【第33回】新卒採用で職人から技術者集団へ トマル電気工業(株) 代表取締役 都丸 亮一氏(埼玉)

都丸社長

トマル電気工業(株) 代表取締役 都丸 亮一氏(埼玉)

ブース訪問ゼロからのスタート

社屋

 1991年に、務めていた大手自動車メーカーを31歳で退職し、父親が社長を務めていたトマル電気工業(株)に入社した都丸亮一氏(埼玉同友会会員)。同社は発変電所電気工事の設計・施工・管理などを主な業務とし、安定した業績を上げてはいたものの、社内に人を育てる仕組みができていなかったため新人が育たず、「自分の将来像が見えない」と、希望を持てずに社員が辞めてしまうようなことが繰り返されていました。

 「求人ができる会だから入ったほうがいい」との勧めから、父親が都丸氏の入社を見越して入会した埼玉同友会の共同求人委員会にすぐに参加します。ところが1年目にブースを訪れた大学生は信じられないことに一人もいませんでした。バブル時代の終盤で中小企業の求人は厳しい状況ということを差し引いても、あまりに厳しい現実でした。「そんなときに、親身に相談相手なってくれたのは同友会の先輩方。アドバイスを受けて、会社の魅力を伝えるために、当時はまだ手つかずだった会社案内などの広報ツールの作成にも着手しました」と都丸氏。採用できる企業を目指した若き後継者のチャレンジの始まりでした。

会社への思いを共有できる社員をつくる

 1994年、総務部に4大卒の女性を初めて採用します。それまでは総務は年配の女性社員たちが担当していましたが、業務効率が悪いし会社への不満が多く、決してよいとはいえない雰囲気の中での思い切った配置でした。

 その新卒の女性社員は、指示がなくても、都丸氏と顧客とのやりとりをメモにとるような心配りがあり、その優秀さから将来は総務を背負ってたつような人材になると都丸氏は直感していました。その女性社員が古い社風に染まってしまわないように、外出に同行させる機会などをつくるようにし、会社に対する思いについて何度も話をして、方向性を共有するようにしました。「自分もまだ社長になっていなかったので、ああしろ、こうしろという上から指示を出すようなスタンスではなく、こういう会社をつくりたいよね、という感じでした」と、都丸氏は当時を振り返ります。

 この女性社員は、翌年に新卒採用した短大卒の女性と二人で、後に社内規定の整備などシステムをつくりあげ、総務の礎をつくりました。何年かすると総務の仕事はしっかりとしたシステムの下、先輩から後輩に引き継がれる風土が出来上がりました。夫の転勤などやむを得ない状況でもない限り、会社が不満で辞める女性社員はいなくなりました。「今では女性の新卒採用の際の面接には女性社員に同席をしてもらっています。会社の風土と合う人かどうか、私とは違う目線で見て、的確に意見を言ってくれます」と都丸氏は言います。

職人気質から技術研修へ

研修の様子

 一方現場では古い職人体質の会社からの脱却が課題でした。技術研修のシステムもなく先輩たちがどなりちらすような雰囲気があり、若手社員の不満がまん延していました。都丸氏は「必ず会社を変えるから」と説得し、全体会議では個人攻撃にならないように「こういう場合はこういう対処が適切ではないか」と問題を共有するようにしました。

 次第に、会社を変えていくべきだという声が中堅の社員たちから上がるようになり、自ら技術研修を行うような風土へと変化が起きました。1999年に都丸氏は社長に就任し、現在では52名の社員のうち、6割が都丸氏の採用した社員となりました。ビジョンを明確にし、経営指針を作成し、年に一度全員に発表するというスタイルも定着し、「他社との差別化集団をつくる」という都丸氏の思いが浸透してきました。

作業の様子

 そのことは数字しても現れ、会社の技術力の評価が、変電所工事を請け負うライバル30社中1位という快挙へとつながったのです。これが社員の誇りになり、仕事の正確さは更に高まるようになりました。「地域のナンバーワンではなくオンリーワンを目指そう」と社員をリードしてきた都丸氏は今確かな手ごたえを感じています。

新卒採用で会社は変わる!

 社内のシステムがきちんと機能するようなるにつれ、社長の権限を部長権限にするようにしました。「最初は何でも私の指示を仰ごうとしていましたが、あなたはどう思うの?と、逆に質問し、考えてもらうようにしてきました。そうすることにより、自分で考え行動できる人になってほしいと思うからです。人間性を含めた本当の成長を社員には期待しています」と都丸氏。

 また、会社をよくしようとする風土をつくるための試みとして、グループ討論も開催しています。「トマル電気のだめなところ」「トラブルはなぜ防げないのか」などの討論の中で、それぞれが自分の意見をきちんと言える風土ができつつあります。

 「新卒採用をすることは経営者にとって、大変な覚悟のいることです。今、息子のような年代の若者が入社してくるようになり、定年まで安心して勤められるようにしなくてはと身が引き締まります。求人活動を行うことで、教育環境や、労働条件を整えなくてはならず、経営者のやるべき課題が出てきます。その課題を乗り越えようとすることで、魅力的な会社になるはずです。これからの時代は社長の魅力だけでは人は採用できないし、社員は残らない。会社に魅力がないとだめなのだと思います」と都丸氏は語ります。

社員旅行にて

会社概要

設 立:1960年
業務内容:東京電力(株)発変電所電気工事の設計・積算・施工・管理・各種試験・メンテナンス
従業員数:52名(正社員)
所在地:埼玉県戸田市上戸田3-23-17
TEL:048-441-4080
URL:http://www.tomaru.co.jp