【第7回】お父さんのつくるものにあこがれて (株)シンデン 代表取締役 八木 仁氏(栃木)

八木社長

(株)シンデン 代表取締役 八木 仁氏(栃木)

 社長は「こんな会社にしたい」という自らの思いを、社員に対してこう言ってきました。
「みなさんの子供が『お父さん(お母さん)のような人生を、お父さんと同じ会社に入って送りたい』と言ってくれる会社にしたい」。

 「もし、子供がそう言ってきたら、『自分たちの時代は履歴書さえ持っていけばだれでも入社できた。お父さんたちが頑張ってきたから、会社のレベルは昔よりも上がった。一応、社長には話しておくけど、とにかく頑張ってみろ』と言い放せる会社にしたい」。

 そしてあるとき、1人の若い女性が入社してきました。彼女の入社の動機は「お父さんのつくるものにあこがれて」でした。今、彼女は開発部員として、部長である父のもと働いています。ちなみに、部長の奥さん、つまり彼女のお母さんは元事務員です。社内結婚で出産を機に退社しました。彼女は二十数年かけて、戻ってきてくれたのです。

合同面接会と従業員の不幸で感じたこと

社屋

 栃木県小山市に本社を置く、発泡・強化プラスチック製品加工業の(株)シンデン(八木仁社長、栃木同友会会員)は、ここ14~15年、新卒者と若手のアルバイトから社員を登用してきました。八木氏が社長を引き継いだ17年前、会社は社員の高齢化で、各自の動きが重くなりはじめた時期でした。年代も偏っていたため、そのまま行くとみんなで定年退職、「そしてだれもいなくなった」となりかねない状況でした。

 八木氏は若手や新卒者を採用しなければと考え、ある合同面接会に参加しました。しかし、事前の準備や体制が整わないまま参加したため、見向きもされない状態で、終了間際にやっと1人来てくれたという状況でした。八木氏は「来てくれた1人には申し訳ないのですが、他社と比べ何かみじめで、非常に悔しい思いをしました」と当時を振り返ります。

 それから間もなくして、ある社員が1年間の闘病生活の後亡くなり、八木氏はお悔やみのために社員の自宅に駆けつけました。奥さんの後ろには、先の合同面接会に参加していた学生と同年代の娘さん、息子さんがいました。

 奥さんと故人の話をする中で、夫の仕事内容や会社のことをくわしく知らないことがわかりました。故人はドラッグストアなどで扱っているある商品の加工に携わっており、その話が出てくることを期待しましたが、奥さんはその商品を知りませんでした。ところが、会社での故人は話好き。さまざまな工夫で成功した話を、近くを通る上司をわざわざ呼び止め、自信たっぷりに聞かせる、そんな仕事ぶりでした。仕事と家庭でのギャップを知って、八木氏は「非常にショックだった」と話します。

「やりがいのある仕事」を創出するために

 そんな折、栃木同友会にて「労働者は、「やりがいのある仕事」、労働に対する誇りと喜びを求めている」ということを、「労使見解(中小企業における労使関係の見解)」で学びます。「やりがいのある仕事」とは何か、具体的にどうすればよいのかを考えた結果、「満足のいく仕事ができた日の夕食、仕事のことを家族に聞かせている社員」のイメージが頭に浮かびました。

 同社は、現会長で八木氏の父親が創業しました。氏は小さいときから、加工や商品の「プロジェクトX的」な、会長の成功話・自慢話を聞いて育ちました。会長は親戚一同が集まったとき、おじやおば、いとこにもその話を披露したといいます。「『おじさんのあの話、おもしろかった』と、今でもいとこに言われます」と八木氏。

 社員一人ひとりがそんな雰囲気を家庭に持ち帰ってほしい。同社にとって「人材の採用」は欠かせませんが、「会社づくり」はもっと根本的で重要な課題でした。そして、そのためには会長をはじめ先輩社員がやってきた「自慢できる加工、商品づくり」の広がりが大切だと再確認しました。

新商品

 同社には、いろいろな商品開発の引き合いが持ち込まれます。会社は今までにないコンセプトの商品開発、加工ノウハウの構築に注力してきました。製造現場でも加工数アップや品質改善のために、社員にいろいろ取り組んでもらいました。

 そんな流れや取り組みの中で、冒頭で紹介した女性社員が入社しました。「彼女の志望動機である『お父さんのつくるものにあこがれて』の一言は、本当に感慨深かった」と八木氏は言います。数年前、彼女と一つ年下の営業の女子社員の2人は、同社がサポートするファッションデザイナーの「東京コレクション」の衣装づくりに携わりました。発表会で自分たちがかかわった衣装が出てきたときは、心の底から感激したようでした。

地元教育機関からの人材紹介

 同社では毎年のように、合同面接会などで新卒を採用してきました。その結果、採用した若手社員は年々スキルアップし、現在では中核的な業務を担うようになってくれています。ここ数年は、小山市内の職業能力開発大学校と工業高等専門学校の先生から、学生の紹介を受けるようになりました。「初めての合同面接会で、面接者がたった1人だった企業が、今では地元の教育機関から学生さんを紹介してもらえるというのは、企業冥利に尽きます」と八木氏は語ります。

会社概要

創 業:1967年
設 立:1994年
資本金:4,440万円
事業概要:強化・発泡プラスチック製品加工業
従業員数:49名
所在地:栃木県小山市東野田591
TEL:0285-27-7311
FAX:0285-27-3598
URL:http://www.7311.jp/