【第10回】会社の未来は若者の採用と育成にかかっている 協栄工業(株) 代表取締役 佐藤 総一氏(大分)

佐藤社長

協栄工業(株) 代表取締役 佐藤 総一氏(大分)

社屋

 「大分県内の工事案件で見積りを出していない現場はほとんどない」と胸を張る協栄工業(株)(佐藤総一代表取締役・大分同友会会員)では、年間2,000件を超える見積りを出しています。大分県内では珍しく社内に独立した設計・積算部門を持つこともあって、建築会社やデザイン事務所からの協力依頼が絶えません。

 佐藤氏は35歳のとき(1985年)に、先代の義父に請われて協栄工業(株)に入社し、職人の手子(てご・職人の補助者、手元で使える人のこと)や営業職を経験して、39歳で社長に就任しました。

受け身だった採用活動

 当時はほとんどの社員が中途採用で、「新卒を採用したいなぁ」というあこがれを持っていましたが、どうしたら良いか分からず、「中小企業だから無理だろうな」と諦めていました。

 ところが、1993年にたまたま参加した大分同友会の合同企業説明会で専門学校生を新卒採用できたことから、今日まで毎回欠かさず参加しています。年度によって差はあるものの、着実に新卒採用ができるようになりましたが、定着率が低くなかなか満足のいく採用ができない状況が続きました。民間の就職あっせん会社にも登録したことがありますが、エントリーは多くても、事前の連絡もなくキャンセルされるばかりでした。そのころ面談できる学生数は1年に20名もいませんでした。

攻めに転じた採用活動

社内の様子

 2012年2月の中同協共同求人委員会で「就職活動には平均30万円の交通費がかかって、学生には大きな負担になっている。企業に交通費を負担してほしい」という学生の声を聞き、「それなら交通費を負担してあげよう。その前に、まず社長である私が学校に出向いていこう」と、学内での企業説明会に取り組むようにしました。

 前中同協共同求人委員長だった前田幸一氏(濱島印刷(株)代表取締役社長・鹿児島同友会)の「動いた分だけ成果が出ますよ」という言葉を支えに、今では九州北部10~13校程度に出向いて、単独で企業説明会を開催しています。所要3時間で、会社の説明と希望者には佐藤氏が手作りした筆記試験を行います。筆記試験に合格して会社を訪問してくる学生には、面接と小論文の試験を受けてもらいますが、この時点から交通費を支払うようにしました。

 さらに合格者には、この後に5日間のインターンシップを体験してもらいます。もちろん交通費を支払いますが、学生さんの貴重な時間を拘束するのですから日当も支払います。また遠方から来る学生には、宿泊先を手配して費用も負担するようにしました。

 インターンシップでの職場体験を通して、学生は「社会人とは何か」「仕事とは何か」そして「協栄工業(株)はどんな会社なのか」について学習することができます。もちろん会社にもメリットがあり、より深く学生を知ることができます。「インターンシップを始めたことで、ずいぶんと採用活動におけるミスマッチが解消されていると実感しています。これは学生にとっても、企業にとっても幸せなことではないでしょうか」と佐藤氏は言います。こうした取り組みで、ここ2年間は70名を超える学生と面談することができています。

若手社員が育つ仕組みづくり

OJT

 入社してからの3年間を、5年以上の経験がある先輩社員がマンツーマンで指導するOJTに変えて6年目になります。部課長を含めた3名の合議制で育成計画を立てて指導し、1年目の社員は毎週、2年目以降は月1回の研修レポートを提出してもらうことで、社員の成長が確認できるようにしています。

 また、この4月からは社内で「さん」づけ運動を始めました。新入社員も立派な社会人なのだから、きちんと敬意を払おうという思いからです。ほかに、同友会の就業規則作成セミナーで就業規則を見直して、全社員へ配布することができました。

 「これらの取り組みは、同友会の三位一体活動*の一環として行っているのですが、社内が若々しく、明るく、にぎやかになってきています。若手社員の定着率も高まり、仕事への意欲も増していると感じています」と佐藤氏は語ります。

*労使見解(中小企業における労使関係の見解)に基づく経営指針の作成、共同求人による新卒社員の採用と共育を三位一体で行うという同友会運動の柱

活躍する10年選手たち

 大分同友会の合同入社式&新入社員研修やフォローアップ研修、「経営者」と「幹部」の共育塾などにも参加した五十川真理さん(工事部主任、一級管工事施工管理技士・2004年入社)は、「まわりは年上男性ばかりで大変なことも多いけれど、自分から声をかけて仕事が円滑に進むようにしています。楽しいことを届けてくれたり、助けてくれたりする先輩もいます」と社内について話します。

 また、笠原良太さん(設計部主任、一級管工事施工管理技士・2003年入社)は、「今はマンションや老人ホームの案件が多いけれど、いつかは大病院やテレビ局の図面を引けるようになりたいです。今は『休みより仕事をくれ』という感じです。同じ建物はないので、新しいものに挑戦していきたいです」と、同社にチャレンジできる社風があることを語ります。「彼らのようにわが社で10年以上の実務経験を積みながら、一級管工事施工管理技士の資格を取った社員は、日本全国どこでも通用します」と、佐藤氏は太鼓判を押します。

協栄工業(株)発展のために

 1989年から2014年までに192名(新卒97名・中途95名)の採用をしてきました。その内現在の在籍者は40名ですが、新卒が31名(32%)、中途が9名(9.5%)と、定着率には大きな差があります。経営が厳しいときも「将来への投資だから」と採用を続けてきたことで、今では全社員50名に占める新卒の割合は33名と66%にもなっており、また、20代~40代の社員が37名と全社員の74%を構成するに至っています。

 同社では、改正高年齢者雇用安定法に先駆けて、継続雇用制度(65歳まで)の導入をしています。「ただ、現状全員が再雇用を希望したとしても8年後までには10名が退職することになりますし、さまざまな事情で中途退職する人も考えられますので、採用活動を継続していくことは重要です」と佐藤氏は力強く言います。

 昨年の合同企業説明会では「御社の“売り”は何ですか?」という学生の問いに、「わが社の売りは“人”です」と答えました。「わが社は特に、技術者がいなければ発展しません」と、同社ではこれからも新卒採用を柱にして共同求人活動を続けていきます。

企業概要

設 立:1970年
資本金:3,000万円
年 商:15億4,000万円(2013年9月期)
事業内容:建築設備業(冷暖房・空調設備、給排水・衛生設備)
従業員数:50名(男40名、女10名・うち20代19名、30代11名、40代7名、50代8名、60代5名)
平均年齢:37歳
所在地:大分市大字下郡字千鳥3225-23
TEL:097-569-5800
FAX:097-569-5837
URL:http://www.kyoei-os.co.jp/