【第14回】会社を変えた!新卒採用 三楽園グループ 代表取締役社長 坂井 彦就氏(富山)

坂井社長

三楽園グループ 代表取締役社長 坂井 彦就氏(富山)

旅館業の現状と悩む日々

外観

 坂井彦就氏(三楽園グループ社長、富山同友会会員)は温泉旅館の三男として生まれ、学卒後3年間のサラリーマン生活を経て、「継ぎたくなかった」家業を継ぐことになります。入社してみると、昼夜勤務は当たり前の長時間労働、社員は年配社員が多く、それも入っては辞めていく。「『なんとか若い人が来てほしい』と、ハローワーク頼みの中途採用を続けるしかありませんでした」と坂井氏。

 当時、青年会議所や商工会青年部で熱心に活動していましたが、経営者としての勉強はしておらず、会社にも自分にも自信がなく、どうしたらいいか分からない日々を過ごしていました。社会奉仕やイベントも大切ですが、それだけでは会社は良くならない、また一生懸命働くだけでも良くならない。坂井氏は「まだ景気がよかったので何とかなっていただけ」と当時を振り返ります。

同友会で新卒採用と経営者の勉強を始める

 そんなとき、知人の紹介で富山同友会を知り、共同求人という新卒採用活動を行っていると聞いて興味を持ちました。迷うことなく2003年11月に入会し、共同求人はもちろん、経営者としての自分を高めようと活動に参加しました。

 共同求人委員会では「とても温かく迎えてもらった」という坂井氏は、活動開始と同時に役員も引き受けます。また、先輩会員から「新卒社員とともに成長できるのが共同求人」と教えられ、10年を経た今では、まさに自らの実感となっています。

 「共同求人活動は、他にはない特徴ある手作りの活動。経営者自らが関わることに意義がある」と坂井氏は言います。採用活動のみならず、人材育成、労働環境改善など、若者にとって魅力ある企業となるように実践してきました。

10期連続の採用で、会社が変わり始める

 新卒採用を開始したころはITバブルがはじけた就職氷河期であり、採用には追い風が吹いていました。以来、10期連続で採用を続け、社員の平均年齢は32歳になりました。

 若手社員が増えてくると、新規の事業にも取り組めるようにもなりました。また、先延ばしにしていた労働環境の整備も、まったなしで進めていかなければなりません。「まずは普通のまともな会社にする」と、業界で先駆けて、週休2日制や退職金制度(401K:確定拠出年金制度)、育児介護休暇制度などを導入しました。

 新卒採用は、「中途採用では味わえない『わが社色に染める楽しさ』と『社員が成長する喜び』があると同時に、若者の人生を預かる経営者としての責任と覚悟が求められる」と坂井氏は言います。そのためにも、「自慢のできる良い会社=自身の将来像を描ける会社」というビジョンを社員とともに描き、その実現をめざす毎日です。

新卒社員がイキイキと活躍する理由

松田さんと内山さん

ここで、エステ部門で活躍する、新卒で入社した二人の社員の事例を紹介します。
内山莉沙さんは、入社5年目。先輩をサポートし、後輩を指導する立場にあります。人と関わる仕事がしたいと入社して、仕事も一通りできるようになった3年目、先輩や同期の結婚退社などがあり、責任ある立場に置かれます。大学で工芸を学んだ内山さんは、海外で活躍する友人と話すうちに、「自分はこのままでよいのか」と思い悩むようになります。

 そんなとき、いつも担当しているお客さんの体の変化に気がつくようになりました。「どうしたらお客さんをもっと素敵に、元気にしてあげられるのか」と考えるようになり、エステという仕事の奥深さを感じ、さらに学びたいと思うようになりました。仲間に悩みを打ち明けたり、同友会の研修に参加したりしながら、新たな目標を見つけ、今では元気に活躍しています。
 松田桂子さんは、入社9年目、新卒採用の2期生です。エステ部門のマネージャーであり、内山さんの上司です。入社時、旅館業のイメージからか祖父に入社を反対され、口を聞いてもらえなかったという経験をしました。数年後、祖父の喜寿のお祝いを三楽園で行ったところ、会社の姿勢や社員の対応に感心され、「いい会社に入ったね」と言われるようになりました。
 入社2年目から新規店のオープニングスタッフとして店長を支えたり、新規事業プロジェクトのリーダーを務めたりと、「なかなかさせてもらえない経験をしています」と言う松田さん。また2012年には結婚をし、家庭と両立させて元気に働いています。

「自慢のできる良い会社」とは

仕事と家庭の両立支援ブック

 女性が活躍する三楽園グループには、「仕事と家庭の両立支援ブック」があります。これは、長く働き続けられる会社にするにはどうしたらよいかを社員自らで考える「社員満足度委員会」で作成しました。

 その巻頭に、坂井氏のこんなメッセージがあります。

 「わが社は女性が多い職場です。女性が仕事と家庭を両立し、能力を十分に発揮しながら、安心して働き続けることのできる職場環境を整えることは、我が社の発展には不可欠であると考えます。そのような職場は、きっと男性にとっても働きやすい職場であると言えるでしょう。共育(共に育ち合う)の実践により、人材を人財に成長させる。そして会社の財産となった人財が他へ流出することなく、長く働くことができる。そんな会社こそが、われわれがめざす『自慢のできる良い会社』ではないでしょうか。このような試みがモデルケースとなり、業界や中小企業の発展にも大きく貢献することができるのです。そしてそのことが、地域社会の発展にもつながっていくのです」

会社概要

設 立:1959年
資本金:4,000万円
年 商:11億円(2013年実績)
事業内容:温泉旅館、エステサロン、宅配ピザ、飲食店
従業員数:254名(内パート23名、アルバイト190名)
所在地:富山県砺波市庄川町金屋839
TEL:0763-82-1260
URL:http://www.sanrakuen.com