【第53回】事業継承と女将への挑戦 (株)宝山亭 社長 小田美恵氏(愛媛)

 小田美恵氏((株)宝山亭社長、愛媛同友会会員)は瀬戸内海国立公園の中島姫ヶ浜で、新鮮な地元料理を提供する民宿、宝山亭を経営しています。最近、「えひめ地域密着型ビジネス創出ファンド」対象事業となりました。これは、愛媛県内で培われた製造技術や豊富な農林水産物、良質な自然資源など、地域に潜在する資源や地域のニーズを生かした「地域密着型ビジネス」を新たに開始しようとする個人や中小企業者に対し、初期的経費を助成する財団法人えひめ産業振興財団が創設した事業です。

小田社長

(株)宝山亭 社長 小田美恵氏(愛媛)

さまざまな職業を経験

 小田氏は料理旅館の長女として生まれ、父親から厳しいおかみ教育を受けました。しかし父親が保証人となっていた親友が事業に失敗、父親は全財産を失いました。その後小田氏は大阪の親戚の料理屋を手伝っていた時に結婚、間もなく長男が生まれましたが夫が病気になり、小田氏が保険外交員、たこ焼き店、鍋のたたき売り、夜なきそばの屋台販売など生活のためにさまざまな職業を経験しました。

 「これでは夢がもてない」と29歳の時に夫と長男と一緒に松山に帰郷、「これからは“車の時代”だと直感し、次男出産の4ヵ月前に自動車関連グッズを販売する会社、愛媛企画を創業しました。当初は次男をゆりかごであやしながら電話対応をする状況でした。

社員との育ちあい、同友会との出合い

 当初は社員が入社しては退職する繰りかえしでした。変化のきっかけは知的障害の女子高校生を職場体験で受け入れたことでした。両親や教師が「会社に迷惑をかけてはいけない」と辞退しましたが、小田氏は「自立できる1人の女性にしよう」とこの生徒を採用しました。交換日記を続けながら、一つひとつ丁寧に教えていくというかかわりの中で、周りの社員も変化してゆきました。

次男への事業継承

 1994年、小田氏が50歳のとき10年計画で社長を交代しようと決意。10年かけて大手企業を含めお得意様が3000社ある状態になり、いよいよ事業継承に着手しました。長男・次男とも大手企業に勤務するビジネスマンでしたが、小田氏は悩んだ結果「起業家型の次男」を後継者に選びました。「それから私と次男の壮絶な闘いが始まった」と振り返る小田氏、「同友会の仲間が厳しくも温かく見守ってくれた」ことが後押しとなりました。

女将への挑戦

宝山亭

 その後、小田氏は「宝山亭」を創業し女将になりました。99歳で亡くなった母親の「お前がお父さんの料理旅館を再建して」という言葉を胸に、国立公園の中島姫ヶ浜に民宿を構えました。1年かけて地元の漁師や農家と信頼関係をつくり、魚や野菜を直接わけてもらえるようになりました。比較的安い値段設定のために、常連客からは「もう少し値上げをして。つぶれてしまったら心を癒やす場所がなくなってしまう」と言われます。「人や物やお金が中島に流通するお手伝いができれば」と小田氏の情熱は尽きるところがありません。

会社概要

(株)宝山亭
設 立:2008年
資本金:100万円
社員数:10名
事業内容:民宿「宝山亭」経営
所在地 : 愛媛県松山市長師 55ー1
TEL:089-997-1115

(有)愛媛企画
経営者:代表取締役 小田泰平
設 立:1972年
資本金:1000万円
事業内容:販促品(PRノベルティ)・展示場用品などの企画・製作・販売
所在地:愛媛県松山市束本2丁目6-20
URLhttp://www.ehimekikaku.com/

「第13回女性経営者全国交流会報告集」より