【第32回】受け継いだ資産(社員)を生かす (株)ミカド交設 代表取締役社長 吉野 一彦氏(山口)


震災で気づいた自社の魅力

吉野社長

(株)ミカド交設(吉野一彦社長、山口同友会会員)は、法面保護工事、交通安全施設設置工事の施工管理業を行い、公共工事の元請が8割位の会社です。吉野氏は、大学卒業後、名古屋で大手情報処理会社の営業や営業管理職を経験します。入社のきっかけは、先代である父の体調不良で、吉野氏に「帰ってきて会社を継がないか」と打診があり、入社を決意します。入社後、8年の現場経験の後、代表取締役に就任しました。

 しかし、この業界に入るまでは「公共工事は、財政のムダ使いをしている悪である」という先入観がありました。「後ろめたさから、自分が建設業に携わり後継者であるにもかかわらず、先代社長がやっていることを、一緒になって経営に入らずに眺めていた良くない期間があった」と吉野氏は言います。

 それでも入社したころは、典型的な公共工事の元請主体の会社で、「来年も予算がついて仕事ができるのだろうな」という楽観視していた面がありました。そんな状況なので、今年一年目標を達成して頑張ったというような話もなく、「社員全員が辞めず刃向かわず、従順に仕事をしてくれればいいやというような雰囲気の会社だった」と吉野氏は振り返ります。しかし、入札制度の変革が起こったことをきっかけとして業界全体が不振となり、会社も3年連続赤字となりました。2期連続で自分の給与を減らさざるを得なくなり、なんとなく他人事だった経営に対して、否応なく自分で責任を取る覚悟ができてきます。

業界の素晴らしさを知る

 そして、後ろ向きだった自分の業界の素晴らしさを知る機会が訪れます。しかし、それは2011年の東日本大震災の発生という、決して良い出来事からではありませんでした。

 震災3週間後に現地に赴き、釜石市役所の地域福祉課に勤めている知りあいと話したときに、「この湾口防波堤がなかったら市は全滅していた」との言葉を聞きました。釜石市の港湾防波堤は世界で一番深さが深い防波堤と言われています。施工には1,200億円をかけて作られました。この防波堤があることによって、津波の大きさが約半分になり、津波の到達時間が約6分遅らせることができました。これによって抑えられた減災効果から考えると、建設費の1,200億円は非常に安いコストパフォーマンスだったと言われています。吉野氏は、被災地の惨状を知り、その中で自らが携わる業界の成果を肌で感じたことによって、建設業というのは命を守る仕事なのだと知り、この業界の意義と素晴らしさを体感し、自然と仕事に対して社員に語りかける言葉にも熱がこもるようになりました。

受け継いだ社員(資産)を最大限生かす ~ミカドプロジェクト~

 業界では、公共工事の削減や入札制度の変更により、当時の同業者の3割が廃業・撤退・倒産していき、会社も3期連続営業赤字になっていました。そこで、「わが社で働く社員が安心安定して働ける組織をつくること」を目的に、全社一丸となって経営改善できる経営回復の決め手を「ミカドプロジェクト」と命名して、社員と共に議論していきました。その中で、自社が解決しなければならない課題を以下の2つにまとめ、会社が生き残るためにやることの明確化を進めています。

1.仕事を取るために、入札制度・積算の仕組など、必要な制度を調べ上げポイントがどこになるのか。
2.新しい仕事を取った時の経験不足を社員間でどのように補いあえるのか。自分の現場で経験した経験値を社内で共有する必要性。

 そこで、一つひとつの課題を個別に検討できるよう、課題解決のための委員会制度を立ち上げ、全社的課題解決に取り組む仕組みづくりを進めました。これによって1人の現場経験者だけが体験できるノウハウや経験を、自分の経験以外のことが知識として得られ、実感できる社員が少しずつ増えていきました。得られた知識と経験を、テストなどをしながら積み上げていき、それらの社員の頑張りが徐々に数字で示されるようになりました。実際に経営の数字に反映されることがわかると、さらに積極的な議論が起こるようになります。吉野氏は「社員の頑張りをしっかりと数字で示してあげることがモチベーションになる」と言います。別の委員会では入札シミュレーションを行って、実際に入札に参加したらどうだったかを検証していくなど、全社的課題を委員会活動で全社一丸となってレベルアップに取り組み、効果が出てくるに従い会社の業績も回復してきています。

自社の魅力は自社と同友会で

 こういった形でさまざまなレベルアップを目指し、全社的に会社を強くしていこうとする吉野氏ですが、建設業という業界全体が抱える問題にぶち当たります。

 建設業は現在、慢性的な人材不足にあえいでいます。ある日、吉野氏がハローワークに行き、下関市の35歳以下で建設業に就業したい人を検索したら、志望者は0人だったことがありました。ハローワークに行ってこんなものなのか・・。若者に希望されない建設業全体の魅力の無さに衝撃を受け、「これからは業種を越えた会社の魅力が無いと若者に選ばれる会社になれない」と、大きな危機感を持ちます。

 他社にない会社の魅力と言ってもなかなか一朝一夕にはできません。そんな魅力づくりのひとつに一役買ったのが山口同友会の行う「新入社員合同入社式」でした。今年、新卒採用できる機会に恵まれ、合同入社式に参加します。小企業で入社式をやっている会社はあまりなく、新卒社員に何かしてあげたいとの思いから合同入社式に連れて行きます。吉野氏はそこで、自社だけでは出せない魅力を同友会との関わりから見つけています。

 「新卒社員が、同業他社の友達同士との情報交換で『入社日なのに、今日は草むしりから始まったよ』と言うことを聞き、社員を大切にする自社の姿勢を、自社のひとつの魅力として感じてくれていることになればと思っている」と吉野氏。

 合同入社式をきっかけに、同友会と積極的に関わることが、新しい仲間との出会いや他社とは違った魅力を出すことにつながることに気づき、例会参加・社員共育活動などますます積極的に参加しています。

業務内容

会社概要

設 立:1978年
業務内容:法面保護工事、交通安全施設設置工事の施工管理
従業員数:14名
所在地:山口県下関市楠乃5-9-12    
TEL:083-256-5571
URL:http://www.geocities.jp/mikado_kousetsu/