【第17回】たったひとりの社員だけど (株)増子看板店 代表取締役 増子 榮寿(えいじゅ)氏(茨城)

増子社長

(株)増子看板店 代表取締役 増子 榮寿氏(茨城)

同友会仲間の一言

宣伝カー

 長年ひとりで仕事をやってきた(株)増子看板店の増子榮寿社長(茨城同友会会員)が社員を入れようと決めたきっかけは、茨城同友会の「経営指針成文化セミナー」の仲間の一言でした。「増子さん、ひとりで仕事をやって、あなたの体に何かあったらどうするの。お客様やみんなに迷惑をかけるんだよ」。

 増子氏は、1964年東京オリンピックの年に看板屋の息子として生まれ、現在48歳。9人兄弟の長男として、1986年病気で倒れた父親の看板屋を継ぎました。2000年からの3年間は二男の弟が手伝ったこともありましたが、弟が34歳の若さで亡くなってからは、ひとりっきりで業務を切り盛りしてきました。売上は1,000万円から2,000万円の間を行ったりきたり。一人で食べてゆくには充分すぎるほどでした。

 しかし、「経営理念を創る会」や「経営指針成文化セミナー」で、企業の社会的使命を学ぶにつれ、社員の雇用を強く意識するようになりました。そこに仲間の一言が後押しをしたのです。

7人採用して6人辞めた

 2007年夏に経営指針が完成し、2008年の4月、いきなり3人のパート社員を採用しました。50代と40代の男性2人、20代の女性1人の計3人です。今まで一人で間に合っていたのに3人も採用しましたから、やるべき仕事がありません。その上、3人ともまったくの素人で、業務は混乱しました。結局、12月までに全員辞めてしまいました。その翌年も何人か採用しましたが、長続きせず、2年間で7人採用して6人が辞めるという結果になってしまいました。増子氏は、「あれやって、これやってという指示だけで、仕事を任せていなかった。そして、『わがっぺ(わかるでしょう)』という価値観の押しつけでしかなかった」と反省しています。

社会保険も厚生年金も

社員さん

 今残っているのは、2010年10月に採用した社員ひとりだけです。面接のときは、増子氏らしく3時間にも及び、「こうしたい、ああしたい」と夢や会社の恥部も隠さず熱く語りました。
常々「自分の店を普通の会社らしくしたい」と思っていた増子氏は、その社員の入社3カ月目から雇用保険に入り、周囲からは「会社の負担が大きすぎる」との反対の声もありましたが、2012年3月からは、社会保険と厚生年金にも加入しました。給与は月給制です。それは「仕事もできるし、長くいてもらいたい」という増子氏の切なる願いからです。勤務時間は朝9時から午後6時まで、労働時間は8時間です。6時になると社長の方から「6時だよ」と声をかけます。デザインや経理を担当しているその社員もその期待に応え、段取り良く、早め早めの仕事を心がけています。

 しかし、入社当初は、そううまくは行きませんでした。「最初は怒涛のように『これできる?あれできる?』と言われ、いっぱいいっぱいでプレッシャーになってしまいました」とその社員は言います。それから何カ月かたつとお互いに相性もわかり、今では仕事のほとんどを任せています。

お客さまとトラブル

 同友会では県の経営指針委員長も務めたこともあり、「熱い増子さん」で有名です。経営理念は、折に触れ、社員に「熱く」語っています。

 これだけ熱い増子氏ですから、直情径行の性格とあいまってお客様とトラブルになることもしばしばありました。以前は、お客様の注文に関わらず、自分の提案を主張し、受け入れないお客様とは仕事をしないという態度で、品物は納めてもお金は要らないと、ずいぶん損をしたこともありました。頼りにしていた弟が亡くなってからは一層ひどくなりました。お客を選び、お世話になった方にも足を運ばなくなったのです。

 それをいさめたのは、経営指針の仲間であり、支部の同友会仲間でした。性格が素直で感激屋の増子氏は「生涯で一番きつい言葉だったけど、自分のことをほんとに思っての言葉だからありがたい」と感謝しています。

10年後のビジョン

看板

 増子看板店の売りは、ユニークなデザインの店舗看板です。その中でもピアノ教室の看板は、北海道から沖縄までインターネットで全国から注文があり、350件を数えています。ピアノ教室の看板だけで売上の2割に達しています。

 増子氏は、2012年8月1日、日立支部の例会で報告しました。そのとき、初めて発表した「増子看板店の10年後のビジョン」は出席者の大きな感動を呼びました。増子氏はいつも例会や同友会の催しものに、11歳の長男を連れてきます。彼は同友会のみんなにかわいがられて、楽しんでいます。
 
 長男を3代目と期待しての10年後のビジョンの冒頭にはこうありました。「大阪の知り合いの会社さんに修行に行った息子から久々に電話があった。楽しくやっているとのこと。言葉のはしはしに、関西弁がふくまれている茨城弁は、自然と楽しいように聞こえてしまうのかもしれない。3年間の約束で、私が尊敬している会社さんに息子を預けて、半年が過ぎようとしている」。例会の最後に増子氏の長男が「お父さんの期待に応えて」という発表をすると会場のあちこちですすり泣く音が聞こえました。

 増子看板店は、同友会で経営指針を学び、実践し、同友会の仲間に支えられながら、大きな飛躍への一歩を踏み出したのです。

長男と

会社概要

創 業:1973年5月
資本金:300万円
事業内容:各種サインディスプレイの企画・設計・施工
従業員数:2名
所在地:茨城県日立市小木津町4‐3‐8
TEL:0294-42-6731
FAX:0294-33-5746
URL:http://www.mashikokanban.com