【第3回】酒造りは、地域の米と水で人を醸す営み―曲イ田中酒造(株) 社長 田中 一良氏(北海道)

酒造りは、地域の米と水で人を醸す営み
曲イ田中酒造(株) 社長 田中 一良氏(北海道)

 曲イ田中酒造㈱(田中一良社長、北海道同友会会員)は、明治32年(1899年)に小樽運河のそばで創業した造り酒屋です。田中氏は、父親が体調を崩したことから銀行員を辞めて20年ほど前に小樽へ戻ってきました。程なく父親は他界。引き継ぎもないまま就いた4代目社長に、事業をどう立て直すかという難問が眼前に立ちふさがります。ふと外を見るとカメラ片手に運河周辺を歩く観光客の姿が多数ありました。小樽観光全盛期の幕開けだったのです。「ここで、観光客に地酒を販売してみよう」。田中氏は、木骨石造の亀甲蔵(きっこうぐら)を5億円を投じて年中見学ができるように全面改修し、東アジア方面からの観光客の受け入れにも注力していきます。

酒造りへのこだわりと、次なる展開

 同社のお酒は、北海道産米しか使用していません。北海道で飲まれているお酒の8割が本州産という現状を憂い、10年前に北海道産米しか使わないと宣言しました。以後、農家と一緒にお酒に適した米づくりなどを考え、昨年はニセコ町の“彗星(すいせい)”というお米を使用した大吟醸原酒「宝川(たからがわ)」が、全国新酒鑑評会で金賞を受賞。また、約7年前に同友会苫小牧支部の「地元のお酒がほしい」という依頼を受けて、「美苫(びせん)」というお酒の製造にも取り組み、年間1万本以上も販売されるまでに成長しています。

 最近では、「“飲むお酒”から“使うお酒”へ」と方針を打ち出して酒造技術を応用し、道産原料を使用したみりんや酢、醤油の製造にも着手しています。

地域と共に、革新し続ける企業を目指す

 平均年齢が30歳を切る同社は、“若さ”を生かしています。「地域に生きる企業として、やせ我慢しても地域の若者を毎年3、4名採用し続けています」と語る田中氏。団体客が亀甲蔵を訪れた際も、マイク片手に工場内を引率しながら小樽の歴史やお酒のおいしさを説明する姿は清々しいものです。また、女性社員11名が“酒造技能士”の資格を持ち、女性向けの純米吟醸酒「雅夢(まさゆめ)」を製造して話題を呼んでいます。

 活気に満ちた社風の裏には「若い社員から提案される企画はすぐに採用しません。しかし、たとえ断られても“ぜひやらせて欲しい”という情熱を傾ける人には企画実現に力を貸します」という田中氏の“親心”も垣間見れます。
また「地域を担う社会人を育てることも企業の大切な役割」として、年に2回は何らかの資格取得を義務付けています。日本酒の消費も年々減少の一途をたどり、小樽観光も新たな魅力づくりが試されています。厳しい現実を受け止めながら、絶えず社員に「革新しながら成長しよう」と呼びかけ続け、地域と人を醸(かも)す企業づくりに大きな期待が集まっています。

会社概要

創 業:1899年
設 立:1956年
資本金:1000万円
社員数:31名(男13 女18)酒造1級技能士13名(男8、女5)、
     酒造2級技能士8名(男2、女6)きき酒師12名(男6、女6)
業 種:1.清酒ほか各種種類の製造、2.全酒類の卸売販売・小売販売、
     3.食品の製造及び販売
所在地:本社 小樽市色内3丁目2番5号 TEL:0134-23-0390
     亀甲蔵 小樽市信香町2番2号 TEL:0134-21-2390
URLhttp://www.tanakashuzo.com/