【特別版】梱包のプロが地元の中小企業の強みを引き出す (株)東北ウエノ代表取締役 鈴木 雅彦氏(岩手)

鈴木雅彦社長

(株)東北ウエノ 代表取締役 鈴木 雅彦氏(岩手)

地元の中小企業の強みを引き出すのが梱包のプロとしての誇り~“適材適包”で共に喜びのある人生を創造し、地域に貫献

ショールームにて

 「どんなものでも包めますよ」。社長の鈴木氏に、ショールームでこれまでの20年で培ってきた、さまざまな「作品」を見せていただきました。車輌の助手席のドアが幾重にも重なって梱包された状態で置かれています。かなりの重量があるはずの、その「作品」にはキャスターが付いていて、片手でスムーズに運ぶことができます。
 その隣には縦横120センチほどの容器に、小さな指先でつまめるほどの1センチほどのベアリング部品がずらっと並んでいます。持ち上げても全く音がしません。「いずれもわが社の提案した製品です」。どんなものでも包んでしまうその技術は、包むというよりもまさに一つの芸術作品にも見えてきます。

サラリーマンから経営者に

 一関市で包装設計・改善などを行う(株)東北ウエノの代表取締役の鈴木雅彦氏は、包装業の第一線の営業社員として、東北地域開拓強化のために見ず知らずの土地に立つことになります。そして現専務、奥様の郷里でもある一関で、(株)東北ウエノとして独立開業しました。

 東京出身の鈴木氏は最初地域になじむのに本当に苦労しました。「よそから来た私ですから、早くなじむためにいろいろなところに顔を出しなじもうとするのですが、最初は受け入れてもらえませんでした。やっとなじめたのは子どものPTA。しかも中学校になってからでしたね…」とその当時を笑いながら話します。

提案から設計納品まで一貫して担える強み

緩衝材

 同社では段ボール・プラスチック・発泡プラスチック・フィルムなどあらゆる材料を組み合せ、工場などへ最適な提案をすることができます。包装の仕様を丁寧に見直すことで、作業効率の改善はもちろん、コストの改善まで提案しています。何よりも強みは設計から納品まで一貫して一括管理できることです。

 2002年にはIS09001、14001を同時取得。全社一丸で品質管理と環境対応を徹底しています。お客様が使う包材を量産化する前の最も大切な製品の提案なので、工場で使う最先端の同様の設備を導入し、3Dカメラでの立体撮影による表現はもちろん、データのデジタル化で大幅に提案時間を短縮、正確な緩衝設計が可能な技術を持っています。これは同社が東北でも先駆けで実現した試みでした。

現場で「富む」を考える

 しかしながら機械は購入すれば、どの企業でも真似ができます。同社の真骨頂は、社員一人ひとりの人間力です。

 東北ウエノの営業社員は、必ず現場への訪問から始まります。工場の一連の流れを実際に目で見て確認し、現場の方が何で困っているか、どこを改善したらいいのかを聴いていきます。日常の作業に慣れていると、課題になっている場所に気づかないものです。そこで提案力が生きてきます。

 冒頭のベアリング製品は、これまで運ぶときの揺れで壊れることも多く、歩留まり率をどう下げるかが悩みでした。そこでベアリングの玉が動かないように今までと逆向きに入れる容器を提案、ほぼ歩留まり、ゼロを実現しました。現場の社員が「包むこと」が好きでなければできない提案です。

女性リーダーが活躍し輝ける職場

 鈴木氏は当時を振り返って話します。「20年間のサラリーマン時代にいつもこんなふうだったらいいな、こうやったらもっと仕事が好きになれるのに…という思いを持っていました。今自分が経営者として、それが気持ちの土台になっています。だから私は常に社員には『この仕事が好きになってほしい』と言っています」。設計部門のリーダーとなり活躍している入社14年目の佐々木幸子さん。佐々木さんは同社には派遣社員として入社しました。この仕事に出合い、全く経験はなかったのですが、着実に技術、技能を積み重ね、今では社内の品質管理をけん引するなくてはならないリーダーです。2013年には全日本の包装技術研究会の論文発表を担当、見事全国金賞を受賞しました。

 ご主人の転勤を機に盛岡に移住することになり、鈴木社長は100キロ離れた場所からの通勤は難しいと落ち込んでいました。しかし現在でも新幹線で通い続ける毎日です。

 会社の目標と一人ひとりの人生目標、働くこと、生きることを社内で共有してきた同社。まさに鈴木氏が話す「会社、仕事が好きになってほしい」が実現しています。

中小企業が独自の提案をしていくことの大切さ

 鈴木氏は包材関係の専門分野の外部講師をはじめ、地元企業、そして最近では地元の高校生などこれから就職する学生に向けて「働くとは、生きるとは」「よい会社とは」「地域で生きるとは」など、日ごろの同友会の例会で語り合っていることをそのままダイレクトに伝えています。

 「これからは単純に下請け企業としていては将来がないとお客様にも言いますし、地元企業にもいいます。お互いにメーカーになり、こういうものがいいですよ、こういうものがほしいですよとキャッチボールしていかないと将来がありません。今のものづくりの形で満足していてはいけないと思います。地元でももっと中小企業が手を挙げて、独自のものを提案していくことが必要です。そういう考えを持った企業は地域に必ずいます。皆さんも私たちと一緒に生きがいのある人生を歩みませんか。そんなことが実現したら本当に地域は変わりますよ」。その心は、高校生にもしっかり伝わっています。

次代への新たな目標へ向けて

 同社では今、新たな挑戦としてエネルギーシフトの実践を始めています。お客様の工場の断熱、省エネルギーの提案やエネルギーコスト低減のためのリボリューションファンの導入提案にはじまり、包装材を生かした災害時に冷蔵庫がわりになる保冷庫の開発、エア緩衝材の採用など、業界全体で取り組めるエネルギーシフトを提案しています。

 昨年には鈴木氏の息子が一関に戻り会社に入りました。社員にも社長になるチャンスを考えながら、期待できる後継者が生まれたことにほっとした表情を感じます。

 東北ウエノの経営計画には、将来の目標・計画の第一番目に「共に働く喜びと自主独立」を掲げています。「全員でよい会社をつくり共に喜び、地域に貢献しよう」の長期ビジョンの実現に向け、そして次なる目標、創立30周年へ向け鈴木氏はさらにまい進して進み続けます。

「同友いわて」Vol.113(2017年12月)より転載

経営理念

[適材適包」を合言葉に
適正包装を提案し、循環型社会作りに貢献します。

会社概要

創 業:1994年
資本金:2,000万円
事業概要:輪送包装改善提案、包装設計・加工・販売・包装技術試験、包装資材・包装機械類の販売など
従業員数:13名
所在地:岩手県一関市地主町3-35 コスモスビル2F
TEL:0191-21-4531
URL:http://www.touhokuueno.co.jp/