シリーズインデックス:チャレンジ環境経営

【第24回】地域とともに主体的な林業と地域づくりへ (株)I・T・O 代表取締役 伊藤 孝助氏(奈良)(2015.10.28)

伊藤社長 (株)I・T・O 代表取締役 伊藤 孝助氏(奈良)

持続的発展が可能な循環型社会をめざしバイオマス発電の新事業へ

 奈良県は森林面積7割超という国内有数の林業県ですが、国産材の利用低迷により就業者は減少、集落の高齢化・過疎化や放置林の増加が起こっています。伊藤孝助氏((株)I・T・O社長、奈良同友会会員)は、かねてより林業の衰退や放置林に問題意識を持ち、吉野の住民と森林木材を利用した継続的事業を行うためのNPO法人などの活動を行ってきました。自社の廃棄物回収・リサイクル業については「環境負荷の少ない持続的発展が可能な循環型社会への転換に役割を果たすもの」と位置づけています。とくに「分別・再資源化」に力を入れて廃棄物を価値ある商品へ生まれ変わらせることを基本理念に据えており、2012年に「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」が制定されると、吉野の未利用間伐材から生成した木材チップを燃料とする発電事業に着手しました。

山づくりを見据えた発電事業~住民理解を丁寧に築いた1年

発電所イメージ  伊藤氏は、運営会社として(株)クリーンエナジー奈良を設立するとともに、原料の安定供給や質的保証を担う「奈良県木質バイオマス発電安定供給協議会(以下、安定供給協議会)」を立ち上げました。事業計画の第一歩は地元住民への説明でした。当初は、「廃材や廃棄物を燃やすのか」「はげ山になるのでは」など誤解や反対意見が多く聞かれました。「廃棄物処理業で、地元とセットで動かなければ自社の存続はないと実感していた。発電事業も一緒です」と伊藤氏は言います。1年かけて地域の住民や林業家に説明にまわり、原料は間伐材だけであること、間伐材が売れれば木材価格の下支えになること、林業が担っている生態系保全や水源涵養(かんよう)といった山づくりの意義などを丁寧に伝えていきました。その結果、建設の是非を問う住民投票ではほぼ全会一致で賛成の票が投じられ、安定供給協議会には県下のすべての森林組合が加わりました。

 発電事業の公共性や地域への波及効果は高く評価され、奈良県が「奈良県緑の産業再生プロジェクト基金」から14億円の無利子融資を行ったほか、日本政策金融公庫による低利融資、県内の金融機関を含み組成されたシンジケートローンなど官民一体となって支援が行われています。

だれにも利益があり循環する放置林再生のサイクルをめざして

木質チップ  木質バイオマス発電に使用する材料は、伐採されながら放置されている間伐材です。この材は森林組合を通じて(株)I・T・Oの吉野工場で木材チップに加工され、燃料となります。安定供給協議会は、原料材の適合認定や、木材の出所や工程を明確にするトレーサビリティ管理、そして不適切な過剰伐採や流通が行われないようにするための買取価格や期間の調整を行います。

 放置林が増加する要因として、森林所有者にとって間伐費用や人手確保の負担が大きいことが挙げられます。伊藤氏は、助成金を活用して間伐の費用負担を軽減する提案を行ったり、山の木をすべてチップにするのではなく建築用材・合板用材など木材として使用できる材を選別出荷したりするなど、常に森林所有者に還元できる方法をとり、木材バイオマスの利用が進む循環を生み出すことが重要だと考えています。吉野発電所の事業においては、森林所有者・森林組合・安定協議会・発電所が、「山に新たな価値を創出し、放置林を再生する」という共通した意義で成り立つ関係を構築しました。安定協議会による認定制が運用の核になっていることで、今後は個人の森林所有者も自伐林家(じばつりんか)として加入が増えてくるのではと期待しています。

持続可能な山づくり・地域づくりへ

 将来的な課題は、木材チップの安定的な調達です。そのために必要なのは、間伐した材を運び出すための路網整備です。間伐材の商品価値が高まると林道の近くでは搬出が活発化しますが、林道が整備されていない山腹は搬出できずに手つかずのままとなる恐れがあります。銘木を抱える吉野の山では、1本100万円する木をヘリコプターで切り出すという林業が成り立ってきましたが、銘木の育つ環境は限られ、管理される山と放置される山には格差が生まれています。間伐材の有用資源化は、一帯の木に価値が付加できるもので、路網さえあれば民間の力で継続的な運用が可能です。今後の林業をどう描き路網整備を進めるのか、国や県の方向性も大きく問われる局面です。

 他方で、伊藤氏は林業自体への助成金は将来的には厳しくなるのでは考えており、自立的・自律的な林業をめざすことも提起します。発電所の見学会などを事業化し、その収入を路網整備の財源にすることなども構想しています。発電所建設にあたり「山づくりは人生をかけた尊い仕事」と呼びかけ、地元の林業家と交流を重ね、吉野の山の将来の姿も語りあいました。地域の産業や環境づくりを住民とともに考え、持続可能な地域社会のあり方を主体的に描く。その結実のひとつである「吉野発電所」は、今年12月より稼働を開始する予定です。

会社概要

■(株)I・T・O
創 業:1981年
資本金:4,000万円
事業内容:産業廃棄物処理業、リサイクル業、リサイクル製品生産
従業員数:82人(グループ企業正社員合計)
所在地:奈良県奈良市南庄町136番地
TEL:0742-95-0804
URL:http://www.i-t-o.jp/

■(株)クリーンエナジー奈良 吉野発電所
資本金:2億7,000万円
総事業費:38億円
発電出力:6,500Kw/時
年間売電料:4万3,000MKw(約1万2,000世帯分)
発電所所在地:吉野郡大淀町大字馬佐383-3
事業所所在地:吉野郡大淀町大字馬佐391-18

■奈良県木質バイオマス発電安定供給協議会
URL:http://www.nara-woodybio.jp/

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