【第5回】企業理念の体現者として (株)大坂組 代表取締役社長 大坂 憲一氏(青森)

大坂社長

(株)大坂組 代表取締役社長 大坂 憲一氏(青森)

県経済を支える海洋資源の危機

 アマモは海中に生息する種子植物です。イネに似た細長い葉を持ち、青森県陸奥湾内に国内でも有数の「アマモ場」と呼ばれる大群落を形成しています。アマモ場は「海のゆりかご」とも呼ばれ、多くの海洋生物が棲み、産卵、育成の場としても重要な役割を果たしています。しかし、最近では人間による水質汚濁や経済活動によって減少の一途を辿っています。

 陸奥湾はホタテの養殖の他、ナマコ、ヒラメ、ホヤなどが獲れ、県の経済を下支えする、恵み豊かな海です。中でもナマコは高級食材として年々漁獲量が増えています。一方で刺し網漁や、ナマコ漁に用いられる桁曳(けたび)き漁は海底に生息するナマコを根こそぎ捕らえてしまうばかりでなく、住処として適したアマモも網に絡めて刈り取ってしまう問題があり、資源と環境の保全の観点から、早急な対策が求められる状況でした。

アマモ場を守りたい

社屋外観

 「もっと素敵に、環境創造」をキャッチフレーズに、総合建設業、運輸、燃料販売などを手がける、大坂組企業グループの中核をなす(株)大坂組(大坂憲一社長、青森同友会会員)では、人工漁礁「竜宮礁(りゅうぐうしょう)」を開発、普及に取り組んでいます。同社の代表取締役社長で、青森同友会の代表理事も務める大坂氏は、活動に乗り出した当時を「建設業は浮沈の大きな業界。先行きの不安を抱えているときに目をつけたのが、個人的にも関心のあった環境関連分野でした」と振り返ります。「竜宮礁」はコンクリート製のドーム型人工漁礁で、内部中央に植え付けたアマモの苗が育成の段階で漁網に絡まって刈り取られてしまうのを防ぎながら、漁礁自体に漁具が絡まることのないようになっています。内部はナマコやウニ、ホヤなどの住処にもなり、成育途中のナマコなどの乱獲を防いでいます。

 2003年、それまでの10年間で陸奥湾内のアマモ場が3割減少していることを知った大坂氏が、漁業関係者などと連携して『ナマコ・アマモ育成礁研究会』を立ち上げたことがきっかけで、この取り組みはスタートしました。アマモ場の生態系や生息する生物の習性などを調査、研究し「竜宮礁」を開発。2008年にはその製造、販売、施工を手がける会社を同業者らとの共同出資で立ち上げるに至りました。

環境保護と経済活動の両立

竜宮礁01

 陸奥湾は沿岸地域の経済を支える重要な漁場です。ホタテ貝の養殖は1970年代から100億円産業として、青森県に無くてはならない存在となっていましたが、近年ではナマコの漁獲も重要度を増しています。ナマコは従来、青森の正月料理には欠かせない食材として昔から地域で食べられてきました。しかし、アジア地域の経済成長などで輸出の需要が増大し、「身近な食材」から「輸出用高級食材」へと移り変わりつつあります。限りある資源を守り、育てていくことが求められる中で「竜宮礁」は子ナマコの住処としても注目されています。

 一方で課題となっていた、経済活動としてのナマコ漁を阻害せずに、資源を保護するという課題も「竜宮礁」は解決しています。漁網が絡まることがないように丸みを帯びた形状と、その内部が生物の住処になる「竜宮礁」は、実証実験でもよい結果を残しています。大坂氏は「これからは公共事業としての漁場保全などに役立ちたい」と意欲を語ります。

自然との共生を目指して

 竜宮礁02

 建設業は自然界を切り拓き、開発する仕事。大坂氏は「自然を開発するだけでなく、そこに寄り添う企業を目指してこの事業に取り組んでいます。自社の堅実な成長のために何かできないか、と模索した結果この事業が生まれました。しかし、単なる利益誘導型の事業ではなく、次の世代を担う子どもたちのために、豊かな自然環境と地域資源を残していける事業として取り組めたことは、社員ひとり一人が環境への意識を持つきっかけになったと思います」と大坂氏は語ります。

 社長の環境に対する熱意から始まった大坂組の挑戦は、今年13年目を迎えます。「ようやく事業化の段階が見え始めた」と顔をほころばせた大坂氏。「竜宮礁」事業の他にも間伐材を活用した木製遮音壁事業など、地域資源の活用と発信に重点を置いた活動は、今後更に拡がりをみせていきそうです。

<経営理念>
私達は、技術と安全と創意工夫で地域環境と調和のとれた、快適空間創りを目指します。
私達は、住みやすいふるさと建設(づくり)で、豊かな地域社会の確立に貢献します。
私達は、お互いに尊重し合い、素直な心で学び、人間性豊かな喜働集団を目指します。

会社概要

設 立:1941年
資本金:3,200万円
年 商:33億3,000万円
事業内容:総合建設業
従業員数:88名
所在地:青森県青森市大字諏訪沢字岩田51番地1
TEL:017-726-2461
FAX:017-726-7009
URL:http://osakagumi.co.jp/