【特別版】差別化の原点は「人」 (株)アートエンディング 代表取締役 西本 淳弥氏(埼玉)

西本社長

(株)アートエンディング 代表取締役 西本 淳弥氏(埼玉)

~第41回青年経営者全国交流会報告集より~

 当社は埼玉県越谷市を中心に葬祭専門業を経営しています。資本金先月1,000万円から2,000万円に増資を行い、現在第9期目を迎えています。売上は2億4,000万円、従業員数22名(パート・アルバイト含む)前年対比120%以上常に上げて毎年成長しています。

なぜ葬儀会社を起業したのか

 つまらない日本の学生生活から脱出し、エキサイティングな2年間の海外生活が、独立し起業家として歩みたいという気持ちを強くさせました。在学中から貿易の仕事を始めましたがうまくいかず、最後のチャレンジとして命懸けで訪れた戦後直後のイラクにて、イスラム教徒の神秘的な葬儀の儀式に出合いました。そこが私の葬儀という世界に関心をもったターンニングポイントでした。

 帰国後、日本の葬儀に関して調べると、すばらしい仕事であり、かつ人から感謝までされることがわかると、すぐに東京都内の葬儀会社にて独立前提で修行しました。残された家族のために本当に思いのある葬式をやりたいという気持ちだけで、9年前に地元越谷市で独立起業しました。

創業期の試行錯誤が 今の基礎をつくった

 創業当初は、知名度も実績もお金も何もなく思うような結果がまったく出ず、自分の給料だけでなく、事務所の家賃でさえ払えない。1カ月に1回も電話が鳴らない時期が普通にあり、ノイローゼ気味になったこともありました。

 初めて葬式の仕事がきたのは半年後。試行錯誤を繰返し、チラシのまき方はこうしよう、あまり良くは思われないので訪問営業は一切やめようと、1.チラシ、2.ホームページ、3.施設にピンポイントの営業、この3本の柱で事業を進めていくことにしました。
中でも自社の強みとしたのが、同業他社が足踏みをして進めていなかったインターネットでの集客でした。業界の中では比較的早い時期にホームページでの集客に全力で取り組みました。創業から1年の間で試みた取り組みは、恐らく今の当社の基盤になっています。この1年間が最も重要な戦術の開発期間となりました。

新卒採用が教えてくれた 組織化への道

 従業員が増えていく中で、新卒採用が3期目に入りました。当社では新卒採用を会社の将来を左右する大きな事業の1つとして位置づけています。内定候補者を決めるのは社員にすべて任せ、私は会社説明会と最終面接を担当しました。

 社員満足度(ES)面では、社員制度や福利厚生の充実、だれでもわかるような制度の仕組み化について検討しました。これはすぐに売上に反映されるものではありません。初めての新卒者が入社をして、これから売上増を図らなければならない時期に、自社ホールの目の前に同業上場企業が関東初進出するという外部環境の変化がありました。これは新卒入社が与えてくれた試練だと考えます。そして新卒採用は毎年実施しないと効果が半減することも実感し、チャレンジのない安定だけをめざした経営をすることが不可能だと気づきました。新卒採用は業績向上が絶対条件です。採用に伴い人件費が増加します。人件費に対して利益がたくさんあれば関係ありませんが、そんなにたくさんの利益があるわけではないので、社員が入り固定費が増えることは、売上をそれに対して上げる必要があります。120%の前年比増は絶対命題であり、社員と話しあって計画しております。

マニュアル化はしない 本当の社員教育

 社員教育に関しては、特別なことではなく、「公開早朝勉強会」というものを自由参加型で実施しています。自主的に来てもらう雰囲気と環境を社長や幹部がいかにつくっていくかに常に全力をあげています。これは社外の方も参加してもらい社員に刺激を与えています。その他多種多様なボランティア活動を通して、地域の方々または施設でお世話になっている方が喜んでくれるような取り組みをしています。

 当社は葬祭業という業種柄、積極的に外へ向かって営業するタイプではありません。営業的な部分に気を使うかわりに、社内の改善について管理の部分、ESの部分を含め大小さまざまな改善すべき事項について提案を社内で募っています。良い提案に対しては報酬を出しています。年に2回の社員との面談を必ず行っています。会社からの提案やこうしてほしいというものではなく、ヒアリングメインの面談です。社内の事や営業的部分に対して、自己目標も含めて実施しています。

 私自身が会社を心底好きですし、社員も大好きです。『居てくれるだけありがたい』です。葬儀の業種は前向きに仕事に取り組む方が一般的に少ない、そんな業界で当社を選び働いてくれている、それだけですごくありがたいです。できる技術・知識ではなく、お客様にこうしてあげたいという気持ちが一番大事。それを伝えることが本当の社員教育。社員が本気で学べる環境をつくり、社長と社員が本気で向き合うこと。トップの本気さを社員にしっかりと伝えることも社員教育です。会社・社長に対する信用が信頼に変わるような土俵をつくり、背中を見せていくことが大切です。お客様に「ありがとう。あなたに頼んで良かった」と言っていただけることが、何よりも社員を本気にさせる本当の社員教育だと思います。

大切なのは「今が幸せか?」ということ

 幸せになるためにがんばる、だから今は辛くても大丈夫というのにも限界があります。今を幸せと感じられないと、何のための人生なのかと必ず思うでしょう。そうならないよう会社として、従業員の幸せのためにあえて同業他社がやらないようなES向上の取り組みを真剣に実践する必要があります。CS、ESともに「違いが価値を生む」のが中小企業の経営には必須であり、人間力は現状に感謝の気持ちがないと発揮されません。最も重要な教育とは、従業員が今の自分の環境に感謝の気持ちを持ち、使命感を持って実践する姿を見守ることではないでしょうか。幸せのために働くのではなく、今が幸せだから働く。幸せは追うものではなく感じるもの。社員教育というのは当然働いている従業員が幸せになるために、少しでも豊かな生活をするために必要なことです。それに私はもっと前段階が重要だと思っています。

 大先輩である社長が幸せを感じず毎日忙しそうに働いて、そんな姿をみて社員は夢なんて持てるはずがないと思います。自分自身が幸せと伝え、なおかつ社員が幸せになってくれるのが最高のことであり、その結果労使見解のような信頼関係を生むと思います。社長の幸せの実践があって、「社長はいつもイキイキしていていいよね」とあこがれられる存在でありたいと思っています。

会社概要

設 立:2005年
資本金:2,000万円
年 商:2億4,000万円
従業員数:22名
事業内容:葬祭業務全般
本社所在地:埼玉県越谷市弥栄町4-1-84
TEL:048-976-4200
URL:http://www.artending.jp