【第41回】「伝票印刷」を自社の強みに! 共同印刷(株) 代表取締役 鈴木 充男氏(福島)

鈴木社長

共同印刷(株) 代表取締役 鈴木 充男氏(福島)

 福島県浜通りの大熊町にある共同印刷(株)。同社のキャッチフレーズは「御社の第二の印刷工場です」。同業者の“縁の下の力持ち”として、全国の印刷会社をお客様に伝票や帳票類に特化した事業展開を進めています。

経営指針づくりを通して自社の強みが明確に

工場内

 鈴木氏が経営指針に取り組み始めたのは8年前。「この経営指針づくりとその実践を通して、自社の立ち位置や強み・弱みがより明確になった」と鈴木氏はいいます。

 印刷会社がこぞってカラー印刷に対応した大型設備の導入などを進める機運が広がっていた時代。得意分野である伝票印刷は、今後は衰退していく分野だと言われていましたが、同社では自社の強みと市場性とを冷静に判断。設備投資の割には単価や利益が高いとはいえない伝票や帳票印刷の取り扱いが、同じ印刷会社の「困りごと」であるということに注目し、下請けとして伝票印刷に特化する方針を明確に打ち出しました。

 こうした明確な方針のもとで、全国の印刷会社にDMを送信するなどしてお客様を広げ、次第に全国各地の印刷会社から注文をいただくようになりました。

全国のお客様からの期待に応えられる社員をめざして

 こうしたお客様の期待に応えるには、何と言っても社員の力が不可欠です。同社の経営指針書の中には、社員一人ひとりが1ページずつ自分の課題や目標を掲載するなど、社員と一体となった経営指針づくり、会社づくりをめざしています。
 
 そんな甲斐もあって、5年前に町内の農地を転用し、約400坪の工場を竣工。設備投資もほぼ完了し、「今年からは利益も出せるから、賞与も支給できるからね」などと社員と皆で話していたところでした。

全体ミーティング

原発事故によって引き裂かれた会社

 そんな中、昨年3月11日に東日本大震災が襲います。幸い、高台にあった工場は津波も到達せず、社員・設備ともに大きな被害はありませんでした。復旧をめざしていた矢先の3月12日、原発事故により福島第一原発から3.5キロに位置する同社は避難区域に指定され、すべてを置き去りにしたまま鈴木氏をはじめ、すべての社員がバラバラになっての避難を余儀なくされたのです。 

「共同印刷さんがいなければ困る」

 同社が復活をめざすきっかけの一つは、お客様からの強い要望でした。「共同さんが被災してしまい、他に頼めるところがなくて大変困っています。早く再開してください」と、わざわざ役場に問い合わせて鈴木氏を探し、連絡していただいたお客様もいらっしゃったそうです。そんな後押しを受け、震災後1カ月半の5月には避難先の郡山市に事務所を借り、仲間の皆さんの協力によって事業再開への第一歩を踏み出しました。

9月からは工場も含めて完全稼動に

機材を持ち出す

 また、鈴木氏は避難先からも毎日、離ればなれになった60人の社員にメールを送り続けたといいます。そんなメールのつながりによって、遠く広島まで避難していた社員もいた中で、事業再開の動きを知り、ひとり、またひとりと社員が戻ってきました。

 警戒区域にある工場からの設備の持ち出しなどの多くの困難を乗り越え、9月からはさらに別の場所で工場機能を復旧させ、完全に事業を再開することができました。反面、再開したことで休職状態にあった社員を8月末日で解雇しなければならなくなり、「長年連れ添った社員との縁が切れるようで、まさに断腸の思いだった」と鈴木氏は語ります。

社員さんと

 だれも経験したことのない未曾有の事態が続いている毎日。今なお原発事故が完全に収束する見通しはたたず、大熊町に戻れる希望は絶たれたままです。しかし、そんな困難な中で、日頃の経営指針の実践が存続を支える大きな土台となりました。

 企業理念「みんなの幸せ」。本当に社員、お客様、地域の皆さんのみんなが幸せになれる日をめざして、自然に明るく元気な様子で働く社員の皆さんの姿が印象的でした。  

会社概要

創 業:1986年10月
資本金: 1,600万円
事業内容:伝票・帳票類を得意とした印刷業
従業員数:31名
所在地:
本社…福島県双葉郡大熊町大字小入野字東大和久417-3(原発事故による警戒区域につき現在も立入不可)
営業部・製版部…福島県郡山市柏山87番地
 TEL024-973-5693 / FAX024-973-5694
南相馬営業所…福島県南相馬市原町区信田沢字下信田328番3
         仮設事務所6号TEL0244-26-8613 / FAX0244-26-8613
製造部(金屋工場)…福島県郡山市田村町金屋字マセ口42番地1
URL:http://0240.jp/kyodo/