのかが分からないから大騒ぎします。スタッフも苦悩の毎日を過ごしました。自然に死んでいくことに寄り沿う介護とは何か、自分たちはこの方の死に対して何ができるのか、スタッフ皆で話し合いました。痛みが出たら身体をさすり、仲の良かった近所の方に来ていただいたり、家族の写真を見せ、家族の話をしたり、家の庭や近所の風景をビデオに取ってきて見せたり。さまざまなことを試行錯誤しながら、死に向かう過程を援助して見送りました。亡くなると、身体を丁寧に清拭し、化粧をしてはるひ苑から送り出しました。お通夜やお葬式まで、なるべくスタッフ全員で寄り添うのがはるひ流です。

 現代では、人の死も分業化され、断片的な一作業になっています。例えば、人が死ぬのは病院、死亡手続きは行政、葬式は葬儀屋です。「われわれが、普段の生活で死に対して触れることはまったくといってない。グループホームは、死の一部分の断片的な作業をする場ではなく、その人の人生の最終章に寄り添い、死をもって教えていただいた貴重な経験を次に生かすところだ。その経験を生かして、一人ひとりの死に寄り添い、お見送りができるように、また、お亡くなりになる過程を人として支えていくことがわれわれの使命だと考えている」と岡屋氏は語ります。

これからの展望

入所者の皆さん  山口県は、過疎化が進んで地域に人がいなくなり、高齢化率も全国的にも高い割合で進んでいます。福祉医療費も削減が続き、頻繁に制度変更されそのたびに振り回され、介護施設の経営はますます厳しくなっていくことが予想されます。そんな中、施設を今年新しく2ユニット*(9人×2)の施設として新築移転することを決断しました。岡屋氏の見据える先には、自分たちの使命をまっとうしていきたいという想いにあふれています。

 「社長が作った経営理念に、『十分な配慮をしたうえで、全てを受け入れます』という一文がある。私が最も気に入っている一文だ。だれもやりたがらないことでも辛抱強く謙虚にやる。どこにも受け入れられない方を、しっかりアセスメントをした上で受け入れ、その方の最期まで寄り添う。スタッフとともに、人として基本的なことを大事にして、『さすがははるひ、いい介護をするね』と言われる会社にしていきたい」と岡屋氏は語ります。

*ユニット…ユニットケアの単位。ユニットケアとは入所者を数人の小さなグループに分け、そのグループに対して専属スタッフがケアにあたる介護手法のこと。

経営理念

科学性
私たちは、地域の皆さまが必要とする、あらゆる介護サービスについて、十分な配慮をした上ですべてを受け入れます。
社会性

私たちは、はるひを必要とする皆さまの命と生活を、一致協力して支え家族、そして社会と関わる方々を、人として大切にいたします。
人間性
私たちは、品位ある言動、節度をふまえた人間集団を目指します。
私たちは、社員の幸せと夢を実現する人間集団を目指します。

会社概要

創 業:1999年
資本金:300万円
事業内容:居宅介護事業(訪問介護)、患者移送サービス、居宅支援事業、認知症対応
従業員数:26名(職員)
所在地:山口県山口市阿東地福上1643-1
TEL:083-952-5025
URL:http://www.haruhi-fs.com/

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