【第16回】東京築地市場で経営革新に挑む 東京魚類容器(株)代表取締役 原 周作氏(東京)

原周作社長

東京魚類容器(株)代表取締役 原 周作氏(東京)

 古い商いの伝統が息づく東京築地、この街で経営指針を手に経営革新に臨む経営者がいます。東京魚類容器(株)の社長、原周作氏は1978年生まれの39歳。築地市場内で水産仲卸業者をメインに発泡スチロール箱などの包装資材を販売しています。

 築地で使用される発泡スチロール箱は年間1,000万個、売り場は朝5時に始業し午後3時ごろまで、ドライアイスは夜中12時から販売。そして魚のセリの現場はまさに戦場です。市場内にお店と商品があるのが同社の強みとはいえ、お得意様である仲卸業者は、気の短い江戸前の職人気質であり、容器の配達はスピード勝負です。一回に40個もの箱をうずたかく積んで迷路のような築地市場の混雑のなか、配達をしていきます。

問題相次ぐ社内

 同社は1948年新潟県小国村より上京した祖父が創業、祖父の死後、叔父、父と承継を重ねてきました。原氏は損害保険会社勤務を経て、2005年27歳のとき入社しました。創業者である祖父は労使の信頼関係を重視した当時としては先進的な経営者でしたが、それらは事業承継の過程で承継されることなく原氏の入社当時は社員が11名で平均年齢は62歳、2期連続赤字。社内の状況は厳しいものでした。入社後のわずか6年で当時10名の会社で累計約20名が退社、荒れた社内では役員の背任、商品の横流し、安売り業者との価格競争、番頭さんの横領、労働争議など問題が相次ぎました。原氏自身もこうした社員と正面から向き合うことにためらいがありました。

経営指針作成に取り組む

 そして2012年、33歳で原氏は4代目社長に就任。2014年に東京同友会の経営指針成文化セミナーに参加しました。従来の「包装資材を通じて日本の食文化発展に貢献し続けます」に加え、「共に学び成長し感謝しあえる会社を目指します」という理念を新たにつくり、残業の不均衡をなくすため社内のシフト制も導入しました。

 しかし個人面談で理念を発表した原社長に社員の反応は冷ややかでした。原氏は社員から「ばか社長」と陰口をたたかれました。その日の金銭重視、仕事ができれば協調性や礼儀は二の次の職人気質、それが当たり前の社員に長期的な視野での組織経営を進める原氏の姿勢は理解しがたいもので、導入当初から3名の退職者がでるなど経営指針の浸透は簡単には進みませんでした。

変わりはじめた社内

 しかし、まずは社内学習会からはじめ次第に社員が参加してくれるようになりました。そして社員と仕入業者を集めての初めて決算報告会を開催しました。同友会の共同求人活動に参加して女性社員を新卒採用し、社内の空気が変わってきました。

 社内報の『ぎょるい新聞』(他の人の仕事紹介、誕生日、イベント告知などを掲載)を月1回、給与明細に同封し、昼礼で誕生日を祝ったりするなど、さまざまな取り組みを重ねる中で売上も伸びました。経営指針についてはその後もセミナーのサポーターなどの形でかかわり続け、成文化から実践に向けての経験を重ねました。また同友会の共育委員会なども活用し、幹部育成にも力をいれ、社員による社員教育などもとりいれていきました。そうした努力が実り、創業以来の悩みであった社員の定着率もかつてよりは安定し、今年は創業以来最高の売上を記録しました。

 「ばか社長」から始まった原氏の挑戦、組織経営という新風は伝統ある築地でも評価され、近年ではドライアイスと食品トレーを商う周辺の他社から業務の引き継ぎを頼まれるなど、さらなる発展の兆しを見せています。

社員さんと

会社概要

設 立:1948年
資本金:1,000 万円
年商:4億2,300万円(2016年度:9月末)(今年度5億円見込)
事業内容:容器・包装資材販売
従業員数:16人(正社員9名、非正規社員7名)
URL:http://gyoruiyouki.com/
紹介動画:https://youtu.be/tResgYGAwSQ