【第34回】経営理念・経営指針の作成から実現へ (有)プライアント保険 専務取締役 橋口 久氏(長崎)

橋口専務

(有)プライアント保険 専務取締役 橋口 久氏(長崎)

社屋

 (有)プライアント保険(橋口久専務、長崎同友会会員)は、橋口氏の母が1979年に創業し2002年に法人化、損害保険代理店および生命保険募集業務を行っています。本格的なコーヒーショップを併設した「来店型保険ショップ」があり、2013年10月には中国の大連に新事務所を立ち上げるなど、従来の保険代理業にとどまらない事業展開をしています。

天職か転職か

 橋口氏の前職は都内の日本語学校。母の事業を継いでほしいと何年もラブコールを受けていましたが、事務局長として東アジアを飛び回る日々を天職と感じていた橋口氏は、全く聞く耳を持ちませんでした。

 しかし状況が変わったのはラブコールを受け続けて9年目のこと。「今までは母一人での事業だったのですが、社員を雇い入れるということを聞いたからです。事業承継を頼まれた背景がこれまでとは違いました。母一人であれば母の代で終わらせてもいいのではと思っていましたが、今後は社員、そしてその家族の生活も守らなければなりません」。今の「天職」か、それとも長男としての責任を果たすための「転職」か。悩みに悩んだ結果、後者の「転職」を選び、後継者として(有)プライアント保険に入社しました。

後継者となるべく地元に戻り…

 長崎に戻ってからは地元佐世保経済の状況や活気を知りたいと思い、さまざまなセミナーや勉強会に参加し、その尺度を測りました。その中で長崎同友会の村山氏と出会い、勧められるままに同友会に入会をしました。しかし入会当初は熱心に活動に参加することはありませんでした。

 橋口氏は入社後、使命感に燃えて社内改革を推し進めようとしました。しかし、現状を否定して理想ばかりを追い求めてしまったやり方が社内で不協和音を生み、全てが空回りし始めます。空回りすればするほど、天職を捨てUターンしてきた自分の存在理由や社内における存在価値に悩むようになり、入社後1年でうつ病になってしまいました。そしてそれから1年半、会社を休職した橋口氏は、大量の抗うつ剤を飲みながら社会から一線を引いた生活を送ります。後に、橋口氏はうつ病の原因を、「経営者としての勉強不足」と一笑しています。

 休職中は現在の奥様の献身的に看病もあり、病状もゆっくりと回復に向かいました。そして休職中最後の半年は、復職についても考えるようになりました。復職後会社をまとめるには何をすればいいか。その中で思い出したのが、同友会入会のきっかけとなった村山氏に以前から言われていた「会社運営においては経営指針作りが大切だ」という言葉と、村山氏の会社の経営計画書でした。橋口氏はわらにもすがる思いで、手探り状態で経営指針作成を始めました。初めて作った経営指針書は、だれにも会わず、こっそり休職中に作った一冊でした。

 最初は1人で作り始めた経営指針でしたが、復職後は社員と面談を行ないながら一緒に作り上げるようになり、経営計画発表会も今年で4期目となりました。

経営理念の共有

接客風景

 橋口氏はお客様と自社に対して2重の意味をこめて「安心をシンプルに 安心を活力に」という経営理念を作成しました。お客様に対しては専門用語を使わずに分かりやすく「シンプルに伝える」ことを心掛ける、そして保険に入ることはお客様が新しいことに挑戦できるスタートラインと捉え、「お客様に活力を提供できる仕事」と誇りを持つこと。自社に対しては「簡潔な説明ができないということは、理解が不十分だという証拠だ」というアインシュタインの言葉から、常に学び続ける姿勢を持つということ。そして契約が取れたり取れなかったりすることで日々を左右されるのではなく、「お客様の『ありがとう』を私たちの明日の活力にしよう」という生き方のコツから理念が作られています。

障がいのある方の雇用へ

作業風景

 経営指針を作成し経営計画の実現の一例として、障がいのある方の雇用がありました。
橋口氏はうつ病になったことで、社会的弱者ついて考えるようになり、家族的な経営ができる中小企業こそ障がいのある方の雇用をするべきだと考えるようになります。2010年に作成した経営計画書の中に「3年以内に障がいのある方の雇用を行う」といった橋口氏の宣言を記載しました。それは橋口氏の思いだけで、具体的な内容はありませんでした。しかしその経営計画書の噂を聞いた同友会会員の方から知的障がいのある方の紹介があり、職場体験実習を受け入れることになりました。

 受け入れ後、「人としての根本的な生き方」について今までにない発見・学びを得ることになりました。また社員の中からも「彼の正式な雇用に協力したい、そのためにがんばって売上を伸ばします」といった声も挙がりました。そうしてトライアル雇用を経て、計画3年目には常勤としての雇用が実現しています。

 「障がいのある方の雇用をすることで、会社の存在意義とは『社員の人生を豊かにするための一助であり、まず社員の人生ありき』あり、多様性(ダイバーシティ)が人生の生きやすさ、 人生の楽しさを生み、違う価値観の共有が心を豊かにし、職場を挑戦できる環境へと育てていくということに気づくことになりました」と橋口氏。同社では保険代理業業界では珍しい外国人の正社員雇用も行っており、「今後も積極的にダイバーシティ経営に取り組んで行きたい」と橋口氏は語ります。

0から1への魔法の法則

 これまでの経験を振り返り、橋口氏はこう言います。「0(ゼロ)から踏み出すことはとても大変で勇気がいることのように思えるが、たとえわずか0.1でも踏み出すことができれば、それは1とカウントされる。これが0から1への魔法の法則。1が始まれば後は自然と1、2、3、4と続いて行くものです。うつ病から復職するなかで、とにかく経営指針を作ってみました。その一歩を踏み出すことで、今では毎年経営計画発表会を行えるようになり、障がいのある方や外国人の雇用、そして海外進出などの経営計画の実現もできました。まずは小さくても第一歩を踏み出すことが大切なのです」

 (有)プライアント保険の成長やダイバーシティ経営への挑戦。その裏には、常に経営指針と、0から1への魔法の法則の実践がありました。

経営理念

安心をシンプルに 安心を活力に

経営基本方針
<お客様第一主義>  
安定した永続的なサービスで、お客様への信頼と安心を提供します。
<変化の創造>  
基本に忠実ながらも、常に革新的なビジョンを持ちお客様から優先的に選択される 代理店を追求します。
<自己進化企業への発展>   
社員1人ひとりが創造性を発揮できる自由闊達な社内環境を築きます。
<社会貢献>    
地域社会に対して常に感謝の心を忘れず、広くその発展に貢献します。

経営理念ボード

会社概要

創 業:1979年
設 立:2002年
資本金:300万円
事業内容:損害保険代理店および生命保険募集業務
社員数:14名
所在地:【本店所在地】長崎県佐世保市日野町70-4
   ・日野支店 長崎県佐世保市日野町1828-49-2F
   ・来店型ほけんショッププライアント 長崎県佐世保市日野町1828-49-1F
TEL:0956-28-2425
FAX:0956-28-7838
URL:http://www.pliant.jp/
  ・中国大連オフィス
  ・ファミリー会社 Happy Trails Coffee長崎県佐世保市日野町1828-49-1F
URL:http://www.happytrailscoffee.com