【第41回】「新しい食べ方」で価値創造 (有)十勝スロウフード 代表取締役 藤田 恵氏(北海道)

藤田社長

(有)十勝スロウフード 代表取締役 藤田恵氏(北海道)

新たな食べ方の提案と素材へのこだわり

牛トロ丼

 (有)十勝スロウフード(藤田恵社長、北海道同友会)の「牛とろ丼」が大人気です。生でも美味しい牛肉を素材に商品の加工・販売を行っています。雄大な十勝平野の中で厳選した飼料を食べ、健康的な環境で育った“スゴイ”牛は、「安心して注文できる」と多くのお客様からの支持を受けています。
 生の牛肉をフレーク状に加工した「牛とろ」は、細かく刻んだ牛肉の赤身と脂肪部分を合わせ生のまま冷凍しています。道内外の飲食店やネット販売のみならず、北海道の全ての大学生協の学食で「牛とろ丼」として提供されています。

「Born Free」の牛

牛舎

 同社で取り扱っている牛肉は、系列牧場の(有)ボーンフリーファームで飼育されています。Animal Welfare(動物らしく飼育する)を重視し、豊富な微生物を含む健康な土壌、安全な牧草や複数の有効な土壌微生物を組み合わせた独自配合の飼料、牛が健康、衛生的な加工というこだわりで飼育されたボーンフリーファームの牛たち。
 「Born Free~生き物は皆生まれながらに自由なのが本来的な姿である」との思いをもとに、健康な牛の育て方を求め、生で食べても牛特有の臭み、しつこさの無い牛肉が誕生しました。

生で味わう「牛とろフレーク」の誕生

 肉の脂肪交雑(サシ)がキレイに見えるように、和牛の多くは出荷直前に牧草ではなく配合飼料や、稲・麦わらを食べさせています。これは、カロチンが豊富な牧草を食べさせないことで、肉の色が濃くなることを防いでいるのです。ボーンフリーファームの牛は、牧草を長く食べさせているので肉の色が濃く、ビタミンも豊富に含んでいます。
 しかし、消費者は薄い赤色の肉を好む傾向にあり、ヒレやサーロインといった一部の高級な部位以外の肉の市場開拓がとても困難でした。
 そこで、牛肉をひき肉状にして生で食べる「牛とろ」が考えだされました。

牛トロフレーク

 藤田氏はボーンフリーファームに従業員として入社し、2003年に牧場業と分社した形で販売や加工を手掛ける(有)十勝スロウフードが設立され、社長に就任しました。ボーンフリーファーム社長の斉藤英夫氏によって既に「牛とろ」の原型が開発されていましたが、加熱用のひき肉と見た目を差別化させアツアツの丼ご飯に乗せるため、形状を変える研究が始まりました。1996年から2001年頃には薄く丸い板状で、丼に乗せるための「牛とろ」も開発されました。
 しかし、「もっと気軽に使える形の“牛とろ”を作って欲しい」という要望が強くあったため、ソーセージ用に肉を細かくカットする「サイレントカッター」という機械を用いて、フレーク状の「牛とろ」の試作を食品加工技術センターにて何度も重ねました。こうしてフレーク状の「牛とろフレーク」が完成しました。

 「牛とろフレーク」は、一つひとつがこだわりの工程で生産されています。肉の外部は微生物に汚染されている可能性があるので、清潔なナイフで肉の表面を手作業で丁寧に削り取ります。削った肉を赤肉、すじ肉、脂肪別に選別します。「牛とろ」に使われる肉を切り分けて冷凍し、一定期間おいた後にサイレントカッターで細かくフレーク状にカットします。そして、計量し手早く包装され、素早く凍結します。
 ボーンフリーファームで大切に育てられた牛から作られる「牛とろ」は、一度に大量生産することは困難なのです。

農商工連携で新たな挑戦、夢へ

 フレーク状の「牛とろ」が誕生し、10年目を迎えた今、藤田氏は新たな展開に進んでいます。2010年9月に農水省の6次産業化対策事業の採択を受け、2011年3月に新工場が完成予定です。“牛とろ”の生産量は増え、新たにソーセージ、ベーコン、ハムの加工も手掛けていく予定です。

 また藤田氏は、同じ十勝で肉牛生産を行っている北海道上士幌町の㈱ノベルズとともに、2010年6月に「十勝産経産牛を使用したオールビーフ加工品の開発と販路開拓」で経産省の農商工連携において事業計画認定を受けました。(株)ノベルズとは赤身も脂身も牛のみの「オールビーフ」のソーセージ開発に取り組んでいます。
 
 「付加価値を高めるとは、物をただ並べただけではいけない。お客様に知ってもらい、理解してもらうこと。ここの商品は違うと満足してもらうこと。」と藤田氏。「牛とろフレーク」の誕生は、消費者への牛肉の食べ方の提案にもつながりました。牛肉に限らず、今まで使い道に困っていたもの、無駄になっていたものを売れるものにしていき、「もったいない」を減らすという藤田氏の夢への挑戦はこれからも続きます。

会社概要

設 立:2003年2月
業 種:陸のマグロ、牛とろフレークをはじめ、安全で健康に良い牛肉の製造販売を主とする事業
従業員数:12名
住所:北海道上川郡清水町御影西1-4-16
TEL:0156-63-3011
URL:http://www.gyutoro.com/