シリーズインデックス:若者がいきいき働く企業へ

【第6回】生きがい・働きがいを実感できる会社に (有)小川原自動車鈑金 代表取締役小川原 一成氏(岩手)(2014.05.07)

小川原社長 (有)小川原自動車鈑金 代表取締役 小川原 一成氏(岩手)

新たな出合いに払拭した不安

社屋1  先代が急逝し、小川原一成氏((有)小川原自動車鈑金社長、岩手同友会会員)が社長を引き継いだのは、2006年のことでした。創業者でもあり、父親でもある先代社長はゼロから会社を立ち上げ、自らも技術者として牽引してきました。12名の社員とともに、交通事故で大きな損傷を受けた車でも経営豊富な職人が一つひとつ丁寧に仕上げ、きれいに修復できることを強みとし、車の引き上げから納車まで、一貫した工程を実現し地域から頼られる存在となっていました。

 しかし小川原氏は、社長を引き継いだとき、「自分には一人で牽引するだけの自信はない」と、大きな不安に押し潰されそうになりました。会社には将来ビジョンやめざす経営理念はありませんでした。しかも10年以上も新入社員はなく、全員が30代以上のベテラン社員。すべて先代が採用した社員でした。トップとして何をすればいいのか。これまで後継者として、まったく考えもしなかった将来の会社の姿。藁(わら)をも掴む思いで岩手同友会に飛び込みました。

 「そこで見るもの聞くものは、すべて新鮮でした。毎月の例会では、先輩経営者が飾らず自分の悩みや社員のことを真剣に語らう姿に圧倒され、つい不安に思っていた自分の不安も話していました」と小川原氏は言います。

社員の人生に責任が持てますか

 そしてそのまま、岩手同友会の「第3期経営指針を創る会」に参加しました。トップとして、何かめざすべきものや心の支えになるものがほしかったのです。それが経営理念でした。「父親から社長を引き継ぎ、まず始めに考えたことは、創業から続いてきたトップダウンの経営と古い体質からの脱却です。これまでやってきたことを180 度転換するのには、相当苦戦しました。最初は、社員にお願いすることもできずに何から何まで自分ひとりでやっていました。それでも何とか変えていきたいという思いでした」と小川原氏。

 そこで、ある先輩経営者が発した言葉に衝撃を受けます。「小川原さんは、社員の人生に責任が持てますか。新卒者が入っていきいきと活躍するような会社にならないと、10年後の会社の未来は語れないよ」。そこから必死になって、社員と向き合う日々が始まりました。

経営指針を片手に

社屋2  まず取り組んだのが、自身の変革でした。車検や修理、新車もすべて社長がしてきた納品を、社員に任せることを始めました。「創業以来続いてきたことを変えるのは、大変な決断でした」と小川原氏は言います。お直しし、直接お客様からいただく「ありがとう」。新車を届けたときのお客様の笑顔。自分たちが手がけたことを喜んでくださるお客様の姿が社員に直接見えるようになったことで、社内に活気がみなぎりました。

 さらに大きな決断は、現場のリーダーをフロントに配置換えしたことでした。30代後半の、技術的にも精神的にも社内の柱であった中堅社員に、小川原氏は自分の思いをすべてぶつけました。最初は本人から拒絶されましたが、そこで諦めず、経営指針を片手に伝え続けました。

 トップダウン型の体質から、共に育ち合う会社作りに挑戦したいこと。社員一人ひとりが自分の人生を自らつくることができる企業文化を積み上げたいことなど、自らの経営者としての夢をぶつけました。今ではその社員は全体を統括するまでになり、社内は彼を中心にいつも明るい雰囲気で満ちあふれています。しかし、長年重ねてきた社内の体質を根本から変えるのは、大変なことでした。

社員全員で学びあう土壌をつくる

 岩手同友会では10年前から新卒者の地元からの採用を目的とした、共同求人活動を行ってきました。長年新卒者が入っていなかった企業で採用に挑戦することは、受け入れる企業の労働環境の整備と社内での合意が重要となります。

 ある朝、小川原氏は朝礼で「高校生を地元から採りたい」と全員に相談を持ちかけました。案の定、「中途採用の方が即戦力になる」「だれが責任を持って育てるのか」と異論が噴出しました。そこでも小川原氏の粘り腰が威力を発揮します。

 なぜ会社にとって経営理念、経営指針にビジョンを描くことが大切なのか。その実現のために、共同求人活動で新卒採用に挑戦すること。そして最後に「社員全員が学ぶ場に参加しよう」と持ちかけることになります。

 そのころ小川原氏は、同友会の社員共育委員長として新たな取り組みに挑戦します。すでに新入社員の合同入社式と1泊での研修の機会はありました。そして経営者と幹部社員が半年かけて学ぶ、同友会大学がありました。そこに、入社2~3年の社員も含め、全員が経営者と一緒に学びあえる場をつくろうというものでした。

 さっそく、同社の社員全員と申し込み、講座がスタートしました。しかし社員全員が納得して参加したわけではありませんでした。

生きがい、働きがいを持てる会社に

作業の様子  仕事が終わって18時から21時までの講座は、1カ月に1回、10カ月にもおよびました。終了後、企業ごとに集まり、今日学んだことを確認する時間を持ちました。「どうだった」社長の語りかけに、だれも言葉を発しません。沈黙の時間が続きました。そこで「人々の喜びと幸せを創造する」という経営理念を実現するためにまず「社員全員が生きがい、働きがいを持てる会社にしていこう」と話し合いました。ひょっとしたら、事故をされた方の不幸で仕事をさせてもらっているという価値観もあったのではないか。でもそれでは、人々の喜びと幸せは創造できないことも、そらさずに社内で話しあいました。そして「社員共育塾」にて社員全員で学んだ大田堯先生(教育学者、東京大学名誉教授)の「人間はみんな一人ひとり違う」ことの意味を考える時間も繰り返しつくりました。

 学ぶことは、生きる価値観が変わることでもあります。新卒者を迎え、全社一丸でこうした地道な学びあいを積み重ねる中で、社員も徐々に自分たちの会社をつくっていこうという気持ちが芽生え始めています。

 「人生と仕事は切っても切り離せないもの。社員が自分の人生に誇りを持って生きていってほしいと願っています。そしていつか、この仕事を卒業するときには『この仕事をしてきてよかった』と言えるような会社にしていきたい。これまでも、これからも、地域を支えていくのは、われわれ中小企業。地域を元気にする拠点として社員と成長していきたい」と小川原氏。共同求人活動、そして採用をきっかけに、一人ひとりの生きがい・働きがいを見直し動き始めた、同社の挑戦は続きます。

会社概要

創 業:1963年
設 立:1988年
事業内容:自動車車体整備業、自動車鈑金塗装、保険各種
従業員数:12名
所在地:岩手県盛岡市土渕字谷地道118-1
TEL:019-647-0390

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