【第11回】理念をもとに未来から逆算する経営 (株)神戸設計ルーム 代表取締役 大里 雄一氏(兵庫)

大里社長

(株)神戸設計ルーム 代表取締役 大里 雄一氏(兵庫)

 (株)神戸設計ルーム(大里雄一社長、兵庫同友会会員)の主な業務は、3つに分けられます。一つ目は、官公庁で使用される公共事業用の図面作成・データ編集・出力サービス、二つ目が、半導体業界向けの大型機械設置用の実物大の平面図のシート作成、そして三つ目が横断幕や看板などの企業向けの屋外サイン作成です。いずれの業務においても、スピード対応を強みに営業しています。事業定義をお客様の販促情報の伝達をサポートする「情報伝達支援業」と位置づけ、デジタルとアナログの双方を生かしたサービスを行っている会社です。

(株)神戸設計ルームの経営理念

 2007年に商工会議所の研修で、大里氏は初めて経営理念について学びました。当時は、仕事は指示されて動くもの、目の前にある作業をこなすことが仕事という感じで、社内では仕事の意義をほとんど意識していませんでした。そんな社員に、「私たちの作る図面の一枚一枚に神戸の未来が託されている、やりがいと達成感を感じてもらいたい」という思いから、まず初めに「私たちは21世紀の神戸の街づくりに貢献します」という理念が生まれました。
続いて、同社は朝に依頼があれば夕方には持っていくという、他社ではなかなかできない対応が可能なため、お客様から感謝されています。そんな感謝される仕事の思いを伝えていくために、「私たちはお客様のビジネスの繁栄に貢献します」とつくりました。

 最後につくったのが、社員に対しての姿勢についての理念でした。「ここは正直一番迷いました。その時、創業者の父がどういった思いでこの会社をつくったのかを聞き、同時にこれから私がこの会社を継ぐのだという思いを重ねて、『私たちはお互いの幸せな生活の構築に貢献します』とつくりました」と大里氏は言います。

 しかし、せっかく思いを込めて作成した理念は社員の前で発表しただけで、その後は机に埋もれてしまいました。経営理念をどう日々の事業に生かしていったらいいのかということがわかっていませんでした。

 2008年に兵庫同友会に入会し、その年に社長を父親から交代しました。同友会の仲間から、「社長になるなら」と勧められたことが2つありました。1つはMG(マネージメントゲーム)研修、もう1つは経営指針書の作成です。MG研修は兵庫同友会では青年部を中心に活発に行われていますが、会社5年分の経営の疑似体験をする研修です。「ゲーム形式ですから何とかなると思っていたのですが、第5期に会社を倒産させてしまいました。他の方を見ていますと、研修の運営やゲームの進行、そして利益をどうやって出すのか戦略を立てて臨んでいました。経営理念を事業に生かすには戦略が必要だと分かり、興奮して胸が高鳴ったことを今でも覚えています」と大里氏は振り返ります。

初めて作成した経営指針書

 次に、大里氏は2泊3日の経営指針成文化セミナーに参加しました。「会社のことは大体分かっている」と高をくくって望みましたが、自分が会社のことが全く分かっていないということに気づきました。特に、一番分かっていなかったのは社員のことでした。

 セミナーから戻って初めて、社員と1対1で面談を行いました。「いざ社長になると、自分の力だけでは何もできないということが分かりました。それぞれの社員が私についてきてくれると言ってくれたとき、本当に嬉しかったです」と大里氏。その感謝の思いで経営指針書をまとめていきました。組織の変更、情報共有、幹部社員研修、1年目はこの3つの取り組みを軸に経営指針書を作成しました。

 社員には、「会社の歴史」と「社員と家族構成これからの10年」という表を見せ、「5年後、10年後、あなたたちの子どもは何歳になっているか」「その時に年収としてどれくらいなければいけないか」「その時に会社はどれだけの売上がないとやっていけないのか」、自分の将来と会社の成長の関係を話しました。経営指針発表会では、大里氏と幹部社員が中心となって発表し、他の社員は自分の目標を発表しました。「みんな初めてにもかかわらず堂々と発表する姿を見たときは、社員を誇らしく頼もしく感じました」と語ります。

社員教育と共同求人

 同社の41期は、社員教育の年間計画を経営指針書に載せてスタートしました。土・日に研修をし、振替休日を平日にとるために業務に支障が出はじめ、さすがに「社長、やりすぎと違いますか」と社員から言われ、後半は様子を見ながら行うことになりました。

 また、「新卒採用をする」と指針書に載せていましたので、さっそく取り組みました。最初は戸惑っていた社員も積極的に協力してくれて、何とか2名の内定を出すことができました。
 
 「内定後が大切。家庭訪問に行った方がいい」と同友会の仲間から聞いていたので、大里氏は二人の両親のところに行きました。「『神戸では私が親代わりです』とまで言ってしまいました。経営者として人を採用するということは、ここまで言わないといけないのだと本気で思いました。自分が経営者としての覚悟を決めた大きな出来事だったと思います」と大里氏。

 経営指針作成に始まり、スタッフの未来を見て意思決定して進めた社員教育。そして、共同求人活動を行い、初めて入ってきた新卒社員。「この3つを取り組んだことによって、今の会社があると思います。当社の社員が2年前とは比べ物にならないぐらい成長できているということは、この3つの取り組みのおかげです。このサイクルでの組織づくりで、会社の文化をつくっていきたいと思っています」と大里氏は語ります。

社員の皆さん

経営理念

・私たちは 21 世紀の神戸の街づくりに貢献します
・私たちはお客様のビジネスの繁栄に貢献します
・私たち社員はお互いの幸せな生活の構築に貢献します

会社概要

設 立:1970年
資本金:1,000万円
事業内容:図面データの編集加工、出力業務に関するサービス
従業員数:15名
所在地:神戸市中央区加納町2丁目9-1 2F
TEL:078-221-1358
URL:http://www.kobe-sekkei.co.jp/