【第4回】目的をはっきり伝える (株)佐野鉄工 代表取締役 佐野 明郎氏(三重)

佐野社長

(株)佐野鉄工 代表取締役 佐野 明郎氏(三重)

 三重郡菰野町にある(株)佐野鉄工(佐野明郎社長 三重同友会会員)。全国にある橋梁関連部品の製作を主として、鉄骨・木造建築、架台やプラントの製作施工を行なっている企業です。訪れると社員一人ひとりが大きな声で挨拶。事務所へ入ると「○○様ですね、お待ちしておりました」の声。毎朝の朝礼で、今日何時にだれが訪問するかを全員で共有している成果です。

「社長」の仕事は何か

社内の様子1

 佐野氏は同友会に入会した当初はいわゆる「スリーピング会員」で、入会はしたものの、ほとんど参加していませんでした。というのも、その当時は先代の社長と娘婿の自分、後は職人2名だけ。日々きた仕事を回しているだけで、「経営」をしているとは言えませんでした。

 そんな佐野氏の転機は、社長になって3年程経ったころ。当時は仕事量が増え、それに合わせて社員も増やしましたが、なかなか定着せず、中には1カ月で辞める社員もいる状態でした。一方で、仕事は増えていくため何とか人を確保したい。そんな折、現場を回っている時に組み立てしていた若い社員から「僕はこの仕事をずっとこのまま一生するのでしょうか」と聞かれ、何も答えることができませんでした。

その時に、「社長」と言われているが何も考えていなかったことに気がつき、少なからずショックを受けました。会社を振り返ると、求人募集にも社名と住所・連絡先以外書くところがない、就業規則や経営理念もないという状態でした。そのころ、ある会員から同友会に参加するように誘われ、以来積極的に参加し、経営指針や就業規則の作成などに取り組みました。これまでは、例会に出ても「業種も違うし規模も違うし、話を聞いても参考にならない」と聞き流していましたが、それからはできることを何か一つでも自社に取り入れようと、参加する姿勢も変わってきました。

 今までの、「きた仕事を回している」社長から、「経営指針をつくり実践する」社長に変わると、社員に対する考え方も変わってきました。今までは仕事を回すための「部品」としか見ていませんでしたが、同じ船に乗り、同じ目的に向かって行動する「パートナー」へと考え方が変わってきました。

社員に目的を具体的に示し「不安」を取り除く

社内の様子2

 同じ目的に向かっていくには、先を見て、しっかりとした方向を示さなければならない。そして社員にも、今までのように漠然と仕事をするのではなく、なぜその仕事をするのか、なぜこれが必要なのか、しっかりとした目的を持って仕事をしてもらわないといけない。そのために社長が実践しているのが「報・連・相」です。「報・連・相」といっても、一般によくある部下から上司への「報・連・相」だけではなく、社長から社員への「報・連・相」も大事にしています。

 「報・連・相」のきっかけは、以前受けた社内コミュニケーション診断(NRCS)。社員が一番不満・不安なことは、社長の行動がわからないということでした。結果を受けて、佐野氏は自らの行動をガラス張りにすることを決断しました。今では、社内の大きなホワイトボードに会社の予定・取引先との予定・団体などの予定と色分けされて、そこに社長の行動が記入されています。この「報告」を行なうことで、社長宛にかかってきた電話も連絡が取れるかすぐ判断でき、応対も変わりました。また、「連絡」についても「昨日同友会でこんな事を聞いた」という連絡から、「昨日来社したお客様に○○さんの挨拶をほめていただいた」というように、自分たちの仕事や行動が、お客様にどう思われているのか「連絡」することで、自分たちがしていることが間違ってない、もっと頑張ろうと、社員のやる気を引き出す結果につながっています。

社員の力で差別化を

 その佐野氏が決めた方針は「エンドユーザー重視」。主力の橋梁関連部品は基本的に公共事業で、製品は規格があり他社との差別化はできません。しかし、公共事業を行なう役所の担当者をエンドユーザーと位置付け、丁寧な来社応対をすることで、役所の立会い検査もスムーズに進めることができ、結果として自社への注文が増えることにつながっています。実際に全国に10数社ある同業他社との発注量の差は、社長に就任した約20年前はほとんどありませんでしたが、応対の差別化を進めることで、今では多くの発注がくるようになりました。

 しかし、応対を差別化するためには、社長自身だけではなく、働いている社員一人ひとりが目的意識を持って来客応対や電話応対をしないと変わりません。佐野氏は、挨拶をするというあたりまえと思われていることも、「なぜ」を一から社員と話しあい伝えてきました。そして、社員が目的をしっかり持って仕事をするようになると、さまざまな意見や提案が出てきます。現在では、工場内を整理整頓するためのさまざまな改善提案、業務を効率化するための改善の取り組み事例を、社員たちが中心となって年に数回、工場見学会という形で外部から人を呼んで行なっています。これは、日ごろの取り組みを外部の人に公開することで、社員のモチベーションを維持する意味でも役立っています。

 「社員が結婚して子どもを持って家を建てる。当たり前の事ですが、これが一番喜ばしい事です。社員が『安定した生活ができる』と思わなければ結婚も家を建てることもありませんから。社長として常に考えなければならない事だと思いますよ」そう話す佐野氏は、社員を共に育つパートナーとして信頼し、企業変革に取り組んでいます。

社屋

会社概要

創 業:1932年
設 立:1983年
資本金:3,000万円
年 商:12億円
事業内容:橋梁支承金物、橋梁ジョイント、落橋防止金物伸縮継手、橋梁関連部品の製作
     鉄骨建築及び木造建築の新築・増改築
従業員数:50名
URL:http://www.sanotekko.com/