【第16回】「逃げない」覚悟で、地域と共に前に進む (有)アサギリ 代表取締役 簑 威賴(みの たけより)氏(静岡)

簑社長

(有)アサギリ 代表取締役 簑 威賴(みの たけより)氏(静岡)

人々の生活や生産活動から発生する有機性廃棄物を、優良なコンポストへ

有機産業廃棄物が肥料へと生まれ変わる

酪農地帯として緑豊かな朝霧高原が広がる富士山西麓に(有)アサギリ(簑威賴社長、静岡同友会会員)があります。人々の生活や生産活動から発生する有機性の廃棄物を、微生物の力で優良な堆肥・肥料(コンポスト)に生まれ変わらせる産業廃棄物処分業の会社です。

1965年、酪農業「(有)朝霧牧場」として創業した当初は、乳牛を飼育し、生乳の搾乳・販売事業を経営していました。生乳は叔父が経営する朝霧乳業(生乳加工・販売業)に卸していました。朝霧乳業は現在も、サービスエリアなどで牛のマークの牛乳を販売しています。

昭和の終わるころ、牛肉・オレンジ輸入自由化の影響を受けて苦境に立たされます。それまでも牛糞堆肥をつくっていた経緯から、先代社長の友人である大手コーヒー焙煎工場の工場長のアドバイスで、コーヒー豆の焙煎時に出る皮を肥料化する事業を皮切りに、1990年に現在の事業へと変更しました。現在は食品・下水汚泥、食品工場の製造残渣、蓄糞・鶏糞などを原料とした肥料化を事業として取り組んでいます。そして2015年8月1日より(有)朝霧牧場から(有)アサギリに社名を変更しました。

「たゆたえども 沈まず」経営者 簑威賴氏

簑氏は1998年に同社に入社し、2003年9月、33歳のときに静岡同友会に入会。そのきっかけは、富士・富士宮支部合同例会に報告者として登壇した鋤柄・中同協会長の「皆さん、変わりましたか。同友会で学んだことは、実践して生かしていくのです。社長のあなたが変わらなければ、会社は何で変わるのですか」という問いかけでした。それから3カ月後、代表取締役に就任しました。

社員との衝突、家業からの脱却、就業規則の作成、社員の大きな労災事故など、さまざまな出来事がありました。また、地域の方から「悪臭がする」という声があり、町内会では大きな問題になったこともありました。その一つひとつの困難に、社員や地域住民とのかかわりから「逃げない」と覚悟し、向きあう事で強い信頼関係へと昇華させてきました。

同社の経営理念の先頭に掲げられた「たゆたえども 沈まず」。どんなに悪天候でも、舵が折れても、帆が裂けても、沈まない。沈ませない。そして目的地に着くことを意味する言葉です。「社会情勢が変化しても、中小企業は存在し続ける意義があります。困難な壁が立ちはだかっても、前に進み続けることが必要」と簑氏は語ります。

循環型社会を支える、不要物の再資源化

工場内

(有)アサギリの仕事は、人々の生活や生産活動の中で発生した「不要物」を、再度資源化することです。この仕事が無くなれば、資源の循環も経済の循環も止まってしまいます。つまり、同社の仕事そのものが、資源の循環型社会を支える「環境経営」です。有機性廃棄物から作られた肥料は、2~3年の時間をかけて土壌を健康なものにします。健康な土壌は、作物の健全な育成と収穫量の増加、さらには農薬の使用量の削減も期待できます。

このような肥料などのリサイクル製品は、なかなか一般の目に触れる機会がありません。また、情報発信をしなければ、園芸や農業事業などでの肥料の利用に理解を得られない事も多々あります。そこで同社は、富士宮市に隣接する富士市で毎年春と秋に開催される「緑と花の百科展」に、2000年から出展しています。簑氏はここを、食品工場の加工残渣や下水汚泥などがどのようにリサイクルされるのかを市民の皆さんにお見せする場だけでなく、自分たちが作っている物がだれに使われているか、どのような価値があるのかを従業員にも知ってもらう機会と捉えています。出展を通じてお客様と接することで、従業員たちが仕事の意義ややりがいに目覚め、製品に対する妥協をしなくなりました。

「やれることは自分たちで」と太陽光発電を実施

1,500坪の傾斜に設置された太陽光発電パネル

同社から南に30km離れた富士市中之郷の1,500坪の傾斜に、約300Kwの太陽光発電パネルを設置しています。これは売電を目的とした設備投資ではなく、東日本大震災以後、電気代の高騰で突き付けられたコスト増の経営課題に対処した結果です。「エネルギーシフトを考えるとき、どこかが主導となって劇的に変化させるのは難しいことかもしれません。ならば皆が『自分たちで賄えることは自分たちで賄おう』と自然エネルギー発電にシフトし、その結果として社会全体のエネルギーシフトが実現できれば」と簑氏。ちなみに太陽光発電は、オペレーション&メンテナンスがきちんとできなければ高効率の発電は期待できないため、維持・管理を外部に委託しています。「太陽光発電は、電力だけでなく雇用も生み出す」と簑氏は言います。

新会社「(株)アグリパワー」を設立

完熟肥料 ASAGIRI完全有機質堆肥肥料

2015年4月に簑氏は、(有)アサギリで製造する各種肥料製品の販売を主に、農業・環境にかかわる方々に広く販売事業を行う企業として、子会社の(株)アグリパワーを設立しました。自社機能を拡張するのではなく法人を立ち上げたのは理由があります。地域振興を支える中小企業という視点から、“自社だけの繁栄”ではなく、肥料の製造・販売に関わるさまざまな企業・団体が自在にかかわれる“受け皿”をつくる事が大事だと考えたからです。「アグリパワー」の社名には、農業に関わるすべての力になりたいという想い、大地に地力をつけて健康な土壌をつくり、健やかな野菜・果樹の生産を支える力になるという意思、そして、地域の農家・酪農家との架け橋となり地域活力の源になるという決意が込められています。

会社設立から50周年を迎える(有)アサギリ、そして(株)アグリパワーの設立。循環型社会を支える環境経営企業として、地域との共生・あるべき地球環境の提案を追求し、まい進していきます。

会社概要

創 業:1965年
資本金:1,000万円
事業内容:産業廃棄物処分業
従業員数:17名
所在地:静岡県富士宮市人穴203-51
TEL:0544-52-0212
URL:http://asagiri.info/