【第10回】学びあい育ちあうような市場へ (株)大田商店 専務取締役 大田 謙二氏(山口)

大田専務

(株)大田商店 専務取締役 大田謙二氏(山口)

社屋 

 (株)大田商店(大田謙二専務、山口同友会会員)は、山口県では中堅の食品卸会社です。生鮮・加工食品・調理済食などを外食産業やスーパー・老人ホーム・病院・ホテル・ゴルフ場などに卸しています。和食はもちろんのこと、岩国市は洋食屋が多いことからフランス料理やイタリア料理系も得意です。

 業界は大規模集約化が進み、大手は巨大資本を武器に進出してきます。迎え撃つ中国地方の同業者もいくつかは規模拡大を図り、多くは淘汰の波に消えていったそうです。そんな中、「(株)大田商店が生き残っている理由はなんでしょうか?」と尋ねると、大田氏は「そうですねぇ・・」と笑顔で、「じっくり手間ひまかけた取引先との長い付き合い、信頼関係の賜物でしょうか。これからも、地域の人々の食生活の向上を第一に考えた取り組みをわが社の絶対的な強みとして信用を継続していきたい」といいます。
 
 創業は古く1868年(明治元年)とのことで、140年以上という時間は、我々には想像もできないほどの重たい歴史の積み重ねです。まさに地域にとってかけがえのない役割を担ってきた証拠です。大田氏は、「ただ長いだけですよ。続いたのは偶然」といいますが、やはり地元に必要とされているからこその結果ではないでしょうか。

同友会で学んだ経営指針

 入会前の大田氏は、「売上が上がらない」「ナンバー2ゆえに社員に自分の気持ちが伝わらない」「社員が自分たちの仕事を抱え込んで離さない」などで悩んでいました。そこに、知人から誘いを受け、同友会の例会に参加。経営者が真摯に学んでいる姿に感激して、2009年に入会し、入会後すぐに経営指針作成塾に参加しました。

 経営指針作成塾では、今までおざなりだった経営理念や存在意義、自社の進むべき基本方向と目標策定(経営方針・経営計画)などに真剣に取り組むことになります。「自社を顧みたときに、会社の拡大路線から求められるままに、安いが添加物は多い商品や大量生産品をどっさり仕入れて売ることもあった。それによって、果たして、取引先やエンドユーザーに、本当の意味での食の豊かさを提供できる会社になったのか、この業界自体がこのままでよいのだろうかなど、さまざまなことを自問自答していました。その中でたどり着いたのが、おいしいものを大事に、共に学び、共に成長し、共に信頼できるお客様こそが、大田商店の新たな主戦場であり市場にしたいというものでした」と大田氏。

お互いが学び育ちあう環境を築きあう市場へ

岩国レンコン

 2010年5月に経営指針を発表し、現在は新方針のもと、取り扱う食材の再点検と、取引先の新規開拓に取り組み、「おいしいもの、体にいいものを」を求めて、吟味した食材を世界中から発掘している最中です。無農薬・低農薬・有機栽培(オーガニック)・飼育方法等、生産者がこだわりを持った食品や地元の岩国れんこん、地元和牛、特に養殖ではなく、天然の海老を数多く揃えています。お客様に良いものを提案することのできる食品卸売業者をめざして、日夜社員と共に奮闘しています。

 大田氏は、「食にまつわるものの仕事として、おいしいものをおいしく作り、大切な人と食べることが一番大事なことで、笑顔のもと。きちっとした料理を作る料理人がいて、お客様に目配り気配りができる会社と取引したい。おいしいものを大事に、お互いが食に対してこだわりを持ち、お互いが学びあい、育ちあう環境を築きあえるような市場こそ、大田商店が戦う主戦場。社員には、プロの料理人と対等に、料理と食材について話ができるほどの人材に育ち、『最高の食材マイスター』ともいうべき存在になって欲しい。また、同友会の仲間にも、『これはという自信のあるこだわりの品』をぜひ売り込みに来てもらいたい」と言います。

志を同じくする取引先と共に

社内で

 現在、販売先の新規開拓は取引先からの紹介のみに絞り込んでいるとのこと。大田氏はその理由を、「体によいおいしい料理を提供する料理店からの紹介で食材を卸すという活動を進めるため」と語り、志を同じくするこだわりの料理店主との取引も着実に増えています。店主・料理長など食材仕入れの担当者が「より良いもの、よりおいしいものをお客様に食べていただきたい」という共通認識ができる販売先を開拓しています。例えば今までは大手ファミレスのような販売先との付き合いを続けていると、営業マンの知識が広くて浅くなってしまうのが悩みでした。現在の方向性は仕事の奥行きを作るため。これが、前後で決定的に変わっているところです。同社としても食材や提供する料理にこだわりを持った販売先に応えられる食材集めに奮闘しています。

 「震災の影響もあり、今年に入って経営状態は少し厳しい状態が続いています。しかし、最近若い社員が、笑顔で仕事をするようになってきた。会社にも笑顔が増えてきた。仕事は楽しくしなければいけませんよね」と大田氏は語ります。自分の扱う商品に自信があるから笑顔になる。笑顔でお客様と接するから、お客様にも笑顔が伝播するのです。

「遊ぼう」っていうと「遊ぼう」っていう。「ばか」っていうと「ばか」っていう。
「もう遊ばない」っていうと「遊ばない」っていう。
そうして、あとでさみしくなって、「ごめんね」っていうと「ごめんね」っていう。
こだまでしょうか、いいえ、誰でも。

 山口県長門市生まれの詩人、金子みすずの作品です。人は自分の鏡。笑顔で話すと聞く人も笑顔になります。

会社概要

創 業:1867年
設 立:1993年
資本金:1,000万円
事業内容:調味料、冷凍食品、チルド商品等、業務用食品全般の卸売業
従業員数:5名 パート社員6名
所在地:山口県岩国市多田1-102-10
TEL:0827-28-1155
FAX:0827-28-1616