【第45回】生産者と共につくる国産畳 (有)鏡畳店 代表取締役 鏡芳昭氏(山形)

鏡社長

(有)鏡畳店 代表取締役 鏡芳昭氏(山形)

 さくらんぼの産地として知られる寒河江市にある(有)鏡畳店(鏡芳昭社長、山形同友会会員)は、1916年の創業以来、地域の畳屋さんとして歩んできました。
 畳市場が縮小していく中で、い草生産者との信頼関係を背景として、国産にこだわった品質の高い畳に力を入れ、お客様の支持を集めています。

市場縮小の中で理念づくり

たたみ

 鏡氏は畳高等職業訓練校で畳職人としての技術を学んだ後、4代目として家業を継ぐため、1991年に鏡畳店へ戻ってきました。入社したころはメインのお客様であるハウスメーカーや工務店からの受注も多く、機械を導入し量産体制を整えた時期でした。しかし90年代後半から住宅様式の変化、住宅着工件数の減少で畳の需要が激減。さらに価格競争の激化で単価が下落していきました。

 危機感から2002年に山形同友会の経営指針作成セミナーを受講。「何のために経営するのか?」を問われ、改めて畳屋とは何かを見つめ直しました。

 畳の歴史は古く「八重畳」として古事記にも記され、昔は敷いて使われていました。室町時代の書院造りによって畳を部屋に敷き詰めるようになり、その後の茶道の発展で畳が普及し、江戸時代半ばから庶民も使えるようになっていきました。

 畳は長い歳月をかけた日本固有の文化であるということに気づき、「たたみ文化の創造」を使命とした経営理念をつくりました。

産地との交流をとおして

い草を栽培

 その後、訓練校時代の友人と日本一のい草産地である熊本県八代の農家をはじめて訪問します。い草の生産から刈り取り、乾燥、畳表に仕上げる加工まで手掛ける生産農家の仕事は重労働でコストもかかります。しかし、中国産の低価格な畳表の輸入で価格破壊が進行する中ではそれに見合う価格にはなりません。

 熊本県では1989年に約5800戸あったい草農家は現在約650戸。毎年約10%減り続けているという産地の厳しい現実に直面します。鏡氏は「日本のい草農家がなくなると日本の畳文化はなくなる」と直感して衝撃を受けます。

 また、職人としての技術を磨くことばかりで、畳屋をしているのに、い草の品種も織り方も、どんな工程を経てできているのかも知らず、自分の無知さにも気づきます。鏡氏は「産地との交流の機会がない地方の畳屋には、い草の生育状況や作柄といった産地の情報が分からない。また産地でも自分達が出荷した畳表がどのように使われているのかが分からないといった情報断絶の問題があった」と語ります。
 そこから鏡氏は産地に足を運び、農家の方の勧めで農業体験を重ねてきました。

高品質な国産畳の販売へ

生産者とともに

 昨年、国内で生産された畳表は400万畳ですが、畳は最終加工地を産地とするため国産品として950万畳が流通しています。農家の方が丹精込めて生産した畳表を正しく評価してもらいたいと、畳に関する情報の発信に取り組みます。

 そして、産地との信頼関係をもとに仕入れた国産の畳表に長年培ってきた技術を生かし、高品質な畳の施工販売に挑戦します。ネーミングは「正直たたみ」。
畳替えのお客様を中心に純粋な国産と中国産の違いが分かる資料を準備し、提案していきました。その際にはお客様が乾燥したい草や畳表を見て触って感じることができるように工夫しています。

 はじめは「安くなければ売れないのでは」という先入観があって勇気が要りましたが、お客様は違いを認識して、納得した上で国産畳を選んでくれました。最近では同社の取り組みを知ったお客様からの問い合わせも多く、現在畳替えのお客様の95%が国産畳になっています。

 また、設計事務所や工務店等の方にも知ってもらおうと国産畳の良さを紹介し、工務店やハウスメーカーからの発注も増えてきました。

農商工連携でさらなる挑戦

 2007年に高品質の国産畳表を使った畳の普及拡大をめざして畳屋道場(株)を設立。そして今年2月、畳屋道場(株)と下氷辰也氏を代表とする熊本県八代市生産農家の方々とともに、「熊本県八代産い草による高品質な畳表を使った国産畳の企画開発とその施工販売ネットワークの構築」を図る事業が、農林水産省・経済産業省の農商工等連携事業に認定されました。

 「これから同じ思いで活動していく畳屋の仲間を今年3月末から全国的に募集していく予定で、仲間の輪を広げていくことが課題。今まで職人としての技術だけを追ってきたが、産地との交流を通して畳は農産物であり生産農家の方々と一緒につくり上げていくものということが分かった。素足の生活(健康・快適性)、畳のある贅沢な空間(デザイン性)、1300年続く畳と人の物語(機能性)をコンセプトとして、消費者に安心・安全な畳のある暮らしを提供していく。その上で産地農家と仲間の畳店の経営改善が実現すれば、日本の伝統的畳文化を継承していくことができる」と語る鏡氏のさらなる挑戦は続きます。

会社概要

創 業:1916年
設 立:1997年
資本金:1,500万円
業 種:畳の製造販売
従業員数:6名
住所:山形県寒河江市中央工業団地64
TEL:0237-86-5063
URL:http://www.igusa.net