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【第39回】経営指針実践が社内コミュニケーションのカギ (有)キホク 代表取締役 上田 剛士氏(愛媛)(2018.03.28)

上田剛士社長 (有)キホク 代表取締役 上田 剛士氏(愛媛)

創業の出発点は「おもてなし」

社屋 「ある日、突然社員が一斉に辞めたら、あなたはどうしますか?」

 そんな体験をしたのが、(有)キホク代表取締役の上田剛士氏(愛媛同友会会員)。主力事業は貸おしぼりで1974年に父が創業し、上田氏は二代目の若社長です。創業時は県内観光客も増えて業界としても勃興期。愛媛でおしぼり文化を広め、「おもてなし」をしたいというのが出発点でした。売上はバブル期までがピークで現在の単価は半値まで下落。一時期はクリーニング業からの新規参入で価格競争が激しかったのですが、今は大手資本の参入もないニッチ産業です。

 おしぼり工場には小さいころから出入りし、後継ぎも「抵抗感は何もなかった」と上田氏。1999年にキホクへ入社します。翌年には父から「創業の経験」を学ばせるために、フランチャイズ契約でトイレ総合サービス事業に着手。おしぼり事業から離れ、専念します。厚労省の社内認定制度であるトイレ診断士も取得。トイレ内の換気回数や、アンモニア臭の濃度、衛生状態等を数値化して分析し、より良いトイレ空間を提案していく専門家です。顧客は、飲食店以外の役所や、スーパーマーケット、ゴルフ場などを開拓し、消臭などの高付加価値商品で順調に業績を伸ばし、2007年度の売上は9,700万円となり過去最高にまで達しました。

社長就任3カ月目で工場以外の社員全員が退職

 2007年には常務取締役に就任。社長から今後は会社全体も見てほしいと、おしぼり事業にもかかわり社長就任の準備期間を設けられました。これまでの営業戦略は安くしてもいいから契約を取る手法でした。上田さん氏はフランチャイズで鍛えた高価格高品質サービスの営業手法で、おしぼり事業にも商品価値を高め単価を上げる方針を掲げます。

 ところが2010年2月に34歳でいよいよ社長に就任すると、5月末には工場以外の全社員が辞めることに。4月下旬に、長年勤めていたナンバー2の幹部社員が、突然朝礼で「社長の方針にはついていけない」と感情をあらわにしてその日に辞職。他の営業・配達社員も不安にかられ、1カ月後には全員辞めてしまいました。価格競争一辺倒の業種に真逆の方針転換を強いたことに「考え方が賛同されず机上の空論だった」「現場を知らず経営の勉強もできていなかった」と現場に寄り添えていなかったと上田氏は振り返ります。その当時から朝礼で理念唱和はしていましたが、社内にビジョンはなく入退職を繰り返す雰囲気の職場でした。

社員が夢をもてる経営ビジョンと経営計画

 社員も辞め客数も減少し、2011年度は売上が5,900万円にまで下がりました。一からのスタートです。採用募集は思うように人が集まらず、弟ら家族も集め再建に奔走中のとき、埼玉の同業者から愛媛同友会を紹介され、2011年11月に即入会。2012年度から愛媛同友会ではじまった共同求人活動に参加する中で、採用とともに社員と「共に育つ」大切さなどを学びます。

 経営指針成文化セミナーにも参加しました。初回は何も分からず悪戦苦闘しますが、受講後3年目のある時、セミナーの講師に「理念を達成する経営計画」の重要性を学び、素直に腑に落ちたと上田氏は言います。従来は理念と方針だけで、理念の「感謝と奉仕」だけでは自社が何をめざしているのか分かりにくいものでした。

 経営計画は「社員が幸せになるために書いた」と上田氏。「おもてなし」で社会が喜ぶだけでなく、社員が右往左往せず、社員自身が幸せになる、夢を持てる計画書を作りたい。自分たち自身がどうなりたいか、何をすべきかを成文化しました。以前は、汚れたままの制服で配達する社員もいて、注意してもなぜそれがいけないのかわからないほど意思疎通がとれませんでしたが、計画書の共有のおかげでビジョンにある「良い影響を与える人間集団」として格好も心も綺麗にしようと計画書を通して話が共感でき、社風もよくなっています。社員は「理念の本当の意味を理解することができ、自分や家族が幸せになるために、社員としてやらなければならないことが明確になった」と打ち明けてくれました。

みきゃんちゃんのおしぼり  また、商品価格は自分たちに対する評価であるため、自社商品が買い叩かれるような安い仕事をするのではなく、価値を上げようと社員の自覚が重要です。自社の価値を上げるためにも、現場からニーズを探し、現在では、「おもてなし」そのものを商品価値として適正価格で適正サービスの提供をめざしています。観光の活性化のために愛媛県のゆるキャラ・みきゃん柄のフィルムで包装するなど、付加価値路線の展開に努めています。今後の脅威は、おしぼりを使わない大手フランチャイズ飲食店の進出による市場の縮小。今治タオルブランドの活用や店名刺繍入りのおしぼりなど対抗しうる商品の研究開発をし、「おもてなし」を軸に現場の声を大切にする経営をしていきたいと決意を新たにしています。

キホクを支えてきた障がい者雇用

おしぼり工場の様子  これまで営業・配達社員が辞める中、工場は知的障がいのある社員が支えてきました。年齢層は20〜50代まで幅広く、長い方の勤続年数約30年。1日ひとり1万本のおしぼりを製造する「戦力」です。特別支援学校の実習も受け入れ、工場の新卒採用は障がい者雇用が基本です。

 一人が二つ以上の違う仕事をできるようにしているため、旅行など趣味で一人が休んでも勤務交代が可能な働き方に取り組んでいます。職場内の業務連絡も本人たちができそうなことはチャレンジさせ、障がい者が一つの仕事しかできないイメージを変えていきたい。また毎年1回、障がい者のご家族も含めた全社員のご家族で日帰り社員旅行を社員が企画し、ご家族にもどういう社員と共に働いているか理解を深める場になっています。

 「同友会は社員を大切にする会です。社員と共に学び、障がい者雇用にも取り組んでいます。私も障がいの有無に関わらず雇用して社員を幸せにし、自社をよくしていく決意です」と上田氏は語っています。

経営理念

感謝と奉仕

経営ビジョン

良い影響を与える人間集団となり、おもてなし日本一の愛媛にします。

会社概要

創 業:1974年
資本金:700万円
年 商:9,200万円(2017年度)
事業内容:貸おしぼり、トイレ総合サービス
従業員数:19名(内、パート・アルバイト1名)
所在地:愛媛県 松山市古川南3-27-15
TEL:089-957-9005
URL:https://ja-jp.facebook.com/kihoku/

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