【特別版】インターンシップで社員が輝く (株)サニックス 代表取締役社長 佐藤 啓氏(山形)

佐藤啓社長

(株)サニックス 代表取締役社長 佐藤 啓氏(山形)

“火曜サスペンス劇場”からの脱却

 当社は総合自動車サービス業です。主に大型トラック、働く車の車検整備、鈑金塗装、ボデー架装、特装を行っています。社員数は74名、平均年齢は38歳です。働く車とは、機能を載せて運ぶ車のことをいい、走行部分と機能部分を合わせた総合サービスが当社の強みで、事業領域は働く車の快適環境創造業です。

 当社は1970年にニッシン自動車として8人で創業した小さな自動車修理工場でした。当時、若い女性に自動車修理工場のイメージを聞くと、“火曜サスペンス劇場の殺人犯が働いているところ”でした。ショックを受けましたが、当社も10人ほどの工場で離職率が高く、募集しても人が集まらない会社でした。

 しかし、2010年にターニングポイントが訪れました。二つの会社が経営統合し、社名をサニックスに変更しました。私はそれを機に山形同友会に入会し、その2年後に社長に就任。火曜サスペンス劇場からの脱却をめざし、経営指針をつくる会を受講し、いい会社になろうと決意しました。理念は「社会を幸せにする、会社と社員が幸せになる、100年企業をめざす」です。理念に基づく経営を行いましたが、社長の思いだけで社内は制度ありきのギスギスした雰囲気になり、うまくいきませんでした。

インターンシップの取り組み

 悩んでいたころ、同友会の共同求人委員会に参加し、事業の継続発展には採用計画、社員が成長するには教育方針、そして魅力ある会社づくりには職場環境の改善が必要であることを学びました。会社の成長には学びの環境が大切で、経営者と社員が共に育つための土壌づくりが必要と思い、山形大学のインターンシップの受け入れを決めました。

 多くの社員にかかわってもらおうと、3日間の研修担当者は総務・営業・業務の若手とベテランの中から選抜しました。担当者を集めた学習会では、「なぜ受け入れるのか」の目的を共有し、会社を知ってもらうこと、楽しんでもらうこと、われわれも楽しむことを重視した内容にしました。最初の年は農学部の1年生の男子が来ました。“まず教えてやろう”という気持ちで取り組み、私も起業家精神と経営理念を担当しました。しかし、伝えることの難しさに気づかされ、学生が興味を持つわかりやすい説明が必要だと感じました。そんな中で、若手担当者たちがいきいきと社会人と学生の違いについてディスカッションしていました。そこからインターンシップは若手社員にとってよい教育プログラムになることに気づきました。

 2年目は女子学生2人が来ました。今回は知ってもらおうという気持ちで取り組み、事務所だけではなく、工場の現場も含めたありのままを見てもらいました。前年同様の総務部と若手チーム中心でビジネスマナー研修、社内報編集会議、企業理念の説明などを行いました。

 3年目は医学部女子と工学部男子が来ることになりました。「一緒に考える」をテーマに、インターンシップの担当経験のある社員をリーダーにして、新入社員と営業事務の女子でプロジェクトチームを編成しました。プロジェクト名は「山大生を採用するぞプロジェクト」です。ミッションは、山形大学の学生を採用できるような提案を学生と若手社員が一緒にすることで、会社説明の資料とプロモーションビデオを完成させ、それを使って企業説明会で説明します。その過程で、魅力のある企業とない企業についてディスカッションを行い、今の学生が就職する際に重視しているのは、仕事の内容や、やりがいではなく、職場の雰囲気や人間関係であることがわかりました。その意見を参考に、笑顔を前面に出したプロモーションビデオと会社目線ではなく学生目線の会社説明資料が完成しました。企業説明会では11名の学生がブースに来てくれました。その学生たちの感想は「アットホームで仲のよさを感じる」「会社の雰囲気がわかる」と好評でした。その中から2名の学生が会社見学に来て今年の春に1名採用になりました。

学生の変化

 成果報告書からは学生のインターンシップでの気づきが伝わってきます。「企業のイメージ変化」について、参加前は大企業の下請け、昔から同じ仕事をしている、社員数が少ない、大変そう、と厳しい言葉が並んでいました。それが参加後は、会社にビジョンがあり新しいことにチャレンジしている、仲よく楽しそう、活気がある、アットホーム、という言葉に変わりました。「サニックスのイメージ」については、会社の雰囲気や人が好きになった、こんな会社で誇りが持てる仕事がしたい、ファンのひとりとして応援していきたい、という言葉をいただいて、インターンシップをやってよかったと実感しました。

社員の変化

 総務部の女性3人で学生に仕事を説明しましたが、総務は受け身の仕事で裏方と思っていた彼女たちは、教えることで会社を支える重要な役割を担っていることが認識できました。中でも総務部の女性リーダーはインターンシップの経験で大きく成長し、朝礼委員会の委員長になり、多くの社員を巻き込むリーダーシップを発揮するようになり、当社初の女性マネージャーになりました。

 当社初の新規大卒3人組は入社2年目でインターンシップを担当しました。彼らは事前に同友会の新入社員研修や経営指針発表会の資料を読み返して勉強し、学生と社会人の違いについて得意げに説明していました。人に教えることで知識が自分のものになることを経験した彼らは、自分の仕事に自信と誇りを持つようになりました。
 そして、昨年のインターンシップで大きく成長したのが、4月に入社したばかりの新入社員の女性2人です。一人はビジネスマナーを担当し、同友会の新入社員研修で学んだことや社会人になっての感想を伝えて自分自身の成長を確認することができ、もう一人はプロジェクトメンバーとして1カ月かけて会社を隅から隅まで調査し、会社の魅力を発見して会社が大好きになりました。今年の企業説明会ではメインとなり堂々と就活学生の前で話をしています。

 担当した社員たちの成長を見て、改めて学生を育てることで自社の社員も育つ「共育」効果がインターンシップにあることを実感しました。

会社の変化

 経営理念に沿った「共育」の場として9つの委員会活動がスタートし、社員が会社のよさに気づき、各自の個性やよさを引き出して、互いに認め合う共育の風土づくりが進みました。

 経営理念をわかりやすく伝えるための「くるまと人で未来をひらく」というコーポレートメッセージもできました。これはブランド推進チームが考え、みんなの思いが込められたものです。そして総務がお客様のおもてなしを考え、自主的にウエルカムボードやパネルを設置するようになりました。学生に支持される職場環境づくりとして、事務所のリニューアル、有給休暇計画取得、誕生日休暇などに取り組んだほか、「若者応援宣言企業」(厚労省)を取得して、働きやすい会社づくりを進めました。今年は「ユースエール企業」(厚労省)認定を目標に残業管理を行っています。

 こうしてインターンシップでの気づきから共育の風土ができ、社員主導でさまざまなことが行われ、社員が自発的に行動し、課題や問題を自分たちで解決する会社に変化していきました。

地域に与える影響と効果

 卒業予定の山形出身学生の地元就職希望率は29%と東北最下位でした。その理由の第一位は、志望する企業がないからです。若者が地域の魅力や企業の魅力を知らずに県外へ出ていくと、将来的に戻ることは非常に難しいと思います。

 その解決には若者に小さな魅力を発見する力、それを育む力を養うことが大事です。学生が中小企業の魅力を発見し共感してくれたように、若者が地域の魅力を発見することは、地域に誇りを持つことにつながります。インターンシップには共育効果があり、学生と社員の育ち合いが地域の魅力を育みます。会社でいきいきと輝く人は家庭でも地域でも輝きます。輝く人がたくさんいる地域は、人が集まる魅力ある地域に変わると思います。

 若者の夢を地域が一緒になって応援して実現させることができる、そこに深くかかわるのが、われわれ中小企業の役割ではないでしょうか。

(第50回中同協定時総会in宮城 第5分科会報告より転載)

会社概要

設 立:1970年
資本金:3,050万円
年 商:15億円、
事業内容:総合自動車サービス業
従業員数:74 名
URL:http://www.sanics.co.jp