【第30回】地域で連携し、未利用材をエネルギー資源へ(有)内藤鋼業 代表取締役 内藤昌典氏(愛媛)


地域内でお金が回る仕組みづくりに挑戦

 

 面積の8割を森林が占める愛媛県内子町で、木質ペレットの製造販売に取り組んでいるのが、(有)内藤鋼業(内藤昌典社長、愛媛同友会会員)です。2014年10月の「全国広報情報化交流会in愛媛」でも、エネルギーシフトに関する分科会で報告するなど、活躍しています。

 

 愛媛県内子町はバイオマスタウン構想を進めており、その一環として未利用材を町役場が運営する「木こり市場」で集め、内藤鋼業がペレットを製造販売しています。「木こり市場」では地元山林の間伐材などの未利用材が6850円/1トンで買い取られ、持ち込んだ人の「木こり通帳」に「出荷」として記録されます。おろしたいときは、3000円分は地元商店などで使える「地域通貨券」で、残りは現金(県や町の補助)で支払われる仕組みです。

未利用材を資源に、地域にお金を残す

 

 内子町のバイオマスタウン構想に10年前からかかわっている内藤さんは、「灯油や重油を買うと輸入している大企業と中東にお金が行くだけで地元にはほとんど残りませんが、内子町のペレットを使えば全額が地元に残る。ペレットを使うほど町内にお金が回るようになります。森は油田のようなもので、重要な国産のエネルギー資源です。昨年度は当社で木質ペレットを2000トン製造・販売し、県外からの注文も含めると2500トンで、ペレットは全国的に足りない状況。輸送コストが高くなるため、それぞれの地域の未利用材で地元業者がペレット生産し、雇用を増やし、地域内にお金が回る仕組みを作るべき」と言います。
 内藤鋼業は、もともとは木材加工機械や刃物を販売している会社でした。2000年のダイオキシン排出規制で、おがくずの焼却処分ができなくなって困っている製材所を目の当たりにした内藤さんは、製材所のコスト負担増を抑えるためにペレットを作ったらどうかと提案。関係者と高知のペレット工場に見学に行きましたが、「売れなければごみの形が変わるだけ」と指摘され、販売ルートを確保するためにペレットストーブやペレットボイラーを普及していくことも自らのミッションとしていくことを決意しました。

初年度販売ゼロから、地元で普及進める

 

 内藤鋼業で生産しているペレットは、スギやヒノキの未利用材を材料とした燃焼効率の高い「ホワイトペレット」で、販売価格は1リットル50円。
 しかし、製造初年度の2006年、ペレットはまったく売れませんでした。
 販売ルートを探しているときに、内藤さんは娘が通う地元小学校に日本で初めてペレットストーブが導入されると聞いて見学に行き、町が「バイオマスタウン構想」を打ち出していることに驚きました。
 内藤さんは町内の未利用材を集め、地元工場でペレットをつくり町内企業の活性化と雇用にも結びつけていくことを町に提案。その後、「木こり市場」での未利用材の買い取りの仕組みも整備され、2010年には500トンだったペレットの製造量が、2015年は2500トンを製造するまでになりました。
 今では、内藤さんの勧めでトマトやいちごなどを栽培する地元農家が温室のボイラーを重油から木質ペレットボイラーに切り替えが進んできました。地元の小中学校や幼稚園でも、ペレットボイラーで床暖房が導入されています。

地域で連携し、「えひめペレットクラブ」の立ち上げ

 

 木材のエネルギー利用は大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えない「カーボンニュートラル」な特性があるため、2011年2月には内藤氏が代表になり、県内ペレットユーザー63者による「えひめペレットクラブ」を立ち上げ、CO2排出権を50万円で伊予銀行に販売しました。これは環境省の「オフセット・クレジット(J-VER)」制度を利用したものです。
 この販売益は原木の購入やペレットクラブでエコ出前授業、ペレット工場見学資料、割り箸ペレット運動などに活用されています。

今後の課題~「地域内循環」を高める施策に期待~

 内藤鋼業ではこれらの事業を展開する中で、関連事業だけで5名の雇用を増やしました。
 ところが近年、木質バイオマスの「発電」事業が、政策的にクローズアップされ、ペレットの材料である地元未利用材の急激な値上がりで採算が取れなくなってきているといいます。
 内藤氏は「未利用材は搬出が困難な山奥にもあり、その搬出の仕組みがないのが現状。搬出コストを考えれば、間伐でなく主伐がすすみ、山がふもとから裸になっていく。5000キロワットの発電施設で年間6万トンを使うとなると、日割りにすると165トン。熱効率の悪い生チップを使うので灰も大量に出る。固定価格買取制度も20年という期限付き。一時的に雇用は生まれるかもしれないが、その後はどうなるのか。自治体でも発電所誘致に億単位の予算をつけている。熱利用を優先し、『地域内循環』を高める施策をすべき」と語気を強めます。

会社概要

設 立:1960年
資本金:800万円
従業員数:15名
事業内容:製材・木工機械・工具販売修理ペレット製造販売
所在地:愛媛県喜多郡内子町五十崎甲2126-1
TEL:0893-44-3063
URLhttp://www.naito-kogyo.co.jp/