【第25回】世界の糖尿病患者に豊かな食生活を サン食品(株) 代表取締役 加藤 三基 男氏(愛知)

加藤社長

サン食品(株) 代表取締役 加藤 三基男氏(愛知)

1円でも安く、1kmでも遠く

社屋の写真

 サン食品(株)(加藤三基男社長、愛知同友会会員)は創業37年、スーパーで売られているこんにゃくを主力商品としています。

 加藤氏が約6年のサラリーマン時代を経て同社に入社した当時、工場は小さく、典型的な零細企業でした。当時、加藤氏は「会社は規模が大きく大量生産することが良いことであり、それが社員のためでもある」と思っていたと言います。創業者である父親は会社を継いでほしいと言うことはありませんでしたが、加藤氏自身が会社を継ぐことで親孝行したい、日本人しか食べないこんにゃくを世界へ広げたいという思いから、同社で働き始めます。

 当時の社内は、「作る人」と「運ぶ人」しかいないような会社で、他の社員からは、営業をしていることすら「サボっている」と言われるような環境でした。そんな中、「1円でも安く、1kmでも遠く」をモットーに、こんにゃく作りの事業規模を拡大していきました。「会社を大きくするには、まず生産体制を整えるために工場も大きくしなければなりませんし、QC(クオリティー・コントロール)を突き詰めないといけません。多品種、安価と、さまざまな時代の変化に伴う価値観にも対応してきました。みそ・しょうゆ以外に味付け方法のないこんにゃくは、20年間で消費量が3分の1まで減るだろうと考えていました」と加藤氏。

 当時は、生産体制の拡大やQC活動を追求し、多く作って多く売ることが利益につながっていました。「それが無ければ今では淘汰されていたかもしれません」と加藤氏は言います。しかし、通常のこんにゃくでは付加価値をつけることは困難でした。そのような中、2007年にこんにゃくの原料となるこんにゃくいもの高騰によって、これまでの薄利多売があだとなり、業績不振から社員との関係も急速に悪化していきます。

1本の電話がすべての始まり

 ふと我に返ると、やりたいと思うことをやっていないことに気付きます。「世界にこんにゃくを広げたい」という原点に返り、どうせ仕事をするなら好きなことや楽しいことを追求していくことを決意しました。
 
 ちょうどそのころ、創業者である父親が糖尿病を患っていました。食べたいものを食べられず、元気がなくなっていく姿を見て、「何かできないか」と思い糖尿病関連の本を購入します。そこで江部康二教授(京都・高雄病院)の記事を読み、糖尿病患者は糖の多い主食の摂取を抑えなければならないが、肉や魚は食べても良いということを知り、勉強を始めます。それと同時に、血糖値が高いという診断を受けても、それほど重く考える人も少ないけれど、実は糖尿病で苦しんでいる患者は世界中にたくさん多いことが分かりました。

 それから10日も経たないころ、偶然、同社のホームページを見た江部教授から電話があり、運命的なものを感じて直接京都まで会いに行きました。その訪問が、「こんにゃくごはん」を作るアイデアのきっかけとなりました。

「こんにゃくごはん」が世界特許に

こんにゃくごはん

 糖尿病患者向けの血糖値の上がりにくいパン、こんにゃく麺はすでに開発されていましたが、日本人にとっての主食であるごはんは実現できていませんでした。江部教授からの依頼で、「こんにゃくごはん」を作ろうと決心し、父親と同じように糖尿病で苦しんでいる患者のためにも、それを世界に広めていこうと思うようになりました。

 「こんにゃくごはん」を開発し始めた当初は、愛知同友会のあいち経営フォーラムで「社長の役割」という分科会に携わっており、「社長の役割」について話しあう機会がありました。近況報告を会員同士で話す中で、加藤氏は「糖尿病患者のためのこんにゃくごはんを作る」と宣言します。そして、次の集まりで「9月までに世界特許を取る」と自分にプレッシャーを掛け続け、「こんにゃくごはん」を開発し、世界特許を取得します。昨年の7月に他社と合同でABS株式会社(A:アトア(株)、B:日本バイオコン(株)、S:サン食品(株))を設立し、現在、このこんにゃくを使った糖尿病患者でも食べられるごはん、こんにゃくパンなど、さまざまな食品の開発を行っています。

こんにゃく屋だからこそ

加藤社長とこんにゃくごはん

 世の中の価値観は時代によって変化し、創業時のモノがない時代は、同社はこんにゃくを作ること自体がある意味社会貢献でしたが、物そのものが有り余っている昨今、その意味合いが少なくなってきました。
 
 誰でも作れるようなものだけでは、必要とされる度合いが低くなってきてしまいます。「これからの自社が世の中のために力を尽くすということは、『世界の糖尿病患者を救い、こんにゃくを広げていく』ことになり、その大前提にあるのが、親孝行をしたいという思いでした。父が始めたこんにゃくで、世界中の糖尿病患者を救うことは、父の喜びになっているだろうと思います。以前は、こんにゃく屋だからダメだ、とずっと思っていましたが、こんにゃく屋だからこそできることを見つけました」と加藤氏。

 現在、日本だけでなく、海外からも問い合わせが殺到しています。「こんにゃく」にこだわりながら、下請け企業から抜け出し、消費者とダイレクトにつながっていきたいと加藤氏は考えています。「『糖尿病食品はABS』と消費者へ直接売ることで、お客様からの声やニーズを商品に生かしていくような仕組みをこれから作り、世界へこんにゃくを伝えていきたい。そして、社員、お客様、同社にかかわるすべての人が自己実現できるような環境をつくっていきたい」と加藤さんは語ります。

会社概要

創 業:1930年
設 立:1975年
資本金:1,000万円
年 商:5億円
事業内容:こんにゃく製造・販売
従業員数:34名
会社所在地:愛知県東海市
URL:http://www.e-konnyaku.com/