【第36回】変わったのは社長 (株)ドラグーン 代表取締役 鎌田 学氏(秋田)

鎌田社長

(株)ドラグーン 代表取締役 鎌田 学氏(秋田)

 (株)ドラグーンの鎌田学社長(秋田同友会会員)が、顧問税理士(同友会理事)の紹介で、秋田同友会に入会したのは2007年。社内で孤軍奮闘するも、業績に明るさが見えないため、「社員にやる気を持たせ、精鋭チームに育てあげたい。その手法を学びたい」という動機からでした。

消し飛んでしまった「創業の想い」

社屋

 鎌田氏は、最初に入社した自動車ディーラーで販売成果をあげたことで注目され、他社ディーラーの営業にスカウトされました。その後上司に誘われて、中古車販売会社の設立(独立)に参加し、ナンバーツーとして力を発揮します。そして、8年後の2000年、その会社から独立して(株)ドラグーンを設立しました。

 設立当初は、それまでの経験から「創業の想い」*を持っていました。ところが業績が順調に推移すると、世間から「鎌田さんすごいですね!」とおだてられて舞い上がり、「自分には、不可能は無い」などと錯覚しはじめました。この当時の鎌田社長はすべてがワンマンで「会社(俺)に意見したいのなら、数字を上げてから言え」と、聞く耳すら持たない経営者でした。

 2005年には1億円を借り入れて、それまでの6倍の規模の1,260坪の店舗を開きました。ところが、新店舗では思うように業績を上げられず、毎月経費負けの連続でした。借入金の返済に追われ、事業目的が「借入金返済」に変わってしまっていたことにも気づかないまま、社員には「仕事最優先」を求めました。「何を犠牲としても利益を上げることが第一」としていたため、社内に一体感や意欲的な社風は育たず、次々に退職者が出る状態になり、とうとう幹部数名にも見かぎられ、独立されてしまいます。社員数は一気に半減し、残されたのは、2人の創業メンバーと新人数名だけになりました。

 人員不足による戦力ダウンで業績は悪化。創業店舗を閉鎖し、戦力を新店舗に集中させますが、それでも、安定軌道には乗りません。不安な日々が続く中、会社を倒産させまいと、鎌田氏は孤軍奮闘し、ぎりぎりの所で持ちこたえていました。そうして気がつけば、販売実績の7割以上が社長一人の手によるものになり、そのころにはもう設立当初の「創業の想い」は、どこかに消し飛んでいました。「会社の方向性といえば感性任せで、そして、重厚な鎧を身にまとい、一人孤独に息を切らせながら、力任せに刀を振り回していたように思います」と鎌田氏は当時を振り返ります。

「経営指針を創る会」受講からの変革

社内研修

 秋田同友会に2007年に入会してから1年間は、例会に出席しても報告には違和感を抱いていました。「建前の話しではなく、成功した経営者から秘密のテクニックを聞きだして自社に役立てたい」というのが当時の本音でした。2008年、リーマンショックによる経営危機の中、何とかしたいという一心で「第2期経営指針を創る会」を受講します。「創る会」で学んだことは、当初の想定とは異なり、自分自身の経営者としての未熟さや、社員から信頼されない理由でした。鎌田氏は「創業の想い」を思い出し、社員に「みんなが、この会社に出合えて良かったと心底思える会社をめざしたい」と語りかけましたが、その言葉は、なかなか信じてもらえませんでした。

 社内会議の変革も、受講中から始めました。あるとき、自分が座っていたら社員が本音を発言しないことに気づき、「自分は席をはずします」と、その場を幹部にゆだねてみました。すると、不平不満が山のように出されました。しかしその会議も、回数を重ねると社員の発言内容は建設的なものに変わっていきました。発言が会社の方針・計画となって実行されることが分かり、社員の中に発言への意欲と、責任感が生まれてきています。

 また、個人面談も、それまでは社員が嫌がって「15分で終わった」などと、時間の短さを競っていました。しかし、「働くことに喜びや生きがいを感じられる会社をめざしたい」という鎌田氏の本音が理解されたことで、社員も面接に積極的に関わるようになり、現在では1人で3時間を超えることも珍しくありません。

社員からの「サプライズ」と変化

社員とともに

 「経営指針を創る会」を修了してから1年ほど経ったある夜、突然事務所が暗くなり、鎌田氏の前にバースデーケーキが差し出されました。それは社員が、お金を出しあって買ってくれたものでした。また、いままで「静寂」だった忘年会も、その年からにぎやかになり、鎌田氏にも二次会への誘いがくるようになりました。

 現在、鎌田氏自身の販売実績は、全体の5%以下になっています。社員からは「この販売企画を任せていただけませんか」「おもしろい結果が出せると思いますので、今回の仕入れを担当させてください」などの意欲的な発言や姿勢が目立つようになってきました。ときには、社員が失敗して損をだすこともありますか、鎌田社長は「人は失敗の中から、自分で学び育つものだから」と、次の成果に夢と期待をかけるようになりました。

EV車

 「自動車が環境破壊に結びついている状況を少しでも変えたい」という発想から、産学官を巻き込んで「あきたEV研究会」を設立し、既存のガソリン車を改造してエンジンを電気モーターとバッテリーに置き換える「改造電気自動車」の製作にも挑戦しています。2011年にはその第1号車の車検を取得して公道試乗会を実施しました。この挑戦は、NHKテレビの全国ニュースでも紹介され、社員の大きな励みになっています。

 「あるとき、とある研修会に参加した社員が、他社の経営者を評して『他人の意見に対して否定から入るとんでもない人がいましたが、まるで昔のうちの社長でしたよ』と報告しました。その一言に衝撃を受けつつも嬉しく感じ、思わず苦笑いしました」と、鎌田氏は語ります。

経営理念

私たちは、想いやりの心を育み、笑顔を乗せて走る暮らしを支え、活気あふれる地域社会を創ります。

*創業の想い

1. 絶対に公私混同した会社経営をしてはならない。
2. 長年培ってきた自動車売買のノウハウを活かして、この先かかわってくださるお客様やお取引先様の役に立つことで適正に利益上げて、会社を末永く存続させ、苦楽を共にする社員とその家族の生活を、ゆとりあるものにしたい。
3. 社員のみんなが周囲の人たちに誇れる会社にしていきたい。
4. 社員のみんなが働きがいを持てる会社にしていきたい。
5. 社員のみんなと共に学び、共に成長していきたい。

会社概要

設 立:2000年
資本金:1,000万円
年 商:6億円
事業内容:自動車販売、自動車整備、自動車用品販売、自動車保険取扱、改造型電気自動車販売
従業員数:14名
所在地:秋田県秋田市八橋字下八橋191-22
TEL:018-867-8400
FAX:018-867-8448
URL:http://www.rabirin.jp/index.htm