【第43回】自分だけがあきらめるわけにはいかない アローリンクス(株) 代表取締役 川原 夕輝氏(岩手)

川原社長

アローリンクス(株) 代表取締役 川原 夕輝氏(岩手)

跡形もなく消え去ってしまった町並み

 あの日は、創業から間もない4カ月目の3月11日、突然襲ってきました。
 
 岩手県大船渡市で業務系システムの企画、設計、開発、保守を事業の柱とするアローリンクス(株)(川原夕輝社長、岩手同友会会員)は、地元のIT企業に勤めていたところ、不況のあおりで辞めざるを得なくなり、一緒に働いていた同僚と設立した会社です。

 2011年4月からの大きな仕事が決まり、忙しくなりそうだと話していた金曜日の午後、経験したことのない激しい揺れに襲われます。社員と高台に駆け上がり見下ろした眼下には、あるはずの生まれ育った町並みが、跡形も無く消え去っていました。その衝撃のすさまじさと何もできない無力さ。そして自身のこともままならない中で、社員とともに過ごす避難所での過酷な環境は、川原氏の肩に重くのしかかってきていました。

仲間の奮闘に「まず行動しよう。働こう!」

 言いしれぬ不安感と孤独感。途方に暮れているときに、偶然にめくった地元新聞の、ある見出しが目に飛び込んできました。「地域の雇用を絶対に守る!」岩手同友会気仙支部の新入社員合同入社式の記事でした。1カ月も経過しない中、この日合同入社式を迎える4人のために、落ちた天井を陸前高田ドライビングスクールの社員全員で直し、間に合わせたこと。そして「一社もつぶさない、つぶさせない」の言葉とともに、気仙支部のメンバーの笑顔が、そこにありました。涙が止まりませんでした。「自分だけがあきらめるわけにはいかない」。奮い立ち、すぐ社員と今後について話し合いました。「まず行動しよう。働こう!」社員もその言葉を待っていました。

忘れていた感謝の想い

 創業して間もない時期に東日本大震災の被害を受け、事業継続の危機に直面したときに支えとなったのは地域の経営者仲間、そして創業の理念でした。「情報技術で人と地域社会を世界へ、そして未来へつなぐ」。東京から地元大船渡に戻ったときの川原氏の原点です。ただがむしゃらに、脇目もふらず働きました。しかし震災から1年が経過したとき、再び不安が襲います。いつの間にか地元よりも関東圏の仕事が増えつつありました。そこで思い切って岩手同友会の「第9期経営指針を創る会」に参加しました。

 「何のために経営しているのか」「どんな会社にしたいのか」「社員をどう見ているのか」「わが社は何を売っている会社か」「わが社のお客様は誰か」「地域にとって、わが社はどんな存在か」何度も何度も問いかけされる中で、あれだけの災禍に直面し、乗り越えてきたにもかかわらず、毎日の仕事に忙殺されていたことに、気づきます。

 そして家族を亡くした社員が、会社の命を受け何も言わず大船渡を離れ、一人で黙々と仕事をしてくれていること。全員が変わらず、ついてきてくれていることが当然のことにように感じていた自分がいました。心からの感謝の想いしかありませんでした。

この経営理念と仲間がいる限り必ず再興できる

 そして地域にとってわが社はどんな存在か、と問われたとき、あの新聞記事がよみがえってきました。失われた地域の再生には、新たな仕事をこの地域に生み出し、一人でも多くの雇用を生み出すしかない。川原氏は、事業を通して三陸に起業文化を育てることを掲げました。

 岩手同友会気仙支部のメンバーは、優しくも厳しい企業家です。「アローリンクスの社名の由来は『三陸から世界へ』だろう。夢が小さすぎる。気仙復興のために、『三陸をシリコンバレーにする』くらいの展望を持たないと」。はっとさせてくれる仲間がいます。情報技術で人と地域社会を世界へ、そして未来へつなぐ。三陸沿岸から人々の情熱と地域の未来を世界へと発信する。まもなく震災から3年が経過しますが、「この経営理念と気仙の企業家仲間がいる限り、間違いなく地域の再興は近い」と川原氏は確信します。

経営理念

アローリンクスは、心と技術を結集し、感動を呼ぶ美しいシステムを追求し、お客様と共に未来を創造します。
アローリンクスは、地域社会と和を成し、安全で安心に暮らせる持続可能な社会システムを共に描き、実現します。
アローリンクスは、仲間との繋がりを大切にし、共に幸せを分かち成長の年輪を刻み、明日の輝く三陸に起業文化を育てます。

会社概要

設 立:2010年11月1日
資本金:300万円
事業内容:業務系システムの企画・設計・開発・保守/ Web サイト制作
従業員数:7名
所在地:岩手県大船渡市
URL:http://www.arrow-links.com/