【第5回】情報アンテナショップで市場創造(有)大倉菓機 専務 大倉 崇史氏(大分)

大倉専務

(有)大倉菓機 専務 大倉 崇史氏(大分)

 (有)大倉菓機(大倉崇史専務、大分同友会会員)は別府市で1911年に創業。別府市は源泉数、湧出量ともに日本一の温泉地ということもあり、創業当初はお土産用せんべいの型の製造・販売を行う鍛冶屋でした。店内には創業当時に使用していたせんべいの鋳型が並んでいます。しかし、せんべいの需要が減っていくにつれて、お菓子やパンを調理するのに必要な機械・器具の販売へと事業転換していきました。

 1967年に本社と工場を現在の場所に新設。現在は自動せんべい焼成機や蒸気ボイラーの製造・販売や自社開発機械の製造、製菓製パンや食品機器の販売・修理を行っています。せんべいを焼く機械は九州各地の観光地で使用されていますが、洋菓子店、ベーカリー、和菓子店などいわゆる製菓製パン業に特化し業務を行っています。また、店内にはお菓子の金型など家庭用調理器具も売っており、料理が趣味という人も訪れます。

徹底的な打ち合わせでニーズに合わせる

食品製造機械

 菓子型などの道具の配達はもちろん、新しく店舗や工場を作りたいというお客様と直接打ち合わせをして、工場のレイアウトや図面制作を行い、機械を納品、修理やメンテナンスまでを一貫して行っています。扱っている機械の種類は100種類以上。同じミキサーでも混ぜるものや素材によって使用する機械が変わってきます。せんべいを焼く機械はせんべいの薄さや大きさによって違います。どういったものを作りたいのかお客様からの要望を聞き、100種類以上ある機械の中から要望にぴったりの機械を提案しなければいけません。

 創業100年を迎える同社では、お客様と徹底的に打ち合わせを行い、これまでの知識と経験を生かすことで一人ひとりの要望に応えています。また、店舗のプロデュースからメンテナンスまでを一貫して行うことも信頼を得る強みとなっています。

 お客様から「せんべいに入れるための、炒った豆を自社で作れないか」という相談がありました。豆を炒るためには前の晩に水に浸しておき、その水分量などを考える必要がありますが、要望にぴったり合う機械がなかったため同社で制作することにしました。炒った豆を取り出しやすいように工夫もし、お客様から大変喜ばれました。

機械製造のノウハウをベーカリーショップへ

店舗外観

 一方で大倉氏はお客様であるベーカリーショップの閉店が増え、大手チェーン中心になってきていることに危機感を感じていました。またお客様からも「新しく店舗を出したいがノウハウもなく不安だ」といった声がありました。そこで、個人店のためのモデル店舗としてのベーカリーショップができないかと考えていました。

 そんな中、同社が所有するテナントが空いたことがきっかけで、2008年7月にベーカリーショップ「ナチュラルベーカリーCram」を立ち上げました。商品開発から販売方法、サービス、店舗設計に至るまでこれまで同社が培ったノウハウを集積しており、店舗をオープンするにあたって今まで取引先に勧めていた機材などを導入しました。パンの発酵には同社が扱っている機械で発酵させた天然酵母「ルヴァン種」を使用。生地アイテムは20種類でイーストを使用したものが主体となっています。約90種類のパンとドリンクをカフェスタイルで楽しめるような新しい提案型の店をコンセプトにしています。

店舗内

 カタログだけでなく実際に運営している店に来てもらい提案することで、既存のお客様はもとより、新規のお客様も増えました。今は県内で製菓業を営んでいる方と、大分県産の米粉を使用したラスクの共同開発をしています。米粉は通常のパンと比べ製造方法が難しく、そのテストも「Cram」で行っています。

 ベーカリーショップではありますが、食品製造全般の相談を受けることもあります。豆腐を扱うお客様からはおからを有効利用したいと相談がありました。豆腐を製造する時に出るおからは産業廃棄物として処分しなければいけません。そこで考えたのは「おからを使用したせんべい」を作ることです。おからをただ焼くだけでは固くなってしまうので、どう焼いたらよいのかをお客様と一緒に考えています。

変えてはならないもの、変えなければならないもの

 同社は製菓製パン業を営むお客様が中心だったため、「Cram」を始めるにあたり、「今まで以上にお客様の信頼を得る必要がある」と考え、できるだけ多くの取引先を訪問し、お客様に提案できるような情報アンテナショップとしての提案型の店舗を目指しました。ノウハウや店舗運営のためのシステムをオープンにし、講習会を行っていく中で取引先の信頼も得ることができました。

 「不易流行の精神で変えてはならないものと、変化させなければならないもの両方を満たし、それを活かしてお客様に還元できる仕事を進めることが自分たちの使命であると思っています」と語る大倉氏。創業から100年という歳月を経て、同社はお客様からの要望に答え続けてきた強みを生かし、業界の可能性を広げる試みを続けています。

経営理念

全社一丸の精神で、人として正しい判断の基、お客様からも社会からも信頼され選ばれる存在となる

会社概要

創 業:1911年
事業内容:1.製菓・製パン及び食品調理機械、器具の販売及び製造、修理メンテナンス
     2.製菓・製パン及び食品関連のトータルプランニング(店舗、機械設備設計)および提案
     3.中古整備機械の販売
従業員数:11名
所在地:大分県別府市船小路町3-37
TEL:0977-21-6363
FAX:0977-21-7878