シリーズインデックス:チャレンジ環境経営

【第4回】人と環境に優しい車の総合病院を目指して 前野モータース 工場長 前野 嗣郎 氏(岩手)(2015.04.22)

前野工場長 前野モータース 工場長 前野 嗣郎 氏(岩手)

人口が減少し続ける町での挑戦

 葛巻町は、人口約7,000人、標高は550メートル、周囲の標高1,000メートルの山の上には、巨大な風力発電が連なっています。東北一の酪農郷と言われ、牛の数は1万頭。人口よりもはるかに牛の数の方が多い町です。

 以前は1万2,000人の人口でした。それが7,000人を切ろうとしています。5年間で約700人減少し、2013年には人口の半分が60歳以上の準限界集落になりました。このままでいくと人口約4,000人まで減少すると予測されています。

 前野氏(前野モータース工場長、岩手同友会会員)は中学まで葛巻で育ち、高校から下宿生活をして家業を継ぐことを目指し、車両整備師として進み始めます。そして当時世界ナンバーワンと言われた東京のディーラー直営店に入り技術を磨きました。

 24歳で結婚。東京タワーが見えるような場所に住んでいたので、20代の前野氏にとってはあこがれの東京で仕事ができることに魅力を感じていました。

 そして30歳で葛巻に、奥様と子どもたちと一緒に帰ります。「自分の子どもたちもいずれ自然豊かな葛巻で育てたい」と思っていました。「東京で磨いた技術を発揮さえすれば、葛巻でも評価されるはず」。しかし、たった半年でその自信はガタガタに崩れてしまいました。技術だけでは地域の役に立てない。そう感じていました。

人と車に優しい環境を提供し続ける

 そこで出合ったのが岩手同友会の「経営指針を創る会」です。藁をも掴む思いで飛び込んだ先では、「何のために働いているのか、経営するのか」「前野モータースは何を売っている会社か」「お客様はだれなのか」「地域とは」「社員とは」…。そして「幸せとは」と何度も何度も聞かれました。そして半年間の関わりあいの中から、現在の経営理念が生み出されました。

 ここで発想を大きく転換しました。お客様の単価を、「年間単価」から「生涯単価」へと変えました。顧客情報を、車を中心にしていたものを属人情報に変え、人を中心に考えました。そして、フォロー活動はアフターから正反対のビフォアーフォローに変えました。

 お客様一人ひとりの手書きのカルテを作成し、未来日記を書いていきました。それぞれの家族のストーリーが見えると、何をしなければならないかが見えてきます。人を中心に考えていくということは、自然に環境に目を向けることになります。

 整備についても、考え方を根本から変えました。言い変えれば「健康診断」です。起こるリスクを事前に防ぐという考え方です。燃費が悪い、ということは胃で言うと消化不良です。今置かれた状態が見えることで、最小単位で直すことができます。同社は、人と車に優しい環境を提供し続ける、総合病院の役割を果たしています。

技術よりも大切なもの

社屋外観  お年寄りの多い町の自動車整備工場にとって、たった1台の新車の販売でも大きな人生商品の意味を持ちます。「ひょっとしたら、この方にとって最後の新車購入になるかもしれない」そう考えたときに、「1台の車を新車同様の燃費で、しかも高い安全性を保った状態を続けてあげるにはどうしたらいいか」という発想につながります。

 半年以上降雪に悩まされる町では、毎日のように道路に融雪剤として、塩化カルシウムを散布します。凍結を防ぐためにいたしかたないことなのですが、車にとっては大変なストレスです。どんなに新しい車でも、数年でボロボロにさび、朽ちてしまいます。同社では、新車も中古車もすべてのパーツを丁寧に分解し、隅々にまで防さび材を塗り込むサービスを特別注文で引き受けます。1台の車に1週間もかかる作業です。

 また、オイル交換にも特別の思いを持っています。整備を丁寧にすることで、生涯で使用する燃料の総量が減ることや、エンジンを大切に保つことで、車を買い換えずに長く乗れることを一人ひとりに話していくうちに、毎日店に立ち寄るようなお客様も増えてきました。

 毎週のように山越えをしてお孫さんに会いに行くご夫妻もお客様の一人です。音楽が好きで、いつもカセットを聞きながらドライブをする、素敵なご夫妻です。新しく車を購入されたとき、前同社では古いカセットデッキをそのまま、据え付けました。確かな技術は前提ですが、その技術よりも大切なものが、ここにはあります。

一生をかけて取り組みたいこと

 なぜ人と環境に優しい自動車整備業を一生かけてやりたいと思うようになったか。前野氏の一人の同期の仲間のことがあったからです。

 4年前の2月、大震災の直前から始まった岩手同友会の第7期経営指針を創る会。第1日目に同部屋で宿泊したのが、陸前高田の文房具店の29歳の後継者、伊東進太郎氏でした。

 数週間後の3月11日。彼は津波で亡くなりました。シャッター通りの陸前高田市内を一軒一軒回って「一緒に勉強しましょう。地域を変えましょう。俺が人生をかけてやりたいことは、この町を救うことなんだ」と呼びかけていた彼です。

 「愛する人たちのために、何のために働くのか。環境を見つめ、人を大切にし、経営に取り組んだら、どんな地域からでも、日本を変えられる」。前野モータースが地域の一人ひとりに大切に向き合う理由は、そうした思いが出発点になっています。

会社概要

設 立:1975 年 
事業内容:自動車整備、販売業
従業員数:5名
所在地:岩手県岩手郡葛巻町江刈14-100-13
TEL:0195-68-2634

このページの先頭にもどる

携帯用QRコード
携帯対応について

更新情報RSS